●ITインフラの規模とシェアで勝負 
マネースクウェア・ジャパン
青木陽二
シニアマネージャー ユーザー企業がハードウェアやソフトウェアなどのIT商材を以前に比べて格段に手に入れやすくなったのは、まぎれもない事実だ。ゼロからシステムを組み上げる場合でも、自動化ツールを積極的に活用する時代である。だが、まとまった規模のITリソースとなれば話が違ってくる。これがAmazon Web Services(AWS)に代表されるクラウドサービス、あるいはITインフラサービスである。
FXオンライン取引サービス会社のマネースクウェア・ジャパンは、業容拡大のタイミングで、自社の基幹業務システムをエクイニクスのデータセンター(DC)へ2013年末までに移転を完了させた。マネースクウェア・ジャパンの顧客からの預かり資産残高は、2009年12月から49か月連続で増え続け、預かり資産残高や顧客口座数ともに、この4年間で3倍余りに拡大させている。FX取引で重要なのは、国内外の金融機関との遅延の極力少ないオンライン取引であり、「こうした条件を満たすDCがエクイニクスのDCだった」(マネースクウェア・ジャパンの青木陽二・システム事業部シニアマネージャー)というわけだ。
エクイニクスは金融サービス事業者同士の相互接続を重視したDCをもっており、この特殊なDCが、いわば「ハブ空港」のような役割を果たしている。ネットワーク設計では、複数の事業者を個別につなぐよりも、「ハブ」を介して接続したほうが効率がいい。エクイニクスは早くからこの点に着目し、自社でDCを設計してきた。つまり、このユーザーにとっては、普通のどこにでもあるDCではなく、自社の業種、業務に適したITインフラをタイムリーに提供してくれるベンダーが必要だった。さらに、もう一つ選定のポイントになったのが、エクイニクスが五大陸に100か所余りのDC設備を運営するグローバルサービスを提供していることである。

エクイニクスのデイビッド・ウィルキンソン・シニアディレクター(左)、エクイニクス・ジャパンの高野薫・アカウントマネージャー 青木シニアマネージャーは、「当社はグローバル展開を視野に入れている」といい、これに対して、エクイニクスのデイビッド・ウィルキンソン・ビジネスデベロップメント・シニアディレクターは「世界均質のサービスを提供できる」といい、今後も期待に応えると自信を示す。「金融ハブ型DC」と「グローバルサービス」は、ユーザーが個々で運営するには負担が大きすぎるITインフラであり、かといってAWSのような汎用サービスでは、金融サービスのニーズに応えきれない。エクイニクスは金融機関だけで800社余りの顧客を抱え、「FX事業者向けのサービスでは世界でトップクラス」(エクイニクス・ジャパンの高野薫・アカウントマネージャー)と胸を張る。こうしたシェアと特殊なITインフラ、そして規模という力技も、今後、ITサービスベンダーが勝ち残る重要な要素といえそうだ。
記者の眼
情報システムに求めるものは
ビジネス環境への適応とすばやさ
この特集では、教育分野とBPO、金融サービスのユーザー企業のIT活用事例をみてきた。ITベンダーにとって気になる選定基準は、なんといっても「早く、安く」情報システムを構築することができて、「業種・業態に合ったITインフラ」をタイムリーに提供できるかどうかという点にある。この条件をクリアする「競争力の高い商材」があれば、中小・中堅のITベンダーも商機をつかむことができる。
もう一つ、取材を進めるなかで明らかになったことは、ユーザーの内製化ニーズが意外に強かったことだ。これまでは、ユーザー社内の限られた数の情報システムの人員では、到底できなかった規模のシステム構築であっても、GeneXusやWagbyなどの開発自動化ツールや、エクイニクスのようなITインフラを丸ごと提供してくれるサービスベンダーを活用することで、内製化のめどがつき始めていることが大きい。
ビジネス環境の変化にすばやく適応するには、情報システムの柔軟な改変が不可欠だ。内製化によって、ユーザーの経営判断に即応したシステムの手直しが可能になり、ユーザーの競争力の向上に直結する。つまり、受託型のソフト開発や、投資の割にはユーザーの競争力向上に結びつきにくいITインフラの売り切り型のビジネスはますます下火になる一方で、情報システムを「早く、安く、自らの手で柔軟に手直したい」というユーザーニーズをつかんだベンダーは、今後、大きくビジネスを伸ばす可能性が高い。