ITベンダーは、2016年の電力小売市場の自由化をにらんで、電力会社向けの提案活動を活発化している。組織を整備し、電力系統を管理する情報システムや競争力を高めるためのコンサルティングなどを訴求して、国内外で「エネルギー×IT」の提案に取り組む。しかし、自由化の詳細が未確定だったり、電力会社の経営状況が芳しくなかったりするので、提案を受注に結びつけることは、そう簡単ではない。どんな切り口が有効なのか──。ITベンダー各社の取り組みを追いながら、提案のシナリオを考察する。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
強い投資意欲
電力会社の「パートナー」になる
ITベンダー自らが電力会社になるというわけではない。ITツールや構築サービスを提供することによって、既存・新規の電力会社をシステム面で支援するのだ。社会の根幹を支える「電力」を生み出して販売する企業を相手に、IT活用を訴求する。ベンダーは、まさに「社会インフラ」を切り口として、電力会社に向けた提案活動を拡大しようとしている。
電力ほど変化が激しい市場はない。2016年の家庭・事業所向けの電力小売りの自由化、原子力発電所の停止などによる電力会社の業績悪化──。ITを駆使して、競争力を高めたり、新規ビジネスを創出して業績の改善につなげたりするニーズが高まりそうだ。
電力会社向けの提案に力を入れているITベンダーは、こう口を揃える。「電力会社のITシステムへの投資意欲は強い」。電力事業を維持・拡大するために、ITの活用に取り組む必要があると判断し、システムに投じる予算を捻出しようとしている。ITベンダーはどのようにして、その予算を手に入れることができるのか。提案法を綿密に練る必要がある。
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電力は発電、送電、変電、配電という流れで消費者に届く。2016年、企業は発電や送配電を手がける事業者から電力を手に入れて、家庭や事業所に販売できるようになる。この措置によって、二つのIT特需が生まれる。
一つは、東京電力や関西電力など既存の電力会社だけでなく、電力小売りの市場に新規参入するプレーヤーに向けたITサービスの提供だ。電力小売事業を立ち上げるために、ITは不可欠。電力市場との取引や電力の監視制御などを行う「需給管理システム」のほかに、料金計算・請求やコールセンターといった顧客接点をつくる「顧客情報管理システム」を用意しなければ、事業は成り立たない(図1参照)。
もう一つ、需要が旺盛になりつつあるのは、既存の電力会社に向けたビジネス展開だ。既存の電力会社は、市場環境を取り巻く激変に対応するために、社内の業務改革と消費者に向けたサービスの拡充が喫緊の課題となる。スマートメーターを活用して柔軟な料金メニューを実現したり、再生可能エネルギーを取り入れてエコを前面に押し出したりするなど、各社が進めている取り組みのバックには、必ずITの仕組みが存在する。
日本に先駆けて家庭向け電力小売りの自由化が行われた海外でITビジネスを展開するベンダーの関係者から、こんな裏話を聞いた。「電力の自由化はいろいろな投資をしなければならないので、電力会社にとってはきつい。お客様の電力会社から『儲かるのは、あなたたちITベンダーだけだ』と、何回も愚痴を聞かされた」。
●今年、構築フェーズに 電力の自由化は、競争の激化とそれに伴う電気料金の下落をもたらす。だからこそ、ITベンダーは単に電力会社にシステムを売り込むのではなく、長期的な「パートナー」になり、ITを武器に収益を上げる電力事業を支援することが求められる。
電力の自由化まで残すところ2年。そろそろシステム導入の検討を終えて、構築フェーズに入らなければ間に合わない。ここ数か月の間、組織を整え、商材を取り揃えてきたITベンダー各社は、今年から案件の受注を見込んで、電力会社向けの提案を実需につなげようとしている。
提案の切り口はさまざまだ。次ページからは、各社の活動にスポットを当てながら、シナリオを考える。
すばやい動きをみせる大手SIer

アクセンチュア
五十嵐慎二 執行役員 3月4日、アクセンチュアの五十嵐慎二執行役員は、電力会社向けのクラウド商材群を発表した。「エネルギー業界に大きな波が来る」とみて、クラウドにコンサルティングを組み合わせて市場開拓を狙う。
今年に入って、ITベンダーの動きが活発になっている。合弁会社の立ち上げ(3月3日、東京電力と日立グループが日立システムズパワーサービスを発足=1~3面に関連記事)やプロ集団の買収(3月24日、NECが蓄電システム事業を手がける米国のA123 Energy Solutionsを傘下に収めると発表)などなど。大型投資を惜しまないベンダーの大胆な取り組みは、電力会社向けIT市場に大きな期待を寄せていることの現れとみることができる。
提案の発想も自由に!「ビジネス」を前面に押し出す
ITベンダー各社はどのような切り口で、電力会社向けIT市場の開拓に取り組んでいるのか。三つのシナリオを紹介する。
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