●ハイリスク・ハイリターン OEM/EMSベンダーがビッグセブンをはじめとする大口ユーザーに対して、ギリギリまでコストを下げられるのは、(1)最小限の営業で済む(2)企画立案や仕様策定はユーザー側でしてくれる(3)大口のロットで発注してくれる(4)在庫や為替のリスクを負わない(5)初期不良の対応程度のサポートで済むという側面があるからだ。
これをユーザーの側からみれば、積極的に営業に来てくれず、仕様はユーザー自身が決めて、仕様ミスによる不具合のリスクもユーザー自身が負う。大口ロットで発注し、在庫や為替のリスクはユーザーもち。サポートは期待できず……となる。GMOインターネットの島原弘和・第二IDCチームマネージャーは、「OCPを使ってみて、既存メーカーの手厚いサポートのありがたみが改めて実感できる」と吐露する。つまり“安い”のには、それなりの理由があって、ビッグセブンはこうしたリスクを負うことで、ライバル他社よりもコストを抑えている、いわば「ハイリスク・ハイリターン」であることがOCPの姿なのだ。
この4月に本格的にOCPの検討に着手したNTTコミュニケーションズは、「OCPを単なるホワイトボックスだと捉えたら大間違い」(林雅之・クラウドサービス部販売推進部門主査)と指摘する。ホワイトボックスとは、ノーブランドのパソコンやサーバーを指し、ユーザーが好きなパーツを組み合わせて組み上げる、いわゆる「自作パソコン」や「BTO(注文仕様での組み立て)」のようなニュアンスだ。OCPの場合、自ら運営するDCに最適化させるための「マザーボードの設計から電源に至るまで徹底的につくり込む」(同社の安達伸哉・先端IPアーキテクチャセンタ担当部長)。実際に期待した効果が出るかどうかのリスクはユーザーが負うわけだが、これではあまりにもリスクが高いので、OCPという場に関係各社の技術者が集まり、知見やノウハウの交換を行う。OCPの活動を通じて集合知を形成することで、リスクを低減しているわけだ。
●OCPノウハウを採り入れる 
ビットアイル
長谷川章博 所長 だが、OCPに準拠した製品の生産が増えるに従って、OEM/EMSベンダーから「OCP準拠製品」なる半既製品が出てきたり、1万台を下回るロット数でもフルカスタマイズに対応してくれたりと、ベンダー側の企業努力も効を奏し始めている。総数約6000ラック規模のDC設備を運営する独立系最大手のビットアイルは、「OCPはあくまでもDC運営にかかるノウハウの集合知であり、ソフトウェアにたとえれば『ソフトウェア開発キット(SDK)』のようなもの」(長谷川章博・ビットアイル総合研究所所長)と捉える。
OCPはサーバーの設計だけでなく、サーバーを収納するラック、電源まわり、DC建屋全体の冷却方式まで多岐にわたり、これをすべて自己責任で設計しようとすれば、DC事業者やユーザーにとってあまりにリスクが大きい。OCPの活動を通じて、ある程度の実績に基づく「SDK」がまとめられていれば、「DC事業者やユーザーは、部分的であれ、OCPのノウハウに基づく設計や機材を導入しやすい」(長谷川所長)と話す。

IDCフロンティア
大屋誠 副本部長 大手DC事業者のIDCフロンティアは、OCPのノウハウを採り入れたストレージシステムを業界に先駆けて構築中である。複数のストレージを組み合わせた分散システムアーキテクチャを採用したもので、「できるだけ早いタイミングで商用サービスを始めたい」(大屋誠・技術開発本部副本部長兼R&D室室長)と意気込む。ストレージサービスは、サーバーリソースの貸し出しと同様、価格競争が激しい領域なので、ライバル他社よりもコストを抑えて競争力の向上につなげる。
「ベアメタルクラウド」の台頭
変わる「クラウドのアーキテクチャ」

データホテル
伊勢幸一 執行役員 ハードウェアが安く調達できるようになることで、「質的」な変化も現れてくる。それが「ベアメタルクラウド」だ。仮想化せずにOSをハードウェアに直接乗せる方式であるが、しかし、同時にスケールアウトにも対応させる。
仮想マシンであれば、ソフトウェアなので起動したり、消滅させたり、ネットワーク上を移動させたりと自由に操れるが、物理マシンの場合は「サーバーファーム」などと呼ばれる在庫を抱え、必要に応じて電源を入れて、ユーザーの求めるOSやミドルウェアをインストールして使う。これまでは稼働まで早くて数時間、場合によっては事前にユーザーに申請してもらい、数日後に稼働となる。これでは仮想マシンの使い勝手とはほど遠いものがあったが、ハードウェアが安くなり、サーバーファームをある程度の規模で保有できるようになれば、「短時間で稼働させることは技術的に可能」だと、ベアメタルクラウド研究の第一人者であるデータホテルの伊勢幸一・執行役員チーフテクニカルアーキテクトは、数分・数十分で物理サーバーのリソースを増大できる可能性を指摘する。
仮想マシンは、もともと高価なハードウェアを効率的に活用することを目的として、メインフレーム時代から培われてきた技術だが、OCPの取り組みによってハードウェアの価格が下がれば、オーバーヘッドロスのないベアメタルクラウドが台頭する可能性がある。OCPの関係者によれば、実際、FacebookやGoogleなどはベアメタルクラウドに積極的に取り組んでいるといい、クラウドそのもののアーキテクチャが、今後、大きく変わることも十分に考えられる。
記者の眼
既存メーカーのx86サーバーは
UNIXやメインフレームと同じ文脈に
OCPのようにユーザーとOEM/EMSベンダーの直接取引が広がれば、既存のサーバーメーカーのビジネスはどうなるのだろうか。現段階では少なくとも国内に限っては、メーカーの手厚いサポートを求めるDC事業者やユーザーが多いので、一気に既存メーカーのビジネスが損なわれることはないかもしれない。だが、あるDC事業者の幹部は「メーカーにおんぶにだっこの状態では、Amazon AWSとの競争に勝てない」と、危機感を強めている。
中長期でみれば、x86サーバーも、UNIXやメインフレームのように高信頼性やミッションクリティカルな分野で活用され続ける。OCPはスケールアウト型のアーキテクチャに特化する傾向が強く、「クラウド系サービスには適していても、金融系の基幹業務システムには適していない」(ITベンダー幹部)というわけだ。現状の業務アプリケーションの多くは従来型のアーキテクチャを採用していることから、すでに成熟しているUNIXやメインフレームのビジネスと同じ文脈で、既存メーカーのx86サーバービジネスも発展していくとみられる。