「SDN(Software-Defined Network)」は、これまで「技術」の領域にとどまり、「実ビジネス」につながる糸口が明確になっていなかった。しかし、ここにきて事業化のフェーズに入ろうとしている。調査会社のIDC Japanによると、国内SDN市場は2017年までに800億円規模に拡大する。インテグレータは、どのようなかたちでSDNのビジネス化を図っているのか。この特集では、SDNへの取り組みに力を注いでいるインテグレータ3社の活動状況を追う。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
事業化の「黎明期」
DC→通信キャリア→企業で拡大
●さあ狙おう! 三つの市場 ソフトウェアを使ってネットワークを構築するSDNの市場が本格的に立ち上がりつつある。調査会社のIDC Japanは、国内SDN市場は2017年までに約800億円に伸びると予測している(図1参照)。SDNのターゲットになるのは、データセンター(DC)運営会社、通信キャリア、エンタープライズ(大手企業)の三つの領域だ。
先行してSDNの導入に取り組んでいるのは、価格競争が激しいDC運営会社だ。SDNによってネットワーク運用費を削減し、収益を向上しようとしている。DC運営会社は、システムインテグレータ(SIer)であることが多い。自社で構築スキルをもって、SDNをつくる。だから、DCを運営するSIerにとって、SDNビジネスというのは、自社でSDNを活用して競争力を高めることと、SDNの構築サービスとして他社に提供することの二つを指している。
例えば、インターネットイニシアティブ(IIJ)は、東京や大阪、島根県松江市などでDCを運営している。同社は、IIJとACCESSの合弁会社であるストラトスフィアと連動して、エンタープライズ向けのSDN提案を進めながら、自社DCへのSDN導入を検討し、実証実験を行っている(12面参照)。
SDNは、NECをはじめとする大手メーカー系がリードするかたちで、技術開発が活発に進んでいる(図2参照)。SDNに取り組むインテグレータが強く意識しているNECは、今年3月、米ヒューレット・パッカード(HP)と企業向けSDN領域で協業することを発表した。技術の連携を図り、ICT(情報通信技術)基盤全体の仮想化と自動化に取り組むという。
メーカー同士の連携は、インテグレータにとっての商機を生む。ネットワーク構築に強い兼松エレクトロニクスは、NECのSDNコントローラとデルのスイッチを組み合わせて、中堅企業が導入しやすい仕組みとして提供している(12面参照)。SDNの主なターゲットであるDC運営会社と、2016年以降に需要の高まりが見込まれる通信キャリアは、自社独自にSDNを構築したり、プレーヤーの数が限られたりするので、提案先としてうまみに欠ける。将来のSDN市場のけん引役になりそうなエンタープライズ領域に着目し、早い段階で企業向けSDN商材を揃えることが需要取り込みのカギになる。
●2017年以降も成長 
IDC Japan
草野賢一
リサーチマネージャー IDC JapanでSDNの調査を統括するコミュニケーションズ リサーチマネージャーの草野賢一氏は、「2017年以降も、SDN市場は成長を持続する可能性が高い」とみている。IDC Japanの見解が裏づけるように、SDNは「有望市場」になりつつあるようだ。しかし、直近では、SDNの活用シーンやそれに伴う商材づくりについて読めない部分が多いのも実際のところだ。
事業化の糸口を模索しているインテグレータ。どのようにすれば、SDNという概念を実ビジネスにつなげることができるのか。次ページからは、ユニークな取り組みを進めている3社にスポットを当てて、SDN事業化のヒントを探る。
「SDN」で何がどう変わる?
SDNとは、「Software-Defined Network」=ソフトウェアによってネットワークを定義(構築)することを意味する言葉の頭文字をとった用語である。
SDNが誕生する以前は、機器を切り替えてデータを転送するスイッチや、ネットワーク上を流れるデータをほかのネットワークに中継するルータなどのハードウェアを使って、ネットワークを構築していた。SDNでは、これらの機能をソフトウェアによって実現するので、ハードウェアが不要になる。これによって、ネットワークの構成が柔軟になり、拡張しやすくなるといったメリットがある。
SDNの登場によって、IT企業は、ハードウェアの構築からソフトウェアの開発へとネットワーク事業の主軸が変わるほどのインパクトがある。
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