事例_3 NTTデータ
「ソフト」でSDNを商材化
SDNの案件は、設計、ソフトウェアの開発、調達、構築、運用という流れになっている。従来型のネットワーク構築に、ソフトウェア開発の部分が新たにつけ加わるというわけだ。これは、NTTデータなど、ソフトウェア開発を得意とするSIerにとっての商機になるが、ユーザー側にとっては導入コストが上がることを意味する。
そんななかにあって、SIerはSDNを提案する際に、SDNなら運用の効率がよくなって運用費が下がり、ソフトウェア開発にかかる費用をカバーすることができる、ということを訴える必要がある。
●SDNで遅延時間を短く NTTデータは、ソフトウェア開発とSDNのシステムとの連携の二つを、SDNビジネスの主な糸口としている。通信キャリアやエンタープライズに対して、提案活動に取り組んでいるところだ。
「従来型のネットワークと比べ、ソフトによっていかに新しい機能を提供することができるかが提案のキモになる」(基盤システム事業本部の永園弘課長)と捉えている。「例えば、キャンペーンなどで、ネットワークへのアクセスが一時的に増大した場合、SDNによってレイテンシ(遅延時間)を下げるといった活用シーンが考えられる」という。
NTTデータでは現在、SDNの取り組みが研究開発からテスト導入のフェーズに入ろうとしている。テスト導入が将来、全面導入につながり、SDNが売り上げに貢献するめども立っているという。SDNは、ネットワークの運用を効率よくするという特徴から、SIerによって運用の仕事が少なくなったり、ゼロになったりする。だからこそ、いかにソフトウェア開発の領域で稼ぎ、ユーザー企業に新しいネットワーク機能を提案するかが、SDNをビジネス化するうえでのポイントになる。
「使うSDN」へ

NTTデータの永園弘課長。基盤システム事業本部 システム方式技術ビジネスユニット 第三技術統括部 第三技術担当を務め、SDNの事業化をミッションに掲げている 「SDN(という言葉)は消えてしまったほうがビジネスになる」──。NTTデータでSDNの事業化に携わっている永園弘課長はそう断言する。氏にビジネス化の難しさについてたずねた。
──SDNをどう捉えているか。 永園 SDNは技術でもなく、プロダクトでもない。概念だからこそ、事業化しにくいという側面がある。かつてのLinuxのように、SDNも現時点では一つのブームに過ぎないとみている。今後、ビジネスにつなげるためには、概念や言葉のレベルを超えて、ユーザーがメリットを享受できる「使うSDN」に発展させなければならないと考えている。
──SDNに関わる技術者の不足も問題のようだが……。 永園 現在、約20人のチームで、SDN案件の獲得に動いている。正直、案件はいくらでもある。問題は、SDNは定価のない世界なので、適正な価格設定が難しいということ。値づけを模索していて、結局、いくらの売り上げが入ってくるかがわからないなか、限られた開発リソースをどの案件に投入すればいいのか……。その判断の難しさが悩みの種だ。
──課題をどう解決していくのか。 永園 大学でSDN関連の研究が活発になっている。アカデミックなコミュニティと密に連携を取って、優秀な技術者を確保したい。
いってみれば、今の20人のチームは、NTTデータのなかの“ベンチャー企業”だ。今後も、人数を増やしながら、チームとして食っていけるよう、数億円程度の売り上げを稼がなければならない。全力を上げて、SDNの事業化を成功させたい。
記者の眼
SDNのビジネス化は決して、短期間で実現できるものではない。しかし、サーバーの分野と同じように、ネットワークの領域でも仮想化の流れを止めることはできないだろう。SIerやネットワーク構築を手がけるベンダーは、SDNに必要なスキルを早めに身につける必要がある。
IDC Japanの調査やこの特集で紹介したベンダーの発言から、SDNの可能性が感じられる。ビジネス化の糸口もここにきて明確になりつつあるので、今後、実際の構築・活用事例が出てくれば、SDNの普及が活性化する可能性が高い。カギを握るのは、エコシステムづくり。メーカーとインテグレータ、インテグレータ同士が連携して、うまく力を合わせれば、SDNの実ビジネスにつながるはずだ。