データセンター(DC)の需要は拡大の一途をたどっている。これに伴い、DCの運用管理を効率化するソリューションの需要が拡大している。このようにIT機器やネットワークについては運用管理に力を入れる動きが活発化しているものの、見落とされがちなのがエネルギー管理の問題だ。東日本大震災以降の電気料金の値上がりは、DC運用の大きな負荷になり、収益力の低下を引き起こしている。そこで注目を集めているのが、「DCIM(Data Center Infrastructure Management)」だ。普及が進めば、ITベンダーのビジネスの構造を変える可能性がある。(取材・文/本多和幸)
市場は黎明期 先行者利益を求めるベンダーが動き始める
DCIMの基本的なコンセプトは、空調設備や電源まわりなどのファシリティを含むDC内のエネルギー消費とIT機器の統合的な管理をソフトウェアで実現し、DC運用の効率性とコストを最適化するというものだ。DCに関連するビジネスに携わるプレーヤーの間でようやく認知され始めてきたソリューションだが、実際に、日本ではどの程度浸透しているのだろうか。
●国内の普及率は0.5% 
IDC Japan
伊藤未明
リサーチマネージャー 調査会社のIDC Japanによれば、国内DCのDCIM普及率は0.5%にしか過ぎない。調査を担当した伊藤未明・ITサービスリサーチマネージャーは、「DCIMは、本来、消費電力のモニタリングやコントロールなど、機能別のモジュールのスイート製品だが、この調査結果は単一機能のみの導入箇所も含んでいるので、実際はもっと少ないかもしれない。いずれにしても、市場規模を数字で語る段階にはない」と話す。
IT先進地域である北米、そしてグローバルの状況を俯瞰してみよう。調査会社の米451 Researchは、グローバルのDCIM市場について、年平均44%の成長率が見込まれる市場で、2016年には市場規模が18億3800万ドルに達すると予想する(下図参照)。一方で、米IDCが見積もる市場規模は、同じく2016年で6億9000万ドル。かなりの差がある。これは、識者や市場の関係者にとってDCIMの市場が拡大するという共通認識はあるものの、そもそものDCIMの定義や市場の成長スピードについては捉え方にバラツキがあることを示している。世界的にも市場が黎明期であることの証といえそうだ。伊藤リサーチマネージャーが外資系ベンダーの幹部などにヒアリングした結果でも、「日本と北米を比べて、DCIMの普及率の肌感覚に大差はない」という。
●国産ベンダーに参入の動き ソリューションベンダー側は、どのような動きをみせているのだろうか。国内外で普及の度合いに差がないとしても、DCIMソリューションの供給ベンダーは外資系企業が圧倒的に多い。伊藤リサーチマネージャーは、「北米では、DCIMベンダーは数年前に雨後の竹の子のように出てきたが、市場が急激には伸びなかったので、現在は関連企業の再編が進んで統合フェーズに入っている。一方、日本のベンダーはようやく参入を始めた段階。供給側としてみれば周回遅れだ」と指摘する。外資系ベンダーを含めても、日本市場でDCIMソリューションを提供している、もしくは提供する予定があるベンダーは、それほど多くない(下表参照)。
しかし、東日本大震災を境に、日本ではDCの運用でエネルギー管理の重要性が強く意識されるようになった。さらに、DC事業者や、DCを利用しているサービスプロバイダの間では、サービスインフラをリアルタイムで管理・制御することで、コストを削減するだけでなく、自らのサービスレベル向上につなげようという動きが顕著になってきている。両者とも、DCIMの導入で大きなメリットを得られる。
現時点では、「読めない」市場である国内のDCIM市場だが、それでもいくつかのベンダーは、先行者利益を得ようと日本市場での動きを活発にしている。以下、DCIMベンダーの動きにスポットを当てて、どんなソリューションを武器に、どう市場を切り開こうとしているのか、各社の戦略を探る。
DCIMへの注力を鮮明にするエネルギー管理最大手 シュナイダーエレクトリック
SIerの新しいビジネス基盤に

有本 一
本部長 エネルギー管理分野の最大手ベンダーであるシュナイダーエレクトリックは、今年4月、日本市場でもDCIMに力を入れることを明らかにした。有本一・ビジネス・デベロップメント本部長は、その背景について、「DCの運用コストは3分の1が電気料金。震災以降の料金値上がりで、運用コストを低減できるかどうかが死活問題になっている。さらに、ITが進化するにつれてDCの運用管理はどんどん複雑化しており、ITとファシリティを一体で管理しなければ、運用コスト削減のニーズに応えられなくなってきている。そのための基盤となるのがDCIMだ」と説明する。
DCの運用に関連するビジネスに詳しい識者の一人は、「現状、DCIMのコンセプトを完全にカバーできる製品のポートフォリオをもっているのは、シュナイダーくらいではないか」と話す。同社の動きが国内でのDCIM普及のカギを握る可能性は高い。一方で、「シュナイダーの製品は高額過ぎるので、市場のデファクトスタンダードにはならない」とみる競合ベンダーもいる。そうした見方に、有本本部長は、「ソフトウェアそのものは、シュナイダーのハードウェア使用を前提としないニュートラルなもので、価格が特別高いとは思っていない。DCIMはワンサイズ・フィッツ・オールのソリューションではない。すべてのモジュールを導入すれば高くなるかもしれないが、中小のDCでも十分に投資対効果を感じてもらえるラインアップがある」と真っ向から反論する。
また、「国内のビジネスはパートナーがいないと成り立たない」という有本本部長。DCIMを国内に本格展開するためのパートナー戦略も定めた。販売を手がけるパートナー、導入を手がけるパートナー、その両方を手がけるパートナーの3種類のパートナー網を構築し、教育プログラムも立ち上げる。
さらに有本本部長は、「DCIMは、SIerにこそ注目してほしい商材。従来型のSIビジネスが縮小していくなかで、新しいビジネスの基盤になる可能性がある。ITとファシリティの両方に精通しているベンダーは、ニーズがあるにもかかわらず少ない」と強調する。パートナー拡大に向けて、SIerがビジネスのレイヤを広げるための商材であることもアピールしていく。
[次のページ]