x86サーバーにけん引され、国内のサーバー市場は伸びている。IBMのx86サーバー事業のレノボへの売却や、2015年7月にサーバーOS(基本ソフト)「Windows Server 2003」のサポートが終了することが、市場に新たな刺激を与えつつある。各社は、どんな戦略でビジネス拡大に動くのか。この特集では、国産と外資系の主なサーバーメーカーに取材し、2回に分けて、彼らの最新の取り組みをレポートする。(取材・文/ゼンフ ミシャ)
2分でわかる国内サーバー市場 マーケットのけん引役は「x86」
情報システムの基盤を成すサーバーは、販売が大きく伸びたり、急に落ち込んだりするような市場ではない。クラウドの普及によって、データセンター(DC)向けサーバーの販売が活性化している。これまでのサーバーユーザーの主役だった企業が、クラウドの時代になったからといってすべてのシステムをクラウドに移行するというわけではないので、企業向けサーバーの需要も相変わらず根強い。ITベンダーにとっての課題は、単体では利幅が薄いサーバーをいかにほかの製品と組み合わせ、周辺サービスを提供することによって、利益を捻出するかである。
直近では、チップメーカー、インテルのアーキテクチャを採用し、パソコンと同じ設計を特徴とする「x86サーバー」(PCサーバー)の販売が伸びている。調査会社のIDC Japanによると、2014年1~3月の国内サーバー市場の出荷金額は前年同期比3.1%増の1242億円、出荷台数は同13.6%増の16万4000台。成長のけん引役は、x86サーバーだ。x86サーバーの出荷金額が前年同期比17.0%の増を記録し、すべて2ケタのマイナスとなったほかのサーバー製品を大きく引き離した。2014年1~3月は、大口案件が活発なほか、4月1日の消費増税前の駆け込み需要が市場に刺激を与えたとみられる。
26.4%のシェアでトップを獲得したのは、富士通だ。同社は、x86サーバーで通信事業者向けとITサービスプロバイダ向けに複数の大口案件を獲得し、ビジネスを伸ばした。2位はNEC(21.3%)、3位は日本ヒューレット・パッカード(日本HP、15.9%)、4位は日本IBM(10.1%)、5位は日立製作所(9.0%)。市場には、国産と外資のプレーヤーがひしめき、メーカー間の競争が激化している。
市場を動かす二つの波 IBMのx86売却、「2003」のリプレース需要
●国産の「安心」を売り込む 日立製作所(日立)の営業担当者がサーバーの提案に使うプレゼンテーション資料のなかに、とっておきのスライドがある。具体的な構成例によって、日立の企業向けエントリサーバー「HA8000」の総額が、外資系ライバルの日本IBMが提供する同じスペックのサーバーよりも安いということを示す内容だ。日立は、このスライドを顧客に見せて、国産メーカーのサーバーは値段が高いというイメージを払しょくしている。プラットフォーム販売推進本部第1パートナービジネス部の高群史郎部長は、「価格の比較が功を奏して、数社の販売会社から、新規で『日立サーバーを販売したい』という申し出をいただいている。当社製品を取り扱うパートナーを増やして、案件の獲得につなげたい」と意気込みをみせている。
日立のほかにも、富士通やNECなど、大手の国産サーバーメーカーはこのところ、日本IBMを強く意識して、提案活動を行っている。その背景には、今年1月に発表された、IBMのx86サーバー事業のレノボへの売却という事実がある。現在、日本IBMとレノボ・ジャパンは、急ピッチでx86サーバー事業の移行に取り組んでいる(6面に関連記事)。移行が完了した後、IBMのx86サーバーを、レノボの子会社「レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ」がレノボ製品として販売することになる。
そんな環境下にあって、国産メーカーは、金融機関や官公庁を中心に、中国メーカーであるレノボのサーバーを使うことに対して懸念を抱くユーザーに営業をかける。価格を抑えながら国産メーカーならではの「安心」を提供することを訴求することによって、サーバーの置き換え案件の獲得を狙うのだ。
●「2003」の商機、つかむ支援 冊子の表紙を飾るキャッチーな見出しが目を引く。「移行に迷っていませんか?」(日立)「お気づきですか? 古いサーバは危険です!」(NEC)などなど。
最近、サーバーメーカー各社が提案の材料にしているのは、サーバー用OS(基本ソフト)「Windows Server 2003」の2015年7月のサポート終了によるリプレースの特需だ。NECは、「サーバ置き換えのススメ」と題した冊子を2万部作成して販売会社やユーザー企業に配布している。イラストを交えて置き換え方法などをわかりやすく説明し、販社の営業活動やユーザー企業の決断を促すための種まきにする。日立も、リプレースの際の課題と解決策を説く「移行の手引き」を販社に1万部配るなど、販社の提案活動を支援している。パートナーへのサポートを拡充することで、「2003」の商機をつかむことを後押しする。
これからリプレースを提案しようとしている、あるサーバー販社の営業担当は頭を抱える。「お客様のサーバー利用の現状把握ができておらず、どの順番でどこに提案に行けばいいかがわからない」。日本マイクロソフトによると、国内でWindows Server 2003かそれ以前のバージョンで動いているx86サーバーの台数は約30万台に及ぶ。これらのリプレースは大きなビジネスチャンスになる一方、ITベンダーは、利用状況を把握するために、営業リソースをかけなければならないので、利益面での阻害要因になる。
●販社に稼働情報を提供 そんななか、富士通は、サーバーの販売会社に稼働情報やそれらを管理するための環境を提供し、パートナーの営業活動をサポートしていく。環境には、絞り込みといった機能を盛り込んで、訪問する先に優先順位をつけやすいようにする。販社向け支援策に力を注ぐことによって、リプレースの提案を行ってもらうことを促し、受注に結びつけるという戦略だ。
サーバーメーカーは、IBMのx86サーバー事業のレノボへの売却や迫っているWindows Server 2003のサポート終了を受け、活発に動き始めている。次ページからは、日本IBMのほか、富士通、NEC、日立の取り組みにスポットを当てて、各社の事業拡大に向けた動きを詳しくみていく。
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