Google(ラリー・ペイジCEO)は、日本市場でも、エンタープライズビジネスで攻勢をかけている(詳細は6・7面)。これに伴い、ユーザーに商材をデリバリするパートナーにも、新しい動きが出てきている。革新性を武器に、クラウドネイティブな商材を市場のアーリーアダプタに訴求してきたGoogleだが、各領域に強力な競合が存在し、保守的なユーザーが多い日本市場で、どんな成果を上げられるのか。パートナーの動向を通して展望する。(取材・文/本多和幸)
Google Apps
通信キャリアが販売の主役に躍り出る 「モバイル」を軸に市場を変革
Googleのエンタープライズビジネスの主軸は、2007年の有償サービス開始以降、クラウド型グループウェアの市場を切り開いてきた「Google Apps for Business」だ。そこに大きな変化が起きたのは、昨年後半。従来、ソフトバンクテレコムが最大手の販売パートナーとして顧客基盤の拡大に大きな役割を果たしてきたが、NTTドコモ、KDDIもパートナーに名を連ね、三大通信キャリアがそろい踏みすることになった。後発の競合であるマイクロソフトの「Office 365」が急激な伸びをみせるなか、こうした動きは「Google Apps」の日本市場での盛り返しを大きく後押しする可能性がある。キーワードは「モバイル」だ。
ソフトバンクテレコム
世界No.1代理店、IT環境構築をまるごと受注 「Google Apps」は最強のドアノックツール
●累計販売数が90万IDを超える 
中塚博康
統括部長 ソフトバンクテレコムは、「Google Apps」の販売を手がけてちょうど3年が経過した今年3月末時点で、累計販売数が90万IDを超えた。「世界No.1」の販売実績をうたう。
法人営業の前線に立って、「Google Apps」を含む同社の商材全体を売る営業担当者は全国で約2500人。さらに、「取次パートナー」という協力企業も存在する。ライセンスの販売はソフトバンクテレコムがエンドユーザーに直接行うが、「取次パートナー」は、同社に案件を紹介することで手数料を得られる仕組みだ。これらが販売活動の主体となっている。
同社の法人営業にとって、「Google Apps」は新規ユーザーに対する最も有効なドアノックツールだという。中塚博康・営業・事業推進本部データ・クラウド事業推進統括部統括部長は、「当社とまったく取引がなかったユーザーと、『Google Apps』をきっかけとしておつき合いが始まるケースは非常に多い。営業担当者も、以前はモバイル端末、電話、ネットワークという限られた領域でビジネスをしていたのが、アプリケーションの領域まで語るようになったことで、クロスセル、アップセルに確実につながっている」と、手応えを語る。
●市場環境そのものを変える ただし、「Google Apps」は、Googleの先進性を評価したアーリーアダプタへの普及が一段落した感がある。競合の「Office 365」は、既存のオンプレミスシステムと共存しやすいことから、マジョリティ、つまり、より保守的なユーザー層に訴求し、日本国内で大きく実績を伸ばしている。それでも中塚統括部長は、「Google Apps」を、「まだまだ伸ばしていける商材」と評価する。事実、同社の事業計画で「Google Apps」の売り上げは、対前年度比で最も高い伸び率を設定している。
その最大の根拠は、モバイルとの親和性の高さだ。「ワークスタイルの変革を後押しする動きとして、アプリケーションのクラウド化やモバイル化のトレンドはさらに拡大するだろう。『Google Apps』は、クラウドネイティブなコラボレーション/コミュニケーションツールという点で、競合製品よりも確実にすぐれている。日本には保守的なユーザーが多いとはいえ、市場環境は常に変化している。オンプレミスとの共存がデファクトであり続けるとは限らない」(中塚統括部長)とみている。ソフトバンクテレコムは、モバイル端末から通信サービスまでワンストップで提供できるだけでなく、モバイル通信のインフラ整備も主体的に進められる通信事業者である。従来の「本業」と、新規顧客開拓に有効な商材である「Google Apps」のシナジーにより、顧客基盤の拡大を加速させることが可能だと見込んでいる。
NTTドコモ、KDDIという通信キャリア大手が「Google Apps」パートナーに参入したことで、パートナー間の競争も激化している。しかし、「実績がまったく違うし、当社グループはユーザーとして『Google Apps』を全面的に導入し、使い倒している。だからこそ、お客様に説得力のある提案ができる。これは他のキャリアには真似できない」(中塚統括部長)と、自信をのぞかせる。
●あくまでもSaaSを中心に 一方で、今年4月からGoogleが日本でも本格展開を始めたIaaS/PaaS商材の「Google Cloud Platform」については、ソフトバンクテレコムはビジネス上の位置づけをまだ明確にしていない。「IaaSやPaaS上に個別にシステムやアプリケーションを構築するということは考えていない。あくまでもSaaSビジネスが中心」と、中塚統括部長は話す。同社にとってGoogleの商材は、再販で大きな利益を上げるためのものというよりは、顧客のIT環境構築を一体的に受注して、顧客基盤を強化・拡充するためのトリガーといえる。
「Google Apps」にも含まれるオンラインストレージの「Google ドライブ」では、ビジネス向けの容量無制限のプランも登場した。中塚統括部長は、「クラウドのファイルサーバー需要は非常に大きく伸びており、メールシステムやグループウェアという領域にとどまらない提案ができるようになる」と、「Google Apps」の進化にも大きな期待を寄せる。さらに7月には、ついに日本市場でもGoogleのChrome OSを搭載したノートパソコン「Chromebook」が、パソコンメーカー5社からリリースされることが明らかになったが、エンドユーザーへの販路は、ソフトバンクテレコム一社(文教市場ではミカサ商事も扱う)に限定されている。同社は、これも「Google Apps」との組み合わせで販売する方針で、「企業システムのクラウド化のドライバとして提案したい」(中塚統括部長)と話している。
グルージェント
「IBM Notes」の移行需要に商機

吉岡大介
統括マネージャー 「Google Apps」の拡張ソリューションを中心に手がけるITベンダーで、ソフトバンクテレコムと密接な協業関係を築いている企業は、現状、数社程度。サイオステクノロジーの子会社であるクラウドインテグレータ(CIer)のグルージェントは、そのうちの一社で、昨年3月、企業向けクラウドサービスでの提携を発表した。現在は、IBMの「IBM Notes」から「Google Apps」へのシステム移行を容易に行うことができるツール「Gluegent Migrator for Lotus Notes」がとくに好調だという。吉岡大介・ビジネス開発部統括マネージャーは、「オンプレミスのグループウェアをクラウド化したいというニーズは大きい。当社が強みをもつ『Google Apps』連携のワークフローなどが合わせて導入されるケースも非常に増えている。ソフトバンクテレコムとの協業で、とくに新規獲得の販路は大きく広がった」と、手応えを感じている様子だ。
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