NEC
メーカー+SIerの総合力で勝負 既存顧客のニーズを最優先
●「NEC Cloud IaaS」はメガクラウド対抗ではない 
畔田秀信
主席主幹 クラウドビジネスにおいて、SI(システムインテグレーション)やCI(クラウドインテグレーション)に重きを置く姿勢は、NECも富士通と同じだ。NECは今年4月、AWSに対抗するという文脈で語られることも多い「OpenStack」をベースに開発した「NEC Cloud IaaS」をリリースした。しかしこれも、「パブリッククラウドとは銘打っていない。オンプレミスやハウジング、プライベートクラウドを含め、ハイブリッドのニーズに応えたサービス」と、畔田秀信・C&Cクラウド基盤戦略本部主席主幹はメガクラウドの対抗サービスではないと強調する。
NEC Cloud IaaSは、コストパフォーマンス重視の「スタンダード(STD)」と、高性能・高信頼が売りの「ハイアベイラビリティ(HA)」の二つのサービスをラインアップしている。さらに、統一インターフェースを通じて、二つのサービスのリソース調達や管理をシンプルにするプロビジョニング機能や、外部の複数のクラウドや個別のシステムもまとめて管理する統合運用管理機能も備える。畔田主席主幹は、クラウド専業ベンダーとの差異化ポイントとして、「ハードウェアメーカー、SIベンダーとしての技術力、ノウハウと、1月に開設した神奈川DCのポテンシャルをフルに発揮することで、セキュリティや性能保証、運用の自動化範囲の拡大など、有機的に個別対応ができる。市場もNECにメガクラウドと同じサービスを求めてはいない」と説明する。まずは案件が見込まれる既存ユーザーのニーズに応えることを最優先しているかたちだ。
すでにSIパートナーによる再販も始まっていて、販売店のビジネスモデルへの適合も考え、「売りやすいかたちにしていきたい」(畔田主席主幹)という。一方で、品揃えとしても、畔田主席主幹は「クラウドビジネスでは、自社の弱いところ、足りないところに強みをもつ他社とは積極的に組むべき」と考えている。
日本IBM
豊富な資本力を武器に市場のリーダーへ ハイブリッドの進化形「マイクロクラウド」
●クラウドは全方位の自前戦略 
紫関昭光
理事 グローバルのIT市場をリードするIBMは、クラウド戦略に関しては、国産総合ITベンダーに対して資本力の違いをみせつけている。ソフトレイヤーを買収したことで、パブリッククラウドサービス「SoftLayer」を手に入れ、メガクラウドの仲間入りを果たした。日本でも、着々と実績を重ねていて、直販案件はもちろん、すでに100社を超えている販売パートナーが、SIやマネージドサービスなどの付加価値をつけて販売する例も増えているという。年内には国内DCを稼働させ、国内展開を本格化する。
IBMは、SoftLayerを単純なコスト比較でもAWSやAzureに引けを取らないサービスにする方針で、プライベートクラウドの構築から安価で汎用性をもつパブリッククラウドサービスの提供、そしてクラウドインテグレーション、システム構築、運用、サポートまですべてを「自前」で展開する。一方、個別の商材の提供元、富士通の言葉を借りれば“素材”屋としても、大きなシェアを狙う。まさに全方位を自前でカバーし、急成長するクラウドの市場をリードしたいという意欲をみせている。
紫関昭光・GTS事業クラウド事業統括理事は、「セキュリティや機能上の問題がなくても、事例がないとか、レギュレーションがあるとか、さまざまな理由でパブリッククラウドが利用されないことが今でも多々ある。それらがほぼ本来あるべき場所に落ち着くまでは、パブリッククラウドの市場は成長し続けると思う」と、パブリッククラウド市場のポテンシャルに期待を寄せる。
さらに同社は、プライベートクラウドとパブリッククラウドをリソースとして単純につなげるだけでなく、両者のメリットを融合した新しい利用のあり方の研究も進めている。それが、「マイクロクラウド」だ。紫関理事は、現状のプライベートとパブリッククラウドの使い分けについて、「個人情報などセンシティブなデータはプライベートに置く傾向がある。セキュリティの面からは安心だが、投資コストの面ではパブリックのような恩恵を受けにくい」と指摘する。マイクロクラウドは、「『Cloud Foundry』などのアプリケーションをコンテナ化する機能をもつPaaSを活用する。データは自社のDCに置き、コンテナ化したアプリケーションをパブリッククラウドから引っ張ってくる。そのアプリケーションと自社DC内のデータをくっつけて運用するような考え方」(紫関理事)だという。データはプライベートクラウドでセキュアに保持したうえで、アプリケーション自体は買い取りではなく、サブスクリプションモデルで使うことができるようになる。
IBMは、Cloud FoundryベースのPaaSである「Bluemix」を6月にすでにリリースしていて、新しいコンセプトをビジネスにつなげていくための“素材”の準備も着々と進めている。
識者の眼
国産ベンダーの判断は合理的 成長の道筋には不透明な部分も

松本聡
リサーチマネージャー 国産の大手総合ITベンダーのIaaSレイヤでのビジネスをみてみると、「高信頼」を売りに、ホスティング型のプライベートクラウドからパブリッククラウドまでハイブリッドで提供する戦略は共通している。クラウドのインフラ提供に特定の領域では力を注ぐというメッセージを出していたとしても、ビジネスの中心はあくまでもSIやCIだ。
調査会社のIDC Japanの松本聡・ITサービスリサーチマネージャーは、「日立のメッセージには、クラウドを所管するのが自社の製品を売るプラットフォーム事業部からITサービスを担当する事業部に変わったことが反映されている。日立の顧客には大企業が多いのでグローバル対応は必須だが、海外のDCが圧倒的に少なく、これから投資できる額にも限界がある。結果、グローバルで伸びているメガクラウドのサービスを売って、SIやCIで儲けようというシナリオがより強調されるのは自然だし、戦略としては正しいと思う」と評する。これは、NECもほぼ同様の状況だとみる。
IDC Japanの調査結果でも、国内のクラウドビジネスは、パブリックとプライベートクラウドを含むインフラを提供する「クラウドホスティング」に比べて、SIやCIを含むクラウド向けのITサービスのほうが圧倒的に大きな市場規模を誇る。
一方で、富士通については、IDC Japanは若干異なる見方を示す。「富士通のS5は、米国や欧州、アジアなどグローバルでDCを整備してかなり投資している。グローバルでもAzureだけに頼らず、独自サービスも提供できるのは強みになる」と松本リサーチマネージャーはいう。
ただし、メガクラウドの方向性とは違い、S5はやはり「高信頼」が売りで、コストを追求する気配はない。汎用性のあるパブリッククラウドとしてメガクラウドに比肩し得る国産ベンダーは、「NTTコミュニケーションズくらいだろう」(松本リサーチマネージャー)と予測する。
ただし、こうした3社の方針は、既存の大手顧客のクラウド化ニーズに手堅く応えるものの、クラウドをテコに大きく事業を成長させるイメージにはつながらない。パートナーとの協業が必須なSMBへのクラウドビジネス展開も、はっきりとした姿はまだみえてこない。