ノートPCから開発環境までブラソル満載!
「ブラウザがあれば十分」を実現するブラソル。クライアント環境をシンプルにすることで、さまざまなメリットをもたらすが、課題も残されている。どのように導入していくべきか。最新のブラソルに、そのヒントを探る。
国内販売がスタートしたブラソル端末のChromebook
ウェブアプリの実行に最適化されたグーグルのOS「Google Chrome OS」。そのOSを搭載するノートPC「Chromebook」が、ようやく国内で発売された。発売を発表したのは、日本エイサー、ASUS JAPAN、日本ヒューレット・パッカード、デル。いずれも法人や教育機関向けだが、デルは年内にも個人向けに提供することを考えている。3社は販売価格を明らかにしていないが、デルのChromebookは送料込みで3万8980円(税別)だ。
Chromebookは、世の中がクラウド化することを前提に開発された。つまり、処理はネットワークの向こうのサーバーに任せて、クライアントには表示機能があればいい、というクラウドのコンセプトをかたちにしたハードウェアだということができる。デルの飯塚祐一・エンドユーザー・コンピューティング統括本部パートナービジネス開発マネージャーは、Chromebookの役割を二つ挙げている。「一つは、ウェブブラウザを快適に使うこと。もう一つは、『Google Apps for Work』をセキュアで快適に使うこと」。Google Apps for Workとは、メールやビデオ会議、ワープロ、表計算ソフトなど、グーグルがクラウドサービスとして提供するビジネス向けのツール群である。
問題は、Chromebookがどこまで受け入れられるかである。Chromebookとコンセプトが似ているシンクライアント端末にもノートPC型はあるものの、Windows環境を利用するのが一般的。企業のIT資産の多くがWindows環境に依存しているだけに、Chromebookの普及はクライアント環境の脱Windowsが実現できるかどうかにかかっている。

デルの飯塚祐一・エンドユーザー・コンピューティング統括本部パートナービジネス開発マネージャー。手にしているのは、国内での販売開始を発表した「Dell Chromebook 11」Officeツールもクライアント依存から脱却
ビジネスシーンで、デファクトツールとしての地位を保ち続けているのは、マイクロソフトの「Microsoft Office(MS Office)」だ。Windowsとともに企業内に普及してきたMS Officeだが、同社のクラウドサービス「Office Online」として、脱Windowsを実現している。Office Onlineは、個人向けが無償で利用でき、法人向けには「Office 365」のサービスとして提供されている。

中本浩之氏は、サイナップソフトの販売パートナーのほか、テクニカルサポートなども担当している 一方、MS Officeには、「Apache Open Office」をはじめ、いくつかの互換ソフトがある。そのなかで、MS Office互換のブラソルを提供しているのが、韓国のサイナップソフト(synapsoft)だ。同社の「Synap Office」は、サーバー側にインストールするだけでよく、クライアント側にはウェブブラウザがあればいい(画面1)。MS Officeのライセンスも不要である。サイナップソフトの販売パートナーである中本浩之氏は、Synap Officeのアドバンテージを次のように語る。「Office 365はインターネット経由のアクセスが必要となるが、Synap Officeは社内のサーバーに導入すれば、閉じたネットワークでも利用できる」。
サイナップソフトの海外展開は始まったばかりで、日本市場へはこれから本格的に売り込んでいこうという段階だ。なお、マイクロソフトの特許は侵害していないので、MS Officeのライセンスなどの問題はないという。

画面1 Synap Officeのプレゼンテーションソフト「Slide」。Synap Officeは、MS Office互換の機能をもつPC向けのウェブサイトを端末フリーにするブラソル
タブレット端末やスマートフォンの普及は、企業システムを見直すきっかけを与えた。例えば、入力項目だ。画面が大きいPCでは、レイアウト上、多くの入力項目を設定しやすいので、少しでも必要と思われるものは用意した。一方、画面が小さいモバイル端末では、最低限の入力項目にしたい。モバイル端末の普及は、モバイル端末向けのシステムを最初に用意する「モバイルファースト」を後押しし、企業システムでは画面のシンプル化が進んだ。
ウェブサイトのマルチデバイス化を手がけるシンメトリックは、主にB2C向けPCサイトをスマートフォンなどに最適化する変換ツールを提供している。単なる自動変換ではなく、テンプレートをベースに変換するのが、同社製品の特徴である。また、競合他社のサービスの多くがSaaS型で提供されているのに対し、サーバーにインストールする形式で差異化を図っている。そのため、クローズドなネットワークで社内向けのウェブサイトを提供している場合でも、マルチデバイス化を実現することができる。
B2Cサイトのマルチデバイス化がメインとはいえ、同社には企業向けシステムに関する問い合わせが多いという。しかし、「クライアント側でウェブブラウザを使用する企業システムは、その多くがInternet Explorer(IE)のバージョンに依存している。特定環境に依存していると、マルチデバイス化ができない」という問題があると、シンメトリックの山本洋輔・営業・ソリューション部マネージャーは語る。HTML5などの標準技術であれば、ウェブブラウザのサポート期限に振り回されることもない。また、マルチデバイス化も、標準技術であれば、シンメトリックの変換ツールで対応できるため、システムの再構築時には標準技術を使用することを同社は推奨している。

シンメトリックの山本洋輔・営業・ソリューション部マネージャーは、「企業システムでもマルチデバイス化のニーズは増えている」というブラソルで開発するネイティブアプリ
システム開発もウェブブラウザさえあれば十分だとなれば、開発環境の整備が容易になる。とくにスマートフォン向けのネイティブアプリは、多くの場合、iOSとAndroidの両方への対応が求められるので、開発環境の整備が問題になることが多かった。

画面2 Monacaでは、iOSとAndroidのネイティブアプリがウェブブラウザ上で開発できる この問題の解決に取り組んだのが、モバイルアプリやウェブアプリなどを手がけてきたアシアルである。同社のモバイルアプリ開発プラットフォーム「Monaca」は、ウェブブラウザでスマートフォン向けのネイティブアプリを開発できる(画面2)。つまり、開発環境のブラソルというわけだ。Monacaを使えば、iOSとAndroidのネイティブアプリがウェブブラウザ上で開発できる。「iOS向けアプリの開発にはMacが必要だったが、Monacaを利用すればOSフリーになる。コンパイルもサーバー側が担うので、クライアント端末ではウェブブラウザが動く程度のパワーがあれば間に合う」と、アシアルの塚田亮一・取締役マーケティング・事業開発担当は説明する。Monacaでは、ネイティブアプリの中核となる部分をHTML5で開発し、それを包むようにiOSやAndroidに依存した部分を開発する。メインのロジックは共通化できるので、メンテナンスもしやすい。
「メインのロジックをHTML5で開発するから、ウェブアプリとしても展開しやすい。HTML5は、当初の期待が大きく、その反動で『使えない』という声が出ることもあった。現在は、開発環境が整って扱いやすくなった」として、塚田取締役はHTML5での開発を推奨している。

アシアルの塚田亮一・取締役マーケティング・事業開発担当ウェブアプリ vs. ネイティブアプリ
多くの企業システムは、確かにウェブブラウザさえあれば十分な状況にある。しかし、タブレット端末やスマートフォンが普及したなかで、ネイティブアプリが不要になるほど、ウェブアプリは万能なのだろうか。
アシアルの塚田取締役は、次のように考えている。「GPSやカメラなどの端末に依存する機能を利用する場合は、ネイティブアプリを利用する。そうした機能を実装するネイティブアプリは、コンシューマ向けだと思われがちだが、例えば社外で出退勤の登録をするような場合は、GPS機能を使って行き先の申請に不正がないことの証明に使うケースがある。ネイティブアプリのほうがいいとは限らないが、このようにエンタープライズ分野でも必要になるケースがある」。
しかし、「B2Cであっても、ネイティブアプリがいいとは限らない」と、ピーシーフェーズの川邑省吾・執行役員マーケティング本部長は考えている。デジタルマーケティング分野を軸にシステム開発を手がけるピーシーフェーズは、ユーザー企業が顧客サービスとして提供するネイティブアプリを数多く開発してきている。そのため、同社に開発を依頼するユーザー企業の多くは、ネイティブアプリありきの提案を期待している。「スマートフォンの利用者が増加傾向にあるなかで、ネイティブアプリは非常に有効なマーケティングツールである。ただ、ネイティブアプリの保守や運用には、ウェブアプリ以上のコストが必要になることが意外と知られていない」(川邑執行役員)。開発しても、例えばApp Storeではアップルの審査があり、マーケットに載るまでには時間がかかる。さらに、仕様変更だけでなく、OSのアップデートや新たな端末の登場などによっても変更が必要となるので、ネイティブアプリは陳腐化しやすい。同社では、その状況を説明したうえで、ネイティブアプリを提案しているという。
B2Cで慎重な判断が必要となるなら、企業システムではより慎重な対応が求められる。「B2Cとは、利用者数のケタが違う。ウェブアプリで不足する部分は、運用でカバーすれば十分ではないか」と川邑執行役員は指摘する。

ピーシーフェーズの川邑省吾・執行役員マーケティング本部長。最近は、同社のデジタルマーケティングの経験を生かし、体験型マーケティングサービス「Boome(ブーミー)」に取り組んでいる記者の眼
あらゆるモノがインターネットにつながることを意味するIoT(Internet of Things)。そのなかで画面をもつ情報端末であれば、ウェブブラウザを備えるようになることは想像に難くない。端末依存の課題を解消するウェブブラウザは、ますます重要なツールになっていく。それはともかく、端末に依存しない環境は、システム開発者やシステム管理者、そしてユーザーにもメリットがある。クラウドがあらゆるニーズに応えられるようになり、HTML5などの標準化技術も実用的になった。現時点では、ネイティブアプリに劣る部分があるものの、いずれは技術的に追いつくときがくると期待したい。ブラソル万歳!
【訂正】本紙11月10日号(vol.1554)の特集「ブラソル万歳!」では、記事に誤りがありました。12面の見出し「Officeツールもクライアント依存から脱却」の記事中、「Synap Officeは、ITベンダーのサービスの一部として組み込むことができる。そのため、韓国ではほとんどの大手ポータルサイトがSynap Officeを自社サービスに組み込み、ユーザーに提供しているという」と表記しましたが、正しくは「Synap Office」ではなく「HTMLコンバーター」でした。ウェブに転載するにあたり、該当部分を削除しています。お詫びのうえ、訂正いたします。