愛知県は開発拠点を目指す、ドローン実験支援は400回以上
福島県や三重県のほかに、大都市を抱える地方公共団体でも、空飛ぶクルマの取り組みが積極的に行われている。
愛知県では、豊田市で空飛ぶクルマに関する実験拠点や実証フィールドを提供するなどの取り組みを開始。スタートアップ企業のCART!VATORやSkyDriveと連携して、廃校となった小学校などを利用して、空飛ぶクルマの開発や実験を支援する取り組みを行っている。
愛知県の大村秀章知事は、「愛知は日本一のものづくり県であり、空飛ぶクルマは県の特性と合致している。引き続き、日本、世界をリードしていくためには、斬新なアイデアや最先端技術をモノづくりの強みと結び付け、次々とイノベーションを創出していく必要がある」とし、空飛ぶクルマにも積極的に取り組む。
製造品出荷額が41年連続で日本一を誇る愛知県では、「次世代自動車」「航空宇宙産業」「ロボット産業」の三つを戦略的成長産業分野に位置付けており、自動車や航空宇宙は全国1位、ロボットでは全国2位の製造品出荷額を誇る。
愛知県経済産業局の伊藤浩行局長は、「空飛ぶクルマは、次世代自動車、航空宇宙、ロボットという愛知県が誇る製造技術や要素技術が集約したものになる。また、愛知県は、現場のリアルなノウハウとデータが蓄積されており、新たなイノベーションを起こすポテンシャルがある地域だ。すでに自動運転やドローンの実証実験でも豊富な支援実績があり、ドローンの実証実験の支援実績は60社以上、400回以上に達していることからも、それは裏付けられる」とし、「ものづくり県である愛知県は、空飛ぶクルマの開発、生産拠点を目指す。空飛ぶクルマに取り組む企業や研究機関を全力でサポートしていく」とする。
愛知県および豊田市から支援を受けているスタートアップ企業、SkyDriveの福澤知浩代表取締役は、「県および市からの支援により、愛知県内に4カ所の活動拠点を持っており、23年の事業化に向けて取り組んでいる。今後、空飛ぶクルマの離着陸ポイントが日本各地にでき、日常的に空飛ぶクルマを活用できるようになる。リニアモーターカーと空飛ぶクルマの組み合わせによって、日本のあらゆる場所に1時間半以内に移動できるようになるだろう。鉄道や自動車とともに、空飛ぶクルマが交通手段の選択肢の一つになる。空飛ぶクルマの大衆化に向けて努力したい」と述べた。
東京・大阪も空飛ぶクルマに積極姿勢
東京都では、「社会課題の解決に資する先端テクノロジーの普及拡大に向けて、自動運転、ドローン、ロボットの3つに取り組んできたが、今後は、空飛ぶクルマをはじめとするエアモビリティーについても対象に加えて、積極的に取り組んでいく」(戦略政策情報推進本部事業推進担当課長の藤林健太郎氏)とし、「空飛ぶクルマは、渋滞解消や物流分野での生産性向上といった社会課題の解決につながる先端テクノロジーであると認識している」という。
都は19年4月に、戦略政策情報推進本部を発足。目標に掲げる「稼ぐ力」に基づき、経済成長を推進することに取り組んでいるところだ。「戦略政策情報推進本部は先端テクノロジーの社会実装を重視し、実効性の高い支援策を用意している。この支援策の効果を最大化するためには、気運醸成、実証実験、国家戦略特区による規制緩和といった活動が必要」であるとし、都民を対象にした自動運転車両の試乗会や産業用ドローンの講演会、「セグウェイ」を活用した搭乗型移動支援ロボットの活用提案、自動運転タクシーによる公道での営業走行を世界で初めて行った事例などを示しながら、「公益性の高い事業での実用化を目指している」という。
「都心部では通勤ラッシュの混雑緩和、西多摩地域では交通の不便を解消、臨海部では交通の結節点の特徴を生かした価値の向上、島しょ部では船舶中心の移動手段からの脱却といった点で、エアモビリティーの活用が期待できる。東京2020大会の開催などビジネスチャンスも大きい」などとし、臨海部では多様な交通手段との結節点を生かした高速移動サービス、西多摩地域では交通文地域での新たな移動サービスや災害時の物資輸送、人命救助に空飛ぶクルマを活用する考えだ。
大阪府でも、空飛ぶクルマへの取り組みを欠かさない。
大阪府商工労働部成長産業振興室副理事の中原淳太氏は、「府では実証事業都市を掲げており、実証だけにとどまらず、あくまでも事業を視野に入れたスキームを重視した取り組みを行っている」とし、「関西には2000万人のマーケットがあり、さらにIR(統合型リゾート)の誘致も行っている。また、バッテリーやセンサーといった部材メーカーが集積しており、空飛ぶクルマの開発拠点としてもポテンシャルがある」とする。
空飛ぶクルマにおけるIT企業のビジネスチャンス
空飛ぶクルマの産業規模は、40年には全世界で150兆円になるとの予測がある。この市場に向けて、IT業界はどのような商機が見込めるのだろうか。
空飛ぶクルマに搭載されるセンサーやカメラは、日本のエレクトロニクス産業が得意とするところであり、市場の拡大とともに、日本のエレクトロニクス産業の存在感が高まっていくことになるだろう。IoT市場と同様に、新たな成長領域を手に入れることになる。
だが、空飛ぶクルマを、新たな輸送手段や交通手段と捉えた場合、本体そのもののビジネスよりも、それを取り巻く周辺ビジネスのほうが大きくなるのは明らかだ。
機体の制御技術やセキュリティ技術のほか、運用に伴うソリューションなども不可欠になる。また、業種別の新たなソリューションやビジネスモデルに対応したシステム構築も必要になるだろう。
三重県が示したように、「離島・過疎地域などでの生活支援」「観光資源・移動手段」「防災対策・産業の効率化」という三つの用途を考えても、それぞれに必要とされるソリューションは多岐にわたっており、IT産業においても大きなビジネスチャンスが生まれることになる。
実際、ドローンの登場によって、そこから入手したデータを分析することで、農業の現場は大きく変わり、建設現場も大きな変化を遂げた。農業現場では、ドローンで撮影した映像をもとに、農作物の発育状況などを把握し、的確な量の農薬や肥料を散布して農業のやり方を変えた。建設現場では、ドローンの映像をもとにして測量を行いAIを活用することで、効率化を実現した。
これまでは、空を利用したソリューションはほとんど手つかずだったといっていい。
「空の移動革命」と称される空飛ぶクルマによって、新たなビジネスが創出されるのは間違いがない。しかも、日本では、政府主導によって、実用化に向けた取り組みが加速している。今後、より大きな潮流になるのは間違いないだろう。
NECが本格参入、23年以降の実用化へ
NECは先ごろ空飛ぶクルマの移動環境に必要となる交通整理や、機体同士および機体と地上との通信などを支える管理基盤の構築を本格的に開始すると発表した。その取り組みの第1弾として、空飛ぶクルマの試作機を開発。千葉県我孫子市のNEC我孫子事業場に新設した実験場で浮上実験を行い、機体管理の機能や飛行特性を把握するという。
NECが開発した空飛ぶクルマの試作機
NECは、「空の移動革命に向けた官民協議会」に参画しているほか、日本発の空飛ぶクルマの開発活動団体「CARTIVATOR(カーティベーター)」を運営する一般社団法人CARTIVATOR Resource Managementとスポンサー契約を結ぶなど、空飛ぶクルマの機体開発の支援を進めてきた経緯がある。また、同社では、航空・宇宙分野における航空管制システムや衛星運用システムなどで培ってきた管制技術や無線通信技術、無人航空機の飛行制御技術を蓄積。さらに、重要インフラ分野でのサイバーセキュリティ対策に関する知見を活用して、空飛ぶクルマのための新たな移動環境の実現に貢献できるとしている。
NECが開発した試作機のサイズは、全長が約3.9mで幅3.7m、高さ約1.3m、重量150kg未満。自律飛行のための飛行制御ソフトウェアおよび推進装置であるモータードライバーなどを新たに開発して搭載した。なお、人は搭乗できない。また、機体検証のための自社専用施設は、安全性を考慮し、ポリカーボネート製クリアフェンスを設置しているという。
NECでは、新たな移動環境の管理基盤の構築を目指して、空飛ぶクルマに関する技術開発や試作機を活用した検証・評価を継続し、23年以降の実用化を目指す計画だ。