2022年に登場した「ChatGPT」で、世界中が生成AIの話題で一色となった23年。ITによって人々の生活やビジネスに想像以上の大きな変化が訪れることを予感させる1年となった。コロナ禍を経て経済活動が再始動した国内市場では、企業の情報システムに新たなデジタル技術の実装が進み、データ活用やAI導入の事例は増え続けている。“テクノロジーの指南役”としての期待が寄せられるITベンダーのビジネスは、どのように変わろうとしているのか。「週刊BCN」の紙面を通じて1年を振り返る。
(構成/大畑直悠、日高 彰、堀 茜、藤岡 堯、岩田晃久)
Review 1
生成AIが話題を席巻
22年11月に米OpenAI(オープンエーアイ)が「ChatGPT」を発表したことを皮切りに、23年のIT業界では生成AI関連の発表が相次ぎ、1年を通して話題を席巻した。各社が生成AI関連の取り組みを加速させる中、市場では基盤モデルの構築に欠かせないGPUの需要が高まり、国際的な争奪戦が生まれた。
9月18・25日・1985号掲載
9月18・25日・1985号の「
需要が過熱するNVIDIA GPU 国内にも押し寄せる『AI用ITインフラ』の波 」では、AI向けGPU最大手の米NVIDIA(エヌビディア)の製品を扱う各企業が、AIブームの波をいかにビジネス拡大につなげるかを報じた。ディストリビューターのマクニカは、エヌビディアの開発環境上でAIソリューションを検証できるプログラムを提供し、販売パートナーを支援する。政府もコンピューティングリソースの確保に動き出し、経済産業省の助成を受けたさくらインターネットは、大規模GPUクラウド基盤の整備を進めた。
大手ITインフラベンダー各社も、年次イベントで生成AIの活用を後押しする姿勢を鮮明にした。9月11日・1984号「
ITインフラ事業成長のかぎは『AI』が握る 米VMwareがラスベガスで年次イベントを開催 」では、米VMware(ヴイエムウェア)が掲げる戦略として、AIの開発・運用に用いるプライベートなITインフラの提供に力を入れる考えをレポートした。プライバシーやコンプライアンスの要件を企業が自らコントロールできる環境を提供し、生成AIの活用を加速させる。
業界に特化し、専門性の高い業務でのAI活用を目指す動きも生まれた。10月16日・1988号「
リーガルテック市場に拡大の兆しあり AI活用で加速する法務DX 」では、弁護士ドットコムが取り組む、法務に特化したバーティカル大規模言語モデルを開発する「リーガルブレイン構想」を伝えた。弁護士や企業の法務部門の業務効率化に活用する。
23年のIT市場で最大のトピックとなった生成AIだが、単なるブームとして終わらせることなく、ユーザー企業の課題解決によりフォーカスした製品やサービスを創出できるかが今後問われることになる。
Review 2
データ連携・活用の動きが進む
データ活用の新しいモデルを構築する動きも活発化した。11月13日・1992号で報じた「
事業者間データ連携の新たなモデルに BIPROGY『Dot to Dot』の可能性 」では、データ流通基盤「Dot to Dot」を中核に据えた、BIPROGYの取り組みを紹介した。日本の個人情報保護法に則した仕組みを整備し、生に近いパーソナルなデータの連携とプライバシーの保護を両立することで、より価値の高いサービス提供を実現する。
11月13日・1992号掲載
個人データを複数事業者間で連携することには、データ保護の観点から抵抗感を持つ事業者がいる一方で、匿名化・標準化したマクロデータではなく、個人単位のデータを扱ったより有効な分析を望む声もある。企業が単独では実現が難しいサービスの高品質化を、複数企業間で有用なデータを連携することで具体化する動きとして、今後の展開が期待される。
教育分野でもデータ活用の機運は高まりを見せている。7月3日・1975号の「
『学習eポータル』が切り開く教育データ活用の未来 ベンダーはクロスセルに商機見出す 」では、デジタル教材や文部科学省が運営するオンライン試験システムといった、学校で利用される各種ソフトウェアの「ハブ」の役割を果たす「学習eポータル」に焦点をあて、教育データ活用の現状と今後を展望した。
内田洋行やNEC、NTTコミュニケーションズは、学習ツールなどの利用データを活用したダッシュボード機能の構築などに取り組む。これにより児童・生徒の状況を可視化し、担任だけではなく学校全体で児童・生徒の教育支援が可能になる。教育DX推進におけるGIGAスクール構想に続く原動力として、データを活用を後押しする取り組みが広がりそうだ。
Review 3
地域の特性を生かしたDXが加速
各地域の特性を生かしたDX推進の動きも加速した。紙面では、愛知、北海道、関西、福岡の各地域におけるITビジネスの特徴的な動きを特集した。
8月21日・1981号掲載
8月21日・1981号「
製造業を支える愛知のITビジネス 中小のDX支援や世界を目指す動きも 」では、自動車産業向けが堅調な県内のITビジネスの現状を伝えた。マイクロリンクは大企業に比べDXが遅れる中小企業に対し、低コストの独自システムを提供することで支援する。ティアフォーは、自動運転技術の社会実装に向け、パートナー各社と連携を強め、全国各地で実証実験を展開する。
8月28日・1982号「
DX支援が加速する北海道のIT市場 業界の課題を捉え、デジタル化を面的に推進 」では、北海道で立ち上がった専門組織が連携し、道内企業のDXを支援する「北海道DX推進協働体」について報じた。同協働体ではデジタル技術や経営などの専門家が支援先企業に対してDX戦略の策定などを提供する。道内では同様の動きが釧路でも広がっており、面積の広い道内にDXを行き渡らせるために、DX支援のスキームのモデルケースとなる見通しだ。
また、4月24日・1966号「
関西圏のITビジネスに変化あり 複合機販社の変革やITベンダーの異業種共創が活発化 」、5月22日・1969号「
盛り上がる福岡のITビジネス 地元発の上場企業も誕生 」で、各地の取り組みを紹介。関西圏ではコロナ禍を機に、企業のペーパーレス化やデジタル化が進展し、複合機メーカーのマルチベンダーであるプリントマシンメーカーがITソリューションの提案に力を入れる動きが生まれた。福岡では地元発の上場企業も誕生し、市場は盛り上がりを見せている。