自動車整備業向けの業務システムなどを開発するブロードリーフは、自動車部品卸のトヨタモビリティパーツ(名古屋市)と協業して、全国約9万社の整備業ユーザーに向けた自動車部品の受発注オンライン化に取り組んでいる。業界横断で利用可能なオープンな受発注プラットフォームを構築し、整備業ユーザーのオンライン受発注のシステム利用率を一気に高めていく。中小規模が多くを占める「町の整備工場」においては、業務のデジタル化が遅れているとされ、協業を通じて先進的な技術を駆使した業務変革を後押しする。
(取材・文/安藤章司)
部品受発注をオンライン化
両社の協業は2023年12月に発表された。ブロードリーフの受発注プラットフォーム「Broadleaf Cloud Platform」と、トヨタモビリティパーツの受発注システム「ユーザーオーダーエントリーシステム(UOE)」の連携を柱とする。協業の背景には、両社の共通の顧客である全国の整備業における、受発注業務のデジタル化の遅れがある。
トヨタモビリティパーツ 山崎 類 担当課長
自動車部品の主な商流は、自動車メーカー→一次卸→二次卸→整備業の流れで、二次卸までの受発注業務のオンライン化は、UOEをはじめとするEDI(電子データ交換)システムによって進んでいるが、トヨタモビリティパーツの山崎類・外販部企画・総括室担当課長は、全国各地にある町の整備工場のオンライン化について「思うように進んでいない」と指摘する。
UOEは四半世紀にわたって提供されているが、町の整備工場でUOEを使っているのは全体の数%にとどまる。部品卸は比較的規模が大きい企業が多いのに対して、整備工場は中小規模が多いことも普及率が高まらない理由の一つとされる。
トヨタモビリティパーツ 中野 匡 部長
整備工場の受発注業務は、電話やファクスでのやりとりが主流で、卸側は部品の検索や見積もりを、同じように電話やファクスで整備工場に返していた。ただ「業務のデジタル化が進む中、受発注のデジタル化は欠かせない」(トヨタモビリティパーツの中野匡・営業企画本部外販部部長)と判断し、そのビジネスパートナーとして、整備業向け業務システムで大きなシェアを持つブロードリーフを選んだ。
ブロードリーフ 佐々木康志 部長
ブロードリーフは車両管理や伝票発行、申請書類の作成などを行う整備業向け業務システム「Maintenance.c(メンテナンスドットシー)」などを手掛けており、全国のユーザー数は約2万3000社で業界トップクラス。今回の協業ではMaintenance.cと連動するかたちでクラウド上に受発注プラットフォームを構築している。UOEを受発注プラットフォームと接続することで「普段使っている業務システムからシームレスに在庫や価格を照会できるようになる」と、ブロードリーフの佐々木康志・クラウド戦略推進部部長は話す(図参照)。
UOEは四半世紀かけても整備工場に普及させることはできなかったが、すでに整備業向け業務システムで大きなシェアを持つブロードリーフと組めば「利用率を大幅に高めることが可能になる」(山崎担当課長)と目論む。
標準プラットフォームへと育てる
ブロードリーフは22年を境に、従来のパッケージソフトでの提供方法からSaaS方式への切り替えを進めている。受発注プラットフォーム戦略もこの一環で、自社の業務システムはもとより、他社製の業務システム、各メーカー系の部品商や全国約4000社の部品卸が使っているUOEなどのEDIシステム、各種の業務システムと相互接続できる「標準プラットフォーム」へと育てていく戦略を推し進めている。
ブロードリーフ 祖慶良大 室長
トヨタモビリティパーツとの協業は、部品卸と整備工場の受発注オンライン化が柱だが、ブロードリーフではほかにも板金業や車両販売業、サービスステーション(給油所)などに向けた業務システムを開発しており、こうした業態とメーカー、卸をつなぐ将来像を描く。ブロードリーフの祖慶良大・先端技術開発室室長は「クラウド的な発想で、社内外のさまざまなシステムを連携させ、ユーザー企業の利便性を高めていきたい」と意気込む。
さまざまな業態で使う業務システムがオンラインで相互接続できない現状では、業務システム間をまたぐ受発注業務などで電話やファクスといったアナログ作業や、手作業による転記作業が発生してしまう。標準プラットフォーム化を実現すれば、自動車メーカー、部品卸、整備、板金、車両販売などの関連する業態で使う業務システムのデータをクラウド上で相互にやりとりできるようになり、「100%の普及を達成できれば、アナログ作業や転記作業を一掃できる」(祖慶室長)と期待を寄せる。
標準プラットフォームには、ブロードリーフ以外の他社業務システムや独自開発したシステムを使っている整備業、車両販売会社、トヨタ系列以外の自動車メーカー系部品商も参加できるオープンなアーキテクチャーを採用。「業界全体の業務のデジタル変革に役立つ」(祖慶室長)設計にしてある。自動車メーカーの系列を問わずさまざまな部品の販売側、購買側のユーザーに参加してもらう活動に力を入れる考えだ。
データ蓄積と分析で顧客接点を強化
先述の通り、ブロードリーフは整備業向けの業務システム以外にも、板金業向けの業務システム「Repair.c(リペアドットシー)」、中古車などの車両販売業向け「Priceprint.c(プライスプリントドットシー)」、サービスステーション向けに給油で来店した顧客のナンバープレートを読み取り、クラウドに蓄積された顧客情報を使った最適な声かけ提案や見積提示ができる「Maintenance.c SS+(メンテナンスドットシー・エスエスプラス)」といった、自動車整備や販売に関連する分野でさまざまな製品ラインアップを持つ。
こうした業務システムは、デジタル化で業務を効率化する取り組みのみならず、売り上げや利益の拡大に役立つようにすることを重視する。例えば「Maintenance.c」では、メッセージアプリのLINE公式アカウントと連携し、車検の期限を案内するなどの仕組みを取り入れている。積雪のある地方では、雪の季節になる前にLINEで冬タイヤへの交換を呼びかけ、アップセルに役立てている。
トヨタモビリティパーツとの協業によって、受発注を含めた業務の完全デジタル化が進めば「データの蓄積や分析が容易になり、自動車オーナーの満足度の向上や収益力の向上に役立つ」と、ブロードリーフの佐々木部長は語る。整備履歴を基に消耗部品の交換時期を予測し、期日が近づいてきたら自動車オーナーに連絡をするといった役立て方が想定される。
佐々木部長は整備履歴データの分析によって「より正確で適切な整備サービスの声かけができるようになる」とし、データ蓄積・分析を起点とした顧客接点の一層の強化を実現できるとみている。
コンピューター制御が進んだ現代の自動車は、「スマートフォンにタイヤをつけて走っているようなもの」(トヨタモビリティパーツの中野部長)と比喩されるように、部品交換に加えてソフトウェアの更新履歴の管理も整備業にとって重要な要素となる。管理項目が増えることで、自動車の安全性が損なわれることがあってはならないため、今回の協業は、顧客の安全、安心を起点に21年ごろから議論を重ねたという。
ハード部品とソフト更新の両面で整備履歴のデータを蓄積、分析できる環境を整備業ユーザーに提供するとともに、業務効率化やビジネスの面でもメリットを得られるようにする方針だ。
<MEMO>
ブロードリーフ
自動車整備業、板金業、中古車などの車両販売業、給油施設のサービスステーションなどに向けた業務システムを開発。本年度(2024年12月期)の連結売上高は前年度比14.4%増の176億円の見込み。自社商材のSaaS化、受発注の業界標準プラットフォームづくりに取り組む。05年創業、連結従業員数は約950人。
トヨタモビリティパーツ
トヨタ純正部品や用品、同社オリジナルブランド部品、世界のナショナルブランド部品など100万点余りを取り扱い、自動車販売店や修理工場に卸販売している。全国のトヨタ部品販売会社が統合して20年に設立した。従業員数は約9300人、33支社250拠点を展開している。