Special Issue
トップに聞くビジネス戦略とパートナー支援 パートナーと伴走し、新たな価値を共創するネットワールド
2025/09/04 09:00
週刊BCN 2025年09月01日vol.2073掲載
経営課題の解決にはITの力が不可欠であり、あらゆる領域で需要が増している。特に、DX推進にあたっては単なる既存環境のリプレースではなく、クラウドを含むIT基盤全体の最適化が必要だ。そして、もう一つの大きな潮流がAIの活用だ。この変化に対して、ネットワールドはディストリビューターの立場からどのような戦略を持ち、パートナーと共にビジネスを拡大していくのか。芹澤朋斉社長と、平松健太郎・執行役員 マーケティング本部長、鶴園一誠・執行役員 技術本部長に話を聞いた。
AIの社内実践をフィードバック 中堅・中小ユーザーに活用を示す
「この2年ほどは、AIを中心に技術の変化が想像以上に早くなっている。例えるなら、これまで夢物語とされていたことが、3カ月後には実現できるほどだ」と芹澤社長は前置きし、次のように続ける。「その一方で、その夢物語を誰が描くのかという点に課題がある。各企業で戦略を担う立場の方だけでなく、実際に現場で働く方々がAIの見識やノウハウを持つことが重要であり、当社はそのお手伝いをしていく」
実際、AIの活用が必須になると理解していても、多くの企業と現場は、何から手を付けるべきか迷っている。
「一番手を付けやすいのが生成AIで、効率化や生産性向上につながりやすい」と芹澤社長は話す。そこはビジネス変革や新しいビジネスモデルをつくるといったDXの本筋ではないと見られることもあるが、まずはハードルの低い身近なところからはじめて、将来像を描いていくべきだと強調する。
ネットワールドでは、パートナーへのサポートとして、マイクロソフト「Copilot」を体験できる場を提供しているが、特に他社との差別化となるのが、社内実践で得た知見の提供だ。2年前から社内でAIプロジェクトをスタート。生成AIを活用して、社内規定やルールを即座に調べることができるシステムなどを導入している。
「社内実践、実体験を通じて自分たちが感じた課題を肌感覚でお伝えできる。さらに、それをパートナーの方々を通じてお客様が実践できる場も用意している」と芹澤社長。
2024年の年次イベント「Networld X 2024」でも社内実践の取り組みを発表した。内容は、基幹システムのマニュアルや業務に関することをAIが分かり易く回答し、担当が変わっても引き継ぎなどを容易にするというもので、実際にそれらに関した業務に日々携わる、技術者ではない営業サポートメンバーも登壇し、現場が持っていた課題とその解決までの道筋のセッションを繰り広げた。

「非常に好評で、何度もお客様先に出向いてご説明している。特に、お客様が知りたいのは、悩んだポイントやうまく行かなかった点。それを経験談として語れることが大きな強み」と平松本部長。実際、同社におけるAI活用はAzureを使う取り組みからスタートしたが、それだけではうまく行かなかったという。
「AIアプリと組み合わせたことで、この1年でかなり進捗できた。この経験も25年11月にネットワールド主催で開催する『Networld Wiz 2025』でフィードバックしていく。生成AIを『魔法箱』と思っている人も多いが、決して万能ではない。質問の仕方にも一捻りも二捻りもあって、はじめて適正な回答が得られる。そのノウハウを含めて提供できることが、ディストリビューターの価値と考えている」と鶴園本部長は強調する。

多額のコストとリソースを投じられるのなら、いろいろなことができるのは当たり前だろう。
「限られたリソースの中で、中堅・中小企業のお客様にもこんな最新技術が活用できるという例をお見せしたい。AIは大金持ちのものでも、個人のものでもない。日本では、その中間のボリュームゾーンの改善こそが必要だ」と平松本部長は指摘する。
技術者同士の関係を密に検証段階からしっかりサポート
ネットワールドは24年、AI/DXプロダクト・プラットフォームへの継続的な取り組みのほか、マルチクラウド時代をリードするスマート・サービス・ディストリビューター、セキュリティ分野のさらなる強化、ストレージ・データマネジメントポートフォリオの拡大、仮想基盤における幅広い選択肢の提供という5項目を重視する方針を打ち出した。「マルチ/ハイブリッドクラウド環境が浸透する中で、その構築にあたり、検証段階から技術的な要件をヒアリングした上でお手伝いし、それをスムーズにパートナー様、エンドユーザー様が活用できるよう支援する。それがスマート・サービス・ディストリビューターの姿と考えている」と芹澤社長は話す。
具体的には、そこに向けたポートフォリオを拡大し、最適な組み合わせの提供、活用のための技術的な支援を提供していく。すでに24年から、ネットワールドとパートナーの技術者同士が直接コミュニケーションを行う取り組みも進む。
鶴園本部長は「案件ベースだけでなく、案件が具体化する前の構想段階からでも、気軽に当社の技術者に尋ねてほしいという狙いから、技術者同士のコミュニケーションを積極的に進めている。技術者同士で話すからこそ気付く課題も少なくない」。残りのテーマについては、「各分野でお客様と共に課題を見つけて、あるべき姿を描いていきたい。技術サポートの強化、ポートフォリオの拡大はどのテーマにも共通するものだ」(芹澤社長)。
クラウド分野では「Microsoft Azure」や「Amazon Web Services」と並行して、各ベンダーがクラウド上で提供するサービスにも注力する。合わせて、先日発表した「マーケットプレイス」を通じたビジネスについても、SIer、販社を技術面と業務面の両面からサポートする。
SIer、販社はAIをはじめ新技術への対応、IT商材の複雑化、サブスクを前提としたビジネスへの対応が求められ、エンジニア不足も深刻だ。ネットワールドは、こうした課題に直面するパートナーを具体的にどう支援していくのだろうか。
「IT全般のニーズが拡大しており、パートナーの方々も対応が大変だ。現状の商談や注力分野にリソースを取られ、新分野などに割けない。そこを補完するのが当社の役割。いち早く新技術や製品を取り入れ、マーケティング、営業、技術が一丸となり検証を含めてパートナーの方々を支援し、ビジネスに伴走、並走していく」と芹澤社長は力を込める。
初めての学びからクローズまでオリジナル資料やセミナー、一貫したトレーニングを提供
「IT業界はアップデートの塊で未経験で途中から入るのはとても難しい」と平松本部長は話す。新たにIT業界に入った人や、担当変更・異動などでITインフラに関わることになった方が抱く、“最初に何から学べば良いのか”という悩みに対して、ネットワールドでは「最初に学ぶ人が見る冊子」や「5分でわかる動画」など、初めてシリーズを数多く提供。その人気はとても高い。
また、ネットワールド恒例の、ライバルメーカー同士の製品を比較する「ガチンコセミナー」は、そのユーザー環境にベストな製品が何かを短時間で判断できる点が大きなメリットだ。
そして、ベースを理解した次のステップとして、実際に売るための提案書や合宿形式のロールプレイトレーニングも用意する。
例えば、ランサムウェア対策の提案では、ランサムウェアにアタックされた企業のドラマを見ながら、状況の理解とこの時にどう対応できたのかなどを解説し、グループディスカッションを行う。そして、具体的な商材や対策を示して実際に提案書を作成し、ユーザー役の人に提案するという実践的なトレーニングになっている。
「使用した生データが入る資料も全て提供しているので、すぐに実践で活用できる。さらに案件化の際には、ハンズオンで構築の技術サポートを行う。楽しみながら学び、中身はとても濃くスキルアップが図れる」(平松本部長)。
要望に応じて各パートナーに向けて開催したり、パートナーと共同でエンドユーザー向けにも実施したりしている。トレーニングはいずれも無償だ。
「新技術については、まず、われわれ自身が検証することはもちろん、検証結果だけでなく、そのプロセスを含めて生データまで開示している。時にはパートナー様と共同検証して、お客様に開示する。こうした姿勢が信頼につながる」と平松本部長は強調する。
パートナーへのイネーブルメント MSPサービスもスタート
スマート・サービス・ディストリビューターの立場から、パートナーに向けた技術支援のベースとしてきたのがベンダーのSEとのコミュニケーションだ。新しい商材や機能が登場した際は、ネットワールドとベンダーのSEが共同検証し、その結果を基にアナウンス方法や売り方を検討。定期ミーティングなども通じて、それらの結果が営業支援のかたちとなり、構築サービスや勉強会・セミナーにも反映してきた。
「このベンダーとの取り組みをパートナーの方々とも進めるべく、25年からパートナーイネーブルメントをスタートした」と鶴園本部長は語る。
実際、ネットワールドが参加した案件について、RFI(情報提供依頼書)、RFP(提案依頼書)、そして受注後を比較すると、RFI段階の参加が最も失敗が少なく、手戻りも少ない。
「RFIから入ると、われわれができること、できないことを明確にお伝えできるので、無理な設計にならない。無理な設計は工数の増加、SE不足と直結するので、RFIから案件に入れるようイネーブルメントの取り組みを強化する」と鶴園本部長は説明する。
また、ネットワールドでは本格的な「MSPサービス」の提供も予定している。鶴園本部長は「これまで技術支援では構築サービスと自営保守サービスを提供してきた。これに加えて、新たな価値を提供すべくスタートするのが『MSPサービス』だ。当社の検証などのノウハウと保守、製品を1パッケージにして提供するものだ」と話す。
例えば、仮想基盤では、モニタリングのやり方でトラブル発生率を軽減できるなどの情報をパートナーおよびエンドユーザー向けに定期的に発信し、トラブル発生前に回避するといったサービスを目指す。MSPサービスは、現時点ではOSSベースの仮想化基盤「Proxmox(プロックスモックス)」でリリース済みだ。
生成AIでは、大きくパブリッククラウドのサービスの利用と、オンプレ環境での利用という二つの方法がある。
「PoCにはクラウドが便利で、24年には3回の依頼があった。ただ、多くのお客様はどこもPoC段階にあるため、弊社が次のステップとして取り組んでいるのが、Azureの活用ではなくパッケージの提供。例えば自社にも取り入れている『neoAI』があげられる。これはSaaSでも提供しているし、当社が提供するAzure上にも、オンプレ環境にも載せられる。これをまずは分かり易いパッケージにして提供したい」(鶴園本部長)との意向だ。
もう一つ注力するのが、25年に取り扱いを開始した「Tenstorrent(テンストレント)」。従来のGPUではなくAI処理に特化したAIアクセラレーターを活用する事で、極めてコスト性能が高いAI環境の導入が可能になる。これと前述のパッケージを合わせてオンプレ環境への導入を図っていく。
最後に、25年の年次イベント「Networld Wiz」について平松本部長は、「十数年前、Networld Fesの名前でスタートし、Networld.next、Networld Xと名前を変えて進化を続けてきた。今回は、パートナー様、ベンダー様と、日本企業の変革に貢献していくため、共に学び、共にチャレンジしていくという意味と、多くの製品がある中で、それをWizard(魔法)のように、分かり易く、シンプルに、提案、提供していくという二つの意味を込めた。詳細は、連載後半で明らかにするので楽しみにしてほしい」と語る。
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