パナソニックグループが、データセンター(DC)関連事業に力を注いでいる。中核を担うのはAIデータセンターなどを対象にした蓄電システム。DCが抱える電力面での課題に対し、従来の事業で培った技術・生産力を生かして解決に貢献する狙いで、今後3年間で現状のおよそ3倍となる8000億円の事業規模に拡大させる計画だ。さらに複数のDC関連事業を展開し、ハードウェア主体の売り切りビジネスから、顧客との継続的な関係構築に資する「ソリューション」領域の事業への移行を目指す。
(取材・文/大河原克行、編集/藤岡 堯)
構造改革の切り札に
2026年1月、米ラスベガスで開催されたCES 2026のパナソニックグループのブースは、例年とは様相が大きく異なっていた。パナソニックブランドの看板ともいえる家電を訴求する展示はほぼなく、法人ユーザーに向けたソリューションの数々がブースを埋めていたのである。
具体的には、米Blue Yonder(ブルーヨンダー)によるSCMソリューションを中心とした「AI活用B2Bソリューション事業」、DC関連の各種事業による「AIインフラ向けソリューション事業」、そして、同社の環境戦略に連動した「GXソリューション」の三つである。
パナソニックホールディングス(HD)の執行役員である小川立夫・グループCTOは「CESはエレクトロニクス分野における世界最大の展示会だ。展示はパナソニックグループが今後の軸足とするB2Bソリューションに絞り込み、DC関連の蓄電池、半導体実装技術、冷却までを含めたソリューションをひとまとめで見せた」と狙いを語る。
パナソニックグループでは、ソリューションを重視した経営モデルへとシフトを図ろうとしている。CESでは、その一端を世界に向けて発信した格好だ。
楠見雄規・グループCEOは、「パナソニックグループは、ソリューション領域において、確固たる強みがある事業を持ち、稼ぐ力を高めることができるポテンシャルを持っている」と自信を示し、ソリューションを今後の成長に不可欠な事業領域と位置づける。
パナソニックグループにおいて、ソリューション事業の成果で先頭を走るパナソニックコネクトの樋口泰行・プレジデントは、「パナソニックグループがソリューション事業に注力することで、収益が単発ではなく継続化し、顧客にとっては離脱コストが高まり、継続性の向上につながる。さらに、価格競争に巻き込まれにくく、利益率が高いというメリットが生まれる」と指摘。遅れている構造改革の切り札になるとの見方を示す。
パナソニックグループは近年、「ソリューション」という言葉を多用している。とりわけ、世界的に市場拡大が顕著なDC分野でのソリューションに注力する姿勢を強めている。これは「AIインフラ向けソリューション事業」と位置づけられており、「DC向け蓄電システム」「生成AIサーバー向けデバイスおよびマテリアル」「DC向け冷却水循環ポンプ」「次世代AI半導体製造設備技術」「DC向けサイバーセキュリティ」などに取り組んでいる。この中で高い事業成長を見込んでいるのが、DC向け蓄電システムである。
CES 2026のパナソニックグループのブースでは、
DC向けのAIインフラ向けソリューション事業がの展示が中央に設置されていた
28年度に売上高8000億円
25年度の売上高は2000億円台後半を見込む水準だが、28年度には、売上高で約3倍となる8000億円規模を計画。しかも、このうち8割以上が、Award(製品の開発推進および受注合意案件)となっている。これだけの意欲的な計画も、すでに射程距離に収めているというわけだ。
事業を担当しているのはパナソニックエナジーだ。同社のバックアップ電源は、サーバールーム内に設置する分散型電源方式を採用。ラックごとにBBU(バッテリーバックアップユニット)を内蔵し、サーバー単位で電源をバックアップすることができるのが特徴である。専用UPS(無停電電源装置)室などに設置する集中型に比べて電力ロスが少なく、省スペース化や拡張性にもメリットがあり、同社は「AIDCとの親和性が高いバックアップ電源」とする。
同社の只信一生社長は、「AIDCでは、高出力や変動吸収などの高度なマネジメントを実現した電源ソリューションが求められており、その際には、サーバーに近接できる分散型電源が有効である。当社は分散型電源が普及する前から、ハイパースケーラーなどの業界リーダーと強固な関係を築き、共同で開発を進めてきた経緯がある。セルからモジュールまでの一貫した開発、生産体制も市場から評価されている。この分野では8割のシェアを獲得している」と胸を張る。
事業成長においての課題は、供給体制の整備にある。車載電池の生産拠点を含めて、既存生産拠点の活用を進めており、足元の需要の急増には日本の生産拠点で対応しつつ、中期的には北米での生産を進める方針だ。
日本では、既存拠点でのライン拡充や車載電池の生産ラインの改造によって、26年度第1四半期から生産を開始。28年度にはセルの生産能力を25年度比で約3倍に増強するという。北米では、セル生産で車載電池の生産拠点であるカンザス工場の一部を活用することを検討。モジュール生産はメキシコ工場の既存ラインの増強と、第2エリアの新設を検討している。
同社は米Tesla(テスラ)向け車載電池での成長戦略を描いていたが、トランプ政権による関税政策の影響や、EV購入者に対する補助制度の終了などにより、米国市場におけるEV需要は急ブレーキがかかっている。このため同社は、25年度の北米市場における車載電池の年間販売見通しを、期初計画の46GWhから40GWhへと下方修正した。さらに、「北米での販売量は、26年度も前年並みになると想定している」(パナソニックHDの和仁古明・グループCFO)と、長期的な需要停滞を視野に入れている。
つまり、蓄電池事業では、足踏みしている車載電池を尻目に、DC向け蓄電システムが主役の座に躍り出たというわけだ。売上計画からも明らかなように、主役はもはやDC向け蓄電システムである。パナソニックエナジーの只信社長が、「DC向け電源ソリューションプロバイダーを目指す」と宣言したのも、こうした背景が見逃せない。
さらに、次世代に向けた提案も加速する。電力負荷変動の吸収に向けて、スーパーキャパシタ(電気二重層コンデンサー)を開発し、現行シェルフと互換性を持つCBU(キャパシタバックアップユニット)システムを、26年度から生産。また、DC内の電力効率化に向けて、高電圧対応の電源専用ラックという新たな形態を提案。高出力デバイスを内蔵したシステムを投入する計画を示している。
パナソニックHD
楠見雄規 グループCEO
楠見グループCEOは、「24時間365日稼働のための電源バックアップとしての用途だけでなく、電力ピーク抑制、電圧変動の平滑化などが求められる領域で、技術的な特徴を発揮できる。パナソニックエナジーの技術により、DC全体の契約電力を低く抑えることができ、DCの事業者の収益向上に貢献できる。AIサーバーの急速な進化に伴う新たな電力課題の解決のために、蓄電システムの技術と機能を進化させ続けることで、DCの継続的な安定稼働を担保する」と述べ、この分野での存在感を高めていく姿勢を見せる。
持続的な顧客貢献へ
AIインフラ向けソリューション事業を構成するその他の事業の強化にも余念がない。
生成AIサーバー向けデバイスおよびマテリアルは、パナソニックインダストリーが担当し、導電性高分子アルミ電解コンデンサー「SP-Cap」や導電性高分子タンタル固体電解コンデンサー「POSCAP」、多層基板材料「MEGTRON」などを展開。生成AIサーバーの大電流化、高速化に伴う高温環境や伝送損失の課題に対し、車載分野で培った技術力で対応する。SP-Capは摂氏135度の環境で5500時間稼働を実現し、生成AIサーバー分野でトップシェアを誇る。
パナソニックくらしアプライアンス社が手掛けるDC向け冷却水循環ポンプは液冷サーバーに使用されるCDU(冷却液分配ユニット)に搭載。25年には台湾のパートナー企業向けにポンプを初出荷した。従来比75%の流量向上と4Uサイズのコンパクト設計を実現し、他社製品の3倍となる3万時間の長寿命化が評価されている。
次世代AI半導体製造設備技術に関しては、先端パッケージ分野において、回路形成からボンディングまでの半導体製造「中工程」の装置をワンストップで提供する計画だ。パナソニックHDは、プラズマ技術やボンダー技術などの融合により、低消費電力AI半導体に必要な3次元パッケージの領域で存在感を発揮する考えだ。
DCのサイバーセキュリティー分野では、工場やビルシステム、エネルギーマネジメントシステムでの監視実績を基に、リスク分析から攻撃検知、インシデント対応まで幅広く支援する。製造業としての専門性を生かし、OTで活用される制御プロトコルを理解・監視できる点が強みだ。26年度の事業化を計画している。
楠見グループCEOは、「ソリューション事業の本質は、持続的に収益に貢献し、持続的に対価をいただき続けることである。だが、パナソニックグループは、依然としてハードウェアの売り切りのビジネスが多く、持続的にお客様の収益に貢献するという点では、強化できる余地が大きい」とする。
実際、AIインフラ向けソリューション事業においても、ソリューションと表現しているものの、ハードウェアの売り切りビジネスの範囲を出ないものが散見される。
AIインフラ向けソリューション事業が、収益を伴いながら成長する、顧客伴走型のビジネスモデルとして定着すれば、パナソニックグループのソリューション比率を拡大させることができる。ひいては、収益確保につながる構造へと、改革を加速させることができるはずだ。