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<グループウェアベンダー座談会>「有望市場」を徹底攻略 主力メーカーが集結、戦略を披露

2011/09/01 19:55

週刊BCN 2011年08月29日vol.1396掲載

 調査会社アイ・ティ・アール(ITR)によると、国内グループウェア市場の2010年度の出荷金額は、前年度比13.0%増で2ケタ成長の約237億円。なかでも、SaaS型のグループウェアが大きく伸びて、市場をけん引した。年商100億円未満の中堅・中小企業(SMB)だけでなく、1000億円以上の大企業でもクラウド/SaaS型グループウェアの導入が徐々に進んでいる。スレートやスマートフォンをはじめとするモバイルデバイスの普及などもあり、情報共有のあり方は変わってきている。主力メーカー3社のキーパーソンに、市場の捉え方や販売戦略をうかがった。


サイボウズ
ビジネスマーケティング部プロダクトマネージャー
栗山圭太氏

日本マイクロソフト
Office ビジネス本部クラウドサービスマーケティング部
エグゼクティブプロダクトマネージャー
鷲見研作氏

ブランドダイアログ
ソリューション本部取締役本部長
飯岡晃樹氏

司会・進行/信澤健太


ユーザビリティにすぐれた製品を

 ――まずは、皆さんの自己紹介をお願いします。所属しておられる組織と業務内容について教えてください。

 栗山 サイボウズの栗山です。ビジネスマーケティング本部で、「サイボウズ Office」を中心に、「サイボウズ デヂエ」と「サイボウズ メールワイズ」のプロダクトマネージャーを務めています。

 鷲見 日本マイクロソフトの鷲見です。Officeビジネス本部クラウドサービスマーケティング部に所属しています。ローンチしたばかりの「Microsoft Office 365」の事業を、日本国内で統括している部署で、私はOffice 365 のプロダクトマネジャーであり、主にSMB向けを担当しています。

 飯岡 ブランドダイアログの飯岡です。ソリューション本部の本部長として、「GRIDYグループウェア」をはじめとする「Knowledge Suite」のエンドユーザー向け営業とパートナー営業を統括しています。

 ――それぞれ主力としておられるグループウェア製品の強みやアピールポイントを紹介していただきましょう。

サイボウズ 栗山氏
「10月以降、立て続けに大型製品の発表を行う予定」
 栗山(サイボウズ) 主力製品は、「サイボウズ Office」と「サイボウズ ガルーン」で、Officeは、長い間、お客様からのご支持をいただいています。そのなかで、最も力を入れて投資を行い、開発面で工夫しているのがユーザーインターフェース(UI)です。Office 6を発売するとき、UIに「Harmony」という名称を付けました。最新版のOffice 8もHarmonyを引き継いでいます。スケジュールや掲示板、ファイル管理などの各機能のUIを、製品間で統一しているのが特長です。

 ガルーンもVer.2でHarmonyを採用しました。ユーザーフレンドリーを心がけて開発し、Officeよりも「適合性」をもたせています。具体的には、ガルーンのポータル上で、他製品の操作画面を表示できます。また、ほとんどの機能のAPIを公開しており、他製品からガルーンへの情報のプッシュやその逆も可能となっています。

 鷲見(日本マイクロソフト) 「Office 365」の事業に全社を挙げて注力しています。「Exchange Online」「SharePoint Online」「Lync Online」といったビジネス向けのクラウドサービスと皆様にいつもご利用いただいている「Office Professional Plus」を統合環境の元で提供していることを特徴としています。単純に人と人をつなぐことによる生産性の向上ではなく、個々人の能力を最大限に引き出すグループウェアだと自負しています。グループウェア市場で、より大きな役割を果たしていきたいですね。

 お客様に訴求できるポイントは、二つに分けて考える必要があると考えています。一つは、中小規模のお客様にもビジネス向けに設計されたハイレベルなIT環境を低価格で提供できるということです。もう一つは、より高いレベルのエンタープライズサービスとなったことです。例えば、詳細なセキュリティポリシーや管理ポリシーをお持ちのお客様でも、設定可能な項目が追加されると同時に、管理者ご自身で設定いただける項目が大幅に増えています。

 今回は、中小規模のお客様向けに月額600円の「Microsoft Office 365 for Professional and Small Business」を新たに提供開始しました。中小企業向けに必要な機能を厳選し価格を抑えているので、よりスムーズに導入できます。

 飯岡(ブランドダイアログ) 当社は2年半前から独自のクラウド基盤上でKnowledge Suiteをマルチテナント方式で提供しています。先ほどのお話にあったように、マルチテナントであるがためにカスタマイズが困難であるという指摘はありますが、逆にお客様の声をサービスに取り込み続けていることが強みとなっています。またカスタマイズは顧客ニーズの高い機能をカスタマイズできるよう対応中です。

 グループウェアといっても、商談情報や顧客からの問い合わせ等、より業務に則した情報を共有するということをコンセプトにしています。この座談会でご一緒させていただいているサイボウズさんや日本マクロソフトさんの製品を使いこなしているお客様からすれば、シンプルな構成かもしれません。しかし、初めて当社のグループウェアに触れられるお客様からは使いやすいと評判で、優れたユーザービリティの提供がユーザーの定着率に寄与していると考えています。独自の機能ということでいえば、情報共有方法があります。日本の企業は、ピラミッド構造の縦割り組織というヒエラルキーがありますよね。あらゆる情報を個人レベルではなく、所属している部署やプロジェクト、また顧客に紐づけて管理することができるので、部外秘等の重要な情報であっても安心して共有できるのが特徴です。

好調な実績を残す

 ――2010年から11年上半期にかけて、どのような施策を進めてこられましたか。製品開発、販売戦略の側面から聞かせてください。

 栗山(サイボウズ) 昨年、“No Emailワークスタイル”というコンセプトを打ち出し、マーケティング活動を推進してきました。メールのやり取りで発生する業務上の問題点を洗い出し、分かりやすいかたちで提示しています。お客様からは非常に高い評価をいただいており、おかげさまでセミナーも盛況です。

 製品に関しては、スマートフォン向けアプリケーションの「サイボウズモバイル KUNAI」と企業間でも使えるクラウド型コラボレーションツール「サイボウズLive」を昨年リリースいたしました。もう一つが企業のグローバル展開を支援するガルーンの国際対応です。拠点やグループごとのタイムゾーン、カレンダー、稼働日、稼働時間に対応する機能を搭載しました。節電対策のための輪番操業が時期的に重なった結果、引き合いが増えました。

 また、今年に入って、震災直後の在宅勤務用としてソフトウェアVPNの「サイボウズ リモートサービス」を一時的に1000人まで無償で使えるようにしました。これは販売戦略ではなかったのですが、在宅勤務の需要が高まったことで引き続きご契約いただけるお客様が多くいらっしゃいました。

日本マイクロソフト 鷲見氏
「6月に販売を始めた戦略クラウド『Office 365』の事業に全社を挙げて注力する」
 鷲見(日本マイクロソフト) Office 365をリリースする以前のことでしたので、「Business Productivity Online Suite」(BPOS)を中心に、お客様へのバリュープロポジション(価値提案)を進めました。BPOSの導入が進み、お客様のニーズの高まりを感じた1年でした。

 昨年の10月、Office 365のクローズドβ版をリリースしました。半年後の今年4月、パブリックβ版をリリースし、6月29日に正式リリースを迎えることができました。β版を提供している間に、お客様からは多くのフィードバックをいただき、参考にさせていただきました。

 飯岡(ブランドダイアログ) グループウェアという枠組みにとどまらないオール・イン・ワンサービスとして「Knowledge Suite」の機能を充実させてきました。「Microsoft Office」との互換性が高いキングソフトの「KINGSOFT Office Writer 2010」「KINGSOFT Spreadsheets 2010」「KINGSOFT Presentation 2010」を組み込んでいます。グループウェアやOffice、営業支援システムを個別に導入した場合と比べて、トータルコストと使い勝手でKnowledge Suiteには高い導入メリットがあります。昨今「業務仕分け」というキーワードが話題となっていますが弊社は会社の「ソフトウェア仕分け」を提唱しております。

 鷲見さんのお話のなかに、フィードバックを参考にしたというお話がありましたが、Knowledge Suiteはいまだにβ版という位置づけなんです。常にお客様の要望を汲み取ってきました。「改善のスピードが速い」とのお褒めの言葉をいただくこともあります。

 上半期の実績は、月間あたりの導入社数が前年比300%でした。例えば、本社と各支店でパッケージを導入していて、情報共有ができていないような場合に、情報を一元化するためにグループウェアの刷新を決断されるお客様がよくみられました。医療機関の連携のためにインフラ基盤としてご採用いただくケースもありました。マルチテナントの特質をよく理解しておられるお客様が増えている印象があります。

 また、最近の傾向として、お客様の企業規模が徐々に大きくなっていることがあります。いまだ従業員数100人以下の規模のお客様に好評いただいておりますが、現在は100人から1000人規模のお客様が急激にご導入をいただいております。

成長の余地は大きい

 ――グループウェア市場は比較的動きが少なく、成熟市場という印象をもっています。今後はどのようにマーケットを切り開く考えですか。

 栗山(サイボウズ) グループウェア市場を成熟市場だとは捉えていません。むしろ成長市場でしょう。現在のグループウェアは、チームウェアコラボレーションと位置づけられます。以前のグループウェアの役割は、システム手帳の共有と電子掲示板の利用が中心でした。しかし、その用途は広がっています。現在は、グループウェアを導入し、10年を迎えた企業が少なくありません。もう一段上をいく提案ができれば、まだまだ市場の成長性はあると考えています。

 また、当社の市場シェアから逆算して、国内のグループウェア導入企業は10万社程度だと見積もっていますが、国内の中小企業は約40万社存在します。つまり、30万社のホワイトスペースがあるという勘定になります。当社は、このホワイトスペースも積極的に狙っていきます。

 鷲見(日本マイクロソフト) 栗山さんからホワイトスペースという言葉が出たように、中小企業のIT活用は十分に進んでいない状況です。グループウェア市場は、まだ成熟しているとはいえません。

 クラウドは、市場を盛り上げる要素になるとみています。それには、二つに分けて考えるべきでしょう。一つは、情報システム部門が整っている大企業です。グループウェアを置き換える需要がまったくないかというと、そんなことはありません。大企業にとって、クラウドによってシステムの管理をしなくても済むということは、大きなインパクトをもたらすはずです。情報システム部門の担当者の仕事がなくなるという見方があるかもしれませんが、むしろIT戦略の設計という本来の業務に集中できるようになります。他方で、情報システム部門がない企業は、これまで構築できなかった環境を低価格で実現できるようになります。

ブランドダイアログ 飯岡氏
「Knowledge Suiteは未だにベータ版、ユーザーの声を拾い上げてどんどん進化させる」
 ただし、クラウドサービスの活用は、クラウド一色になるものではないことを付け加えておきます。内部設置型(オンプレミス型)との共存を要望する大手のお客様がかなり多いです。「Office 365」は、シームレスにそうした環境を提供することができます。東日本大震災が発生した3月11日以降は、ハイブリッドの要望が急に増えましたね。こうした状況を踏まえて、お客様のご要望に応じたサービスを提供していきます。

  飯岡(ブランドダイアログ) クラウドは、グループウェアのリプレースを促すきっかけとなるとみています。クラウドと並んで、モバイルも大きなトピックでしょう。震災後は、輪番停電の話が持ち上がり、在宅勤務などでワークスタイルを変えることが求められるようになりました。スマートフォンとスレートを有効活用することで、多様なワークスタイルに対応できるようになります。グループェアの枠を飛び出したツールとして活躍することになるのではないでしょうか。当社は、モバイル対応を強化していきます。

次世代グループウェアを打ち出す

 ――2011年下半期から来年にかけて、どのような施策を打っていきますか。

 栗山(サイボウズ) クラウドは確かに新しい市場を開拓できるものですが、パッケージを求めるお客様も数多い。したがって、クラウドとパッケージの両輪の戦略を打ち出していきます。

 クラウドについては、今年の秋にサイボウズの自社クラウドサービスを開始し、それに合わせていくつかの大型製品をリリースしていきます。具体的には主力グループウェアである「サイボウズ Office」と「サイボウズ ガルーン」の次期版と「kintone」というPaaSシステムのリリースを予定しています。

 パッケージ版については、クラウドと同様に「サイボウズ Office」をバージョンアップするほか、パッケージ製品であっても外部アクセスを実現する「サイボウズ リモートサービス」とスマートフォン向けアプリケーション「サイボウズ モバイルKUNAI」を今年の秋にバージョンアップします。その中でも「サイボウズ Office 9」はすでにβ版を提供していて、1000社のモニターを募集したところ、想定数以上の応募がありました。

 これまでのバージョンアップを振り返ってみると、「Office 6」をリリースしたのは2003年、中小企業が一斉にグループウェアを導入し始めた時期でした。初めてのお客様でも違和感なく利用できるHarmonyが好評を博しました。「Office 7」は、個人情報保護法が話題を呼んでいた2007年にリリース。セキュリティの機能を強化しました。「Office 8」は、スケジュールや掲示板の次のステップに行きたいというお客様のニーズに応え、デヂエと一体で利用できるようにパッケージ化しました。次期リリースの「Office 9」は、現場に出ながらマネジメントをする“プレイングマネージャー”をターゲットに、チームマネジメントとモバイルアクセスをテーマに機能強化しています。

 鷲見(日本マイクロソフト) これまで触れてきたように、企業規模によってニーズは明らかに異なります。それぞれのニーズに対応した提案を進めていきます。とくに大企業は、いきなりすべてをクラウドに移行することはあり得えません。徐々にクラウド展開に取り組む道筋となるでしょう。そのなかでハイブリッドなどの提案もしていきます。

 中小企業には、クラウドのメリットをアピールし全社導入を促します。日本経済を支えてきたといわれる中小企業ですが、生産性が低いとも指摘されてきました。当社が調査を実施した結果、中小企業はITの活用度が低いことがみえてきました。ITを活用すればすぐにも生産性が向上するというほど単純な問題ではありませんが、Office 365が一つのプラス要因になると自負しています。

 大企業も生産性の問題とは無縁ではありません。企業規模を問わず、似たような資料を複数の社員が作成するなど、業務に無駄は多いはずです。ホワイトカラーのワークスタイルをそろそろ変えなければなりません。

 飯岡(ブランドダイアログ) 日々蓄積されていく情報をどのように活用するかが重要です。当社ではこうした認識のもと、機能の充実に取り組んでいくつもりです。

 すでに、ウイングアークテクノロジーズが提供するビジネス・インテリジェンス(BI)ツールの「Dr.Sum EA MotionBoard」とKnowledge Suiteの集計・分析機能として連携する「GRIDY BI powered by Dr.Sum EA」によって、定量的な情報を閲覧することが可能です。これはまさに、情報を可視化することだと捉えています。

 他方、クラウドとセットで考えなければならないマルチデバイスに着目する必要があります。外勤の社員がスマートフォンを駆使して、業務を遂行する場面が増えてきます。「営業支援GRIDY SFA」を提供するなかで、定性情報が欲しいというニーズの高まりを実感しています。外出先からでもマルチデバイスで報告書作成が簡単にできること。それにより蓄積された定性情報を最大限に活かすことがテーマとなっています。今後はスレートとスマートフォンをはじめとするすべてのデバイスで利用しやすいように対応を強化するという方針に沿ったものであり、マルチデバイスでいつでもどこでも安全に企業活動に必要なデータの入出力を実現させます。

 そのほかに、情報ポータルとしてのカスタム機能とAPIの拡充に取り組んでいきます。クラウドサービスの提供で高い実績を持つベンダー様へのOEM提供も増やしていきたいと考えています。

 ――本日はありがとうございました。ますますのご活躍を期待しております。
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