Special Issue

アイ・オー・データ機器 40周年に細野昭雄社長が語る 「歩みと未来」

2016/05/19 19:55

週刊BCN 2016年05月16日vol.1628掲載

 2016年1月10日に創業40周年を迎えたアイ・オー・データ機器。PCの周辺機器メーカーとして、国内コンピュータ業界の成長とともに歩み、発展を遂げてきた。今年2月には東証一部への上場も果たし、PCの周辺機器からデジタル家電などへと事業分野を拡大している。その歴史を振り返るとともに、同社の強みの源泉、今後のテーマや事業の新しい柱確立に向けた取り組みについて、細野昭雄社長に聞いた。(聞き手 『週刊BCN』編集委員 谷畑良胤)

今後の10年に向け新しい事業の柱確立へ PCとともに成長 業務向けから汎用製品に拡大

──まずは、創業からの歩みを振り返っていただけますか。
 

細野昭雄
代表取締役社長

 当社を設立した1976年は、国内コンピュータ業界の黎明期でもあり、まさにPCとともに成長してきました。

 ただ、創業当初からしばらくは、北陸が全国有数の織物産地であったこともあり、主に関連の業務用機器の開発・販売をしていました。

 最初の仕事は、織物の図案を織機に受け渡す「紋紙」をつくる工程を自動化したい、という相談を受けて開発した「カラー画像自動読取装置」です。これは、大判の反射式スキャナを用いて手書きの柄の図案をデジタル化し、フロッピーディスクに保存、そしてパンチカードのような紋紙をつくる機械に受け渡すというもので、従来職人がすべて手作業で進めていた工程をOA化しました。スキャナには16bitマイコンを使い、画像処理にはミニコンを使用しました。

 読み込んだ画像をカラーモニタで表示するには、多くのメモリが必要です。しかし、当時はメモリが非常に高価で、ミニコン本体を買えるほどの価格になる。それでは採算がとれないので、半導体メモリを自作して外付けすることでコストを抑えるという工夫をしました。こうした発想の転換と技術が当社の原点です。

──今に続く、コンシューマ向け製品を手がけられたのはいつ頃からですか。

 一般向けの製品に参入したのは、創業から5年程が経過した80年のことで、シャープやNECのマイコンに対応した外部記憶装置や周辺機器の開発です。これらのホビー機も、データの入出力装置を作成して取り付ければ実用機として使えると考えました。

 転機は、シャープの「MZ-80」用に開発したカラーグラフィックボードです。本体標準ではモノクロ表示しかできなかったのに対し、当社のボードは最大8色の擬似カラー表示を可能にしたことで発売と同時に大ヒットしました。

 その後、83年にNEC「PC-9800シリーズ」用のフロッピードライブ(FD)を開発しました。純正品と比べて静音性にすぐれるなど、性能で上回りながら価格を大幅に抑えたことで、これもヒットしました。翌年には、実質デファクトになる方式を用いたPC-9800シリーズ用増設メモリも開発し、80年代はメモリとFDが事業の二本柱でした。

 その後、90年代になるとHDDとマルチメディア(サウンドや画像系など)を中心に製品展開していきました。当時のHDDの接続にはSCSIボードが必要でしたから、その開発も手がけました。こうしたHDDとインターフェースの開発が、その後のNASなどにつながっています。
 

世の中の声に耳を傾けニーズをいち早く製品化

──次々に製品を開発してきた高度な技術力の源泉はどこにあるのでしょうか。

 ユーザーにとって使いやすいものを追求してきたことが、結果として技術力の蓄積につながっているのだと考えています。必ずしも独自技術というわけではなく、すでに世の中にある技術を、うまくまとめて形にする応用力に長けていたということでしょうか。

──それでも「企業30年説」といわれているなかで、40年間もの長きにわたって事業を発展させてこられました。その理由は何だとお考えですか。

 当社は、決してオンリーワンと呼べる技術的な強みをもっているわけではありません。それよりも技術の変遷や世の中の変化を予測し、いかにすばやく対応できるかを重視してきました。自社内にクローズすることなく、常に世の中の声に耳を澄ませ、そのニーズを製品にいち早く反映させてきたことに尽きると思います。
 

これからの日本はサイバー攻撃の猛威に晒される

──未来についてもお聞きしたいと思います。今後に向けたテーマはありますか。

 セキュリティは大きなテーマです。これまで日本では悪質な脅威と呼ばれるものを想定する必要はあまりなかったように思います。しかし、今後はサイバー攻撃の備えは間違いなく必要となるでしょう。現状をみても、悪質さや巧妙さの進展は私たちの想定を超えています。当社では、そうした脅威への対策に積極的に取り組んできましたが、これからはさらに強化せねばと考えています。

 もう一つのテーマとして考えているのは、グローバルサービスの弊害です。日本のITはどこにいってしまったのだろうかという想いがあります。米国をはじめとする海外の技術を後追いしているだけでは、未来はなくなると思います。

──クラウドもその一つですか。

 とくに、クラウドは提供者による利益独占が圧倒的です。また、世界中の人々が均質なサービスに乗るという今の状況が10年続くと世の中がおかしなことになるのではないかと危惧しています。便利さの一方で、何か大切なものを失っていると思うのです。

 クラウドについて、当社はローカルとハイブリッドで使い分けるというスタンスで臨んでいます。あくまで利用者に選択肢を与えるものでなくてはならないと考えています。たとえば、企業のなかにはクラウドへのシフトによって、いわゆる“ベンダーロックイン”の状態になるという話を聞きます。「提供者に縛られたくない」という方は1 ~ 2割はいるでしょう。

 また、当社では、「CDレコ」という、PCを必要とせずに音楽CDをセットしてスマートフォンやタブレット端末につなぐだけで楽曲を直接取り込める製品なども販売しています。若い方は、音楽をネット経由で聴くことが主流ですが、日本では所有することに楽しみを求める方も、まだまだ少なくない。すでに米国では、市場からCDが姿を消しているといいますが、用途に応じた多様性がなくなりつつある状況は、とても危ういと思います。
 

人の感性に訴求する要求にしっかりと応える

──今後10年のビジネスの柱として考えられているものを教えてください。

 第一は前述したセキュリティですが、第二の柱としては人の感性に訴えるものだと考えています。具体的な取り組みとして昨年10月に、オーディオ用NASの新ブランド「fidata(フィダータ)」を立ち上げ、その第一弾となるハイエンドオーディオサーバー「HFAS1シリーズ」を発売しました。なお、fidataとはイタリア語で「信頼」という意味をもつ言葉です。

 HFAS1シリーズは、HDDとSSDのモデルがあって価格が32万円や37万円などと高額です。音楽データはデジタルですから、PCのHDDに入れた楽曲を同じアンプとスピーカーのセットにつないでも、理屈では同じ音のはずが聴き比べるとまったく違うのです。実際、専門家の方からも、絶賛いただきました。

 結局のところ、デジタルでありながらも、人間はユーザーインターフェースも含めてアナログの世界にいるということです。そこに人が感じる心地よさがある以上、その世界を知り、理解することが大切なのです。

 今後も、オーディオ機器として感性に訴えるつくり込みをした製品にのみ、fidataのブランド名を冠して展開していきます。

──他にも柱と考えられているものはありますか。

 第三の柱になると考えているのはAIです。ただし、その利活用についてもしっかりと考えるべきでしょう。利便性が人にとって害とならないよう、使い方を間違えないようにしなければなりません。
 


 そのために大切なのは選択や判断を他人任せ(システム任せ)にせず、個人が自立/自律していることです。機械に使われるのではなく、主体的に使いこなさなければなりません。確かにAIは入力さえ誤らない限り判断を間違えないかもしれません。しかし、人は間違えることによさがあり、そこがおもしろいのです。

──最後に、パートナーに向けたメッセージをお願いします。

 なかには、きつい要求をいただくこともあります。しかし、当社はその要求にしっかりとお応えすることで、鍛えられてきました。例えば、ネットワークストレージ製品は、同じメーカーのドライブを採用していても他社とはつくりが違う。実際、製品に対するユーザーの満足度では、確実に高い評価をいただいています。

 また、快適で便利なデジタルライフの実現のために、オープンなプラットフォームづくりにも取り組んでいます。例えば2010年に当社を含む3社で設立したデジタルライフ推進協会(DLPA)では、現在16の企業・団体で、さまざまな技術研究、普及活動を進めています。

 このような取り組みで、パートナー様とともに成長し進化を続けていきます。
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外部リンク

アイ・オー・データ機器=http://www.iodata.jp/