Special Issue

PTC、エンタープライズ向けARとIoTで日本の深刻な人手不足を解決

2018/05/23 08:00

 PTCは、2015年11月に米クアルコムから買収したAR開発のプラットフォーム「Vuforia」をコア技術に、エンタープライズ向けARビジネスの拡大に力を注いでいる。VuforiaをベースにARオーサリング環境「ThingWorx Studio」を開発し、IoT+ARによって製造分野の各種オペレーションやメンテナンス、製品開発、物流など、エンタープライズでのソリューション提供を加速。誰でも即戦力な人材として活用できる環境をつくり出し、深刻化する日本の人手不足解決に貢献することを目標に据えている。

デジタル革新においてIoTとARが重要な役割を果たす

 デジタル技術の役割が急拡大し、生成されるデータ量は人間が処理できる限界を超えつつある。そのなかで人間が抽象的なデジタル情報を理解し、それを物理世界に変換する際、問題となるのが認知的負荷(情報を吸収・処理する能力の度合)だ。認知的な作業に能力を使うと同時並行する他の作業に割ける能力が減ってしまう。
 

PTCジャパン
西 啓
製品技術事業部
IoT/Manufacturing技術本部
シニアIoTプリセールス・
スペシャリスト

 PTCジャパンの西 啓・シニアIoTプリセールス・スペシャリストは、「2D画面上のデジタル情報と、3Dの物理的な現実の間には深い断絶がある。これをつなぐのがARだ。デジタル革新においては、IoTに加えてARが重要な役割を果たす」と語り、次のように解説する。

 例えば、自動車運転で利用するカーナビの画面は2Dの地図だが、ドライバーが運転しているのは3Dの現実世界。右折の経路案内があった時、目前の交差点で曲がるのか、次の交差点なのか迷うことがあるが、目前の道路上に曲がるべき交差点と方向がARで表示されれば迷わずに済む。ARを用いることで物理世界とデジタル世界の融合が可能になるわけだ。

 ARがエンタープライズ分野で可能にすることについて西氏は、現実世界にリアルタイム情報や仮想的な情報を重ねせてユーザーの視界を拡張する「もっと見える化」、リアルタイムに作業者に指示や案内をする「指導・案内」、ARインターフェースを使った「遠隔操作」という三つを挙げる。

 すでに、AR導入でコネクティッドワーカー(IoTでつながる労働者)の生産性を大きく向上させた実例が生まれている。ボーイングは翼の組立シミュレーションで30%のスピード向上、SRIは教育指示の理解スピードを47%向上、GEヘルスケアは倉庫の集荷スピードを46%向上させた。

 現在の主なAR利用は、サービス分野でサービスマニュアルやインストラクション、製造分野でオペレーターおよび組み立て作業の指示、販売&マーケティングでプロダクトの視覚化などが多い。

 一方で、企業のAR導入にはARの開発能力をもつSEの雇用コスト、説得力のあるARコンテンツの作成の難しさ、IoTやビジネスシステムのデータをARで利用する仕組みは複雑といった課題があると西氏は指摘。「こうした問題を解決するのが、当社が提供している三つのAR製品だ」とアピールする。
 

ARが可能にすること

VuforiaをARコア技術とする、3製品をラインアップ

 PTCは、AR開発のプラットフォーム「Vuforia」をARコア技術として製品を展開。3D-CADソフト「Creo5.0」、ARアプリケーション作成ツール「ThingWorx Studio」、AR開発ライブラリ「Vuforia SDK」の3製品をラインアップしている。

 Creo5.0は標準でAR機能を備えており、3D-CADの作成画面から直接ARコンテンツを作成し、容易に配信できる。

 CADによる視覚化は、従来の手法ではコミュニケーションや協調作業が制限され、デジタル情報をCADユーザー以外と共有したり、製品開発に関係する他部署のアドバイスをもらうことが難しい。Creo5.0では、3ステップで設計データを簡単にARの世界で可視化し、ARデータを作成できる。これにより迅速に公開用のモデルを定義して配信、共有。すべての関係者が設計データを参照して、効率的なコミュニケート&コラボレートが可能だ。

 ThingWorx Studioは、ノンプログラミングでARアプリケーション作成できるオーサリング環境を提供する。インタラクティブなARコンテンツを簡単に作成でき、IoT連携も可能で、IoTデータをARコンテンツにそのまま活用できる。

 ARの視覚ウェラブルデバイスとして「Microsoft HoloLens」をサポート。ノンプログラミングで簡単にHoloLens向け体験を作成できる。さらに、メガネスーパーを擁するビジョナリーホールディングスの子会社であるエンハンラボのデバイスとも協業しており、かけ心地を追求した非常に軽いデバイスが近く開発される予定だ。

 30日間フリーでThingWorx Studioを利用できるフリートライアルプログラムが提供され、すでに全世界で6500社以上が参加している。

 また、Vuforia SDKはもともと、スマートフォン用チップセット最大手の米クアルコムが開発。PTCによる買収後も、Unity、iOS、Android、Windows UWP向けに無償で提供され、世界で40万人以上のAR開発者が使用している。
 

PTCの3つのARテクノロジー

熟練人材の知識とノウハウをARで共有し、誰でも即戦力な人材に

 PTCジャパンでは、ARリモートアシスタンスを実現する「Vuforia Chalk」を6~7月をめどに提供する予定だ。Vuforia Chalkを活用すれば遠隔地にいる専門家と接続して、その名の通りチョークのような線画を描くことでリアルタイムに指示を受けたり、双方で対話しながら操作するなど応用範囲がさらに拡大。画期的なエンタープライズソリューションが実現できる。

 現在、働き方改革への取り組みが盛んだが、同時に人手不足も日本の各業界に共通する大きな課題であり、地方ほど深刻の度合が高い。このような状況のなか、戦力となる人材育成に十分な時間をかけることは難しい。

 「ARとIoTの活用によって、知識や経験のない人でも即戦力として活用できるようになる。当社では、ユーザーがスムーズにARを導入できるよう、各業界に強いSIerの方々と組んで、しっかりとサポートしていく。そして新市場を創造していきたい。有償の『カスタマーサクセスプラン』も用意しているので活用してほしい」と西氏は力を込める。
 
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外部リンク

PTCジャパン=https://www.ptc.com/ja/

エンタープライズ向け拡張現実=https://www.ptc.com/ja/products/augmented-reality

ThingWorx=https://www.ptc.com/ja/products/iot