Special Issue

レノボ×AMD 日本企業のAI利活用促進に向けた施策とレノボのセキュリティーへの取り組み

2025/10/21 09:00

 企業におけるAIの利活用が本格化してきた。そのインフラを支える立場から、中国Lenovo(レノボ)、米AMDはどのような戦略を描き、ソリューションを提供していこうとしているのだろうか。また、AIの利活用が進む中で不可欠なセキュリティーを確保するため、グローバルでレノボはどのような取り組みを進めているのか。レノボ・エンタープライズ・ソリューションズの張磊(チョウ ライ)・代表取締役社長、日本AMDのジョン・ロボトム代表取締役社長、そして先日、来日したレノボ本社でGlobal Security Executiveを務めるSkip Mann・CSO/CISOの3人に、現状と今後の方向性を語ってもらった。
 
(左から)Lenovo Global Security ExecutiveのSkip Mann・CSO/CISO
日本AMDのジョン・ロボトム代表取締役社長
レノボ・エンタープライズ・ソリューションズの張磊・代表取締役社長


「学習」から「推論」に向かう日本企業のAI利活用
「価値」の提供に向けてユーザーの輪をつくる

―― 先日、レノボが日本の大手ユーザーを招き、米沢事業所(山形県)で実施されたミーティングでは、AIの利活用についてさまざまな取り組みがあったとお聞きしました。まずは、日本におけるAI利活用の現状をどう捉えていますか。

 私たちが目指すのは価値の提供です。その実現には、ユーザーの輪が不可欠なため、今はその輪をつくることに注力しています。今や、大企業だけでなく、中堅・中小企業が生産性向上に向けて、AIを活用する時代に入ってきました。そこで、便利なツールを提供するだけでなく、どうすれば生産性向上に結び付けられるのか、ノウハウを含めてユーザー同士がコミュニケーションできる場をつくりたい。ただ、AIが普及する中で大切なのは、AIのためのAIではなく、ビジネス課題を解決するためのAIの利活用です。目的と手段を間違えてはならない。

 もう一つ、当社が製品づくりのポリシーとして一番大切にしているのは、当社の製品がいかにユーザー企業を理解しているのかということです。それを象徴する一つが、米沢事業所での検品です。世界の生産拠点から届く主な製品は、全て米沢事業所で納品前に検品を実施し、高品質を担保しています。それがお客様の信頼に繋がっている。
 
レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ
張磊
代表取締役社長

ロボトム 日本でのAI活用はほかの国々と比較するとやや遅れていますが、企業の関心は高く、国としても積極的な活用をすべく取り組んでいこうとしていると見ています。

 AIの利活用は大きく「学習」と「推論」の二つのフェーズに分けられます。膨大なデータから学習を進め、LLMなどのモデルを使用しながら、どのようにサービス化していくのかに取り組んでいきますが、大手を中心にその推論フェーズに向かおうとしています。 

ユーザーニーズに対応する幅広いラインアップが支持を得る

―― 企業のAI活用をサポートするため、特に注力されている取り組みを聞かせてください。

ロボトム AMDは幅広い製品を提供していますが、クライアント向けにはAMD Ryzen™ CPUと、AMD Radeon™ GPUがあります。DC向けにはAMD EPYC™ CPUと、AMD Instinct™ GPUがあり、AMD EPYC™ CPUは全世界のサーバーで40%のシェアを持ち、AMD Instinct™ GPUには、2023年にリリースした「MI300シリーズ」があります。そこからアップグレードし、推論の性能を加速すべく低精度の演算をサポートした最新の「MI350シリーズ」は、米NVIDIA(エヌビディア)と競合する性能を備えています。加えて、AI、DC、HPC向けCPUのAMD EPYC™ CPUは推論の分野で高い性能を発揮します。
 
日本AMD
ジョン・ロボトム
代表取締役社長

 レノボには、携帯からPC、サーバー、エッジ、クラウドまで全てのラインアップがそろいます。これにより、お客様のさまざまなニーズに対応したソリューションを提供できると共に、製造コストの削減にもつながり、高いコストパフォーマンスをお客様に提供できる。また、カスタマイズに対する柔軟性も強みで、それが前述した価値の提供にもつながっています。実際、最新の顧客満足度調査でも、「PCサーバー」部門でNo.1を獲得(日経コンピュータ2025年9月4日号)しています。

社会問題でもある消費電力の削減に大きく寄与する先進のテクノロジー

―― AIの普及は、消費電力の急拡大という社会問題になりかねないとも言われています。

 AIの利活用が進む中での大きな課題が運用コストで、特に電力問題です。ある調査では、世界の電力消費量の3%がDCで使用され、30年には3倍の約1割にまで上がると予想されています。しかも、この1割のうちコンピュート(計算処理)向けは6割で、4割が冷却用なので、冷却分を削減できれば、電力消費をかなり抑制できます。

 この社会的な課題に対して、レノボには長年培ってきた先進の水冷技術の「Neptune®」があります。第6世代の「Neptune®」は冷却液ではなく純水を使用し、空調設備なども含めたDC全体の電力を最大40%削減することも可能です。

 もう一つ、力を入れているのがエッジ向けソリューションで、PCで培った小型軽量化の技術も投入した「ThinkEdge」は、設置が容易で工場などの過酷な設置環境においても安定稼働できます。

ロボトム 高性能なAMD EPYC™ CPUを使ってDC既存ワークロードを集約すれば、最大で73%のサーバー台数を削減可能です。その分DCの消費電力も効率化できると同時に、空いたラックスペースや床面積をAIインフラ増強に活用できます。
ただ、ハイエンドのAIアクセラレーターは、1基当たり最大1400Wの電力を消費し、1つのノードに8個のGPUが搭載されると、その消費電力は10kWを超えます。このような環境では、従来の空冷システムで熱を効率的に排出することは困難ですので、AMDもまた今後のDCでは水冷がほぼ不可欠になると認識しています。

―― ユーザーのAI利活用を促進するため、両社での協業は進みますか。

ロボトム レノボとAMDはPC、エッジそしてDCサーバーと幅広い協業の歴史があり、消費電力問題への対応方針もそろっています。今後さらに新しい協業のかたちが生まれていくものと思います。ぜひ、期待してください。

AI時代に求められるセキュリティー
レノボのアプローチは「信頼」がベース

Lenovo Global Security Executive
Skip Mann
CSO/CISO


―― AIの普及とともに、新たな脅威に晒される可能性も高まると予想されます。レノボでは、AIのセキュリティーに対して、どのようなポリシーを持っているのでしょうか。

Skip AIが社会に深く浸透する中で、レノボには堅牢なセキュリティーとAIの管理体制が求められています。レノボのアプローチは「信頼」がベースで、全ての製品とサービスには、責任あるイノベーションを推進するという暗黙の契約が結ばれています。

 そこで、大切なのがAMDさんを始めとするパートナーと共に築き上げているエコシステムの存在です。ほかのメーカーともビジネスでは競争をしていますが、より広範なテクノロジーサプライチェーンのセキュリティー確保は不可欠であり、みんなが協力しなければこのエコシステムの安全を保証できないためです。

 レノボが提供する製品・サービスにおいて、AIのセキュリティーを強化していくことは当然の流れです。製品ライフサイクルの全体を網羅し、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアの全てに「Security Built-in」という考え方のもと、高度なセキュリティーが設計段階から組み込まれています。

―― 具体的な取り組みを教えてください。

Skip セキュリティーに関して、これまで1000以上のプロジェクトを展開してきました。レノボのガバナンスは最高セキュリティー責任者(CSO)が監督し、CSOは現在、成熟したセキュリティーフレームワークのもとでAIガバナンスも主導しています。戦略的な方向性を示すAI運営委員会と、プロジェクトをレビューする責任あるAI委員会を設置しています。

 そしてプロジェクトは、プライバシーセキュリティー、データプロテクト、アカウンタビリティー、信頼性、透明性、環境/社会への影響という六つの領域で評価し、リスク評価などを通じて、レノボが進める施策の実施について可否を決定しています。

 AIによってイノベーションを加速させるという目的と、リスク低減という二つのバランスをしっかり取っていくことが私たちの仕事であり、最終的には、信頼を最も大切にして取り組みを進めています。

―― レノボは180もの国と地域でビジネスを展開するグローバル企業ですが、一部ユーザーからは中国企業として見られています。中国に厳しい目を向けるトランプ政権下の米国でもレノボはビジネスを拡大していますが、Skip CSO/CISOは、米国市場でビジネスに影響が出ないよう、米政府との交渉を担われたと聞きました。レノボのどのような姿勢が米政府に評価されているのでしょうか。

Skip 私をはじめレノボのセキュリティーチームは、米国政府、CIA、FBI、軍の元幹部など世界レベルでリスク管理やサイバーセキュリティーと深く関わり、組織の取り組みを主導してきたメンバーで構成しています。チームは、世界180のマーケットにおいてグローバルな規制を継続的に監視し、進化するセキュリティー標準に積極的に適合することに尽力しています。われわれのチームは、米国はもちろん、世界の各マーケットで、どのようなことが発生しても対処できる豊富な経験と高い対応能力を有しています。

 実際、米国でのIBM PC部門の買収などに関しては、CFIUS(対米外国投資委員会)による5件の審査に合格し、国家安全保障へのコンプライアンスを積極的に推進してきました。欧州では、レノボはサイバーレジリエンス法およびAI関連法の議論に参加し、包括的でリスクベースのコンプライアンスアプローチを適用しています。

 日本でも、米国のサイバーセキュリティー成熟度モデルのCMMC(Cybersecurity Maturity Model Certification)や、米政府機関のNIST(National Institute of Standards and Technology)などの規制と並行して日本独自の規制や法律も評価・検証して対応しています。こうした取り組みの結果として、レノボの製品は世界中の企業をはじめ、教育機関、官公庁で広く採用されているのです。

―― 最後に、日本のパートナー、ユーザーに向けたメッセージをお願いします。

ロボトム 日本市場でのAMDの認知度は、まだ、高くないと考えています。社名はまだしも、DCや企業向けの製品とその性能、展開実績となるとかなり厳しい状況です。エンドユーザーとの間をつないでいただくパートナーの方々を、しっかりサポートする取り組みを順次進めていきますので、期待してください。

Skip AIにおけるイノベーションの加速は、安全性を損なうものではありません。成功のかぎは、ステークホルダーの信頼を維持するために責任ある前進を遂げることです。レノボの統合セキュリティーおよびAIガバナンスアプローチは、新たなリスクに対処し、信頼を育むための基盤となります。

 日本は大きなポテンシャルを秘めていると思います。それを引き出すことは当社だけではできません。パートナー様を含めたエコシステム全体でチャレンジすることで、課題解決に努めていきます。
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外部リンク

レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ=https://www.lenovo.com/jp/