6月3日の特別講演には、ネットコマースの斎藤昌義・代表取締役CEOが登壇。「人月ビジネスの終焉」をテーマに、生成AIがSIビジネスに与える影響について警鐘を鳴らした。
ネットコマース 代表取締役CEO
斎藤 昌義 氏
生成AIによるコーディングやテストの効率化は、劇的な生産性向上を可能にしており、工数提供を収益の柱とする従来型の人月ビジネスはもはや機能しない状況にある。斎藤氏は「『まだ大丈夫』という感覚自身がもはや幻想」と断言する。
工数需要が減少する背景には、「ダブル消失」という現象がある。一つめは、生産性向上による工数の圧縮だ。従来の10人月の開発が、AIにより3人月で済めば、同じ成果に対する請求額は単純に3分の1に減少する。二つめは、ユーザーの内製化による発注そのものの消失。従来、内製化にはスキルや人手、運用の壁があったがAIはこれらを打ち破った。仮にAIで生産性が10倍になれば、限られた人数で自分たちがやりたいシステムの開発、修正が可能となり、SIerに頼らずとも内製できる環境が整い始めている。そして、AIを使って効率化すれば開発量も増えることから、結果として工数需要は維持されるはず、という業界の楽観論を否定した。
この変化は、SI業界の構造そのものを根底から揺るがしている。斎藤氏は「SIerの最大の競合相手はユーザー企業」と指摘。ユーザー企業が内製化を進める中で、SIerは彼ら以上に優れた価値を提供できなければ存在意義を失う。実際、多重下請け構造の底辺から需要の崩壊が始まっており、3次、4次請けの仕事の消滅は時間の問題。2次請けや元請けも内製化の波に確実に飲み込まれ、従来のピラミッド構造は瓦解しつつあるという。
中堅SIerが生き残るにはビジネスモデルの抜本的な変革が不可欠として、斎藤氏は次の三つのシナリオを提示する。第1は、AIツールを駆使して少人数で高付加価値を実現できる「AIネイティブなシステム開発会社」への転換。第2は、顧客のAI活用やDXを支援する「デジタル変革コンサルティングファーム」。第3は、業界固有のノウハウを生かした「特化型AIサービスプロバイダー」。この三つのシナリオに、いずれも共通するのが「人手を売るビジネス」から「知識と技術を売るビジネス」への転換である。
人材育成も見直す必要がある。新人にコーディングスキルを詰め込む研修はもはやお金にはならないとし、「できる、すなわち実装できる人材ではなくて、わかる、つまり設計・構想ができるエンジニアを育成する」ことへのシフトを訴えた。
最後に斎藤氏は、変革における経営者の意志の重要性を強調した。「変革とは、今までとは違う新しいかたちに変えること、つくり変えること」と述べ、人月ビジネスの終焉という現実から目を背けず、過去の成功体験やしがらみを捨て去り、新たな時代に即したビジネスモデルへとつくり変える覚悟を求めた。