クラウドの日本上陸は11年
──現在、パッケージとライセンスの割合は、6対4でパッケージ販売が上回っています。ライセンスの比率を高めるには、どんな展開をしていきますか。
ティーゲル 今年4月には、大手企業向けライセンスを販売するパートナー向けプログラムとして「Adobe Authorized CLP(Adobe Cumulative Licensing Program) Reseller Program」の開始を計画しています。法人向けリセラー制度で、アドビが認定するライセンスマスターとセールススペシャリストの有資格者を一定人数以上有する基準を設け、パートナーのなかにスペシャリストをつくっていきます。
二番目に、日本における文教向けチャネルをもっと増やす。このビジネスを手がけるパートナー数がまだ少ないので、これを拡大します。芸術系大学だけでなく、それ以外の専攻分野の大学にもアプローチすることを可能にします。そして、小売業(家電量販店)です。ライセンス数を増やす戦略を話してきましたが、小売のマーケットはとても重要です。
──少し話題を戻しますが、先ほど出ていた「AIR」などを含め、アドビ製品でソリューション販売する機会が増えました。これはパートナーにとって大きなインセンティブになると思いますが…。
ティーゲル そうです。パートナーの力をどんどん借りていくことになりますので、ソリューション販売では、当社の技術者がパートナーの技術者をトレーニングしていきます。より多くの「売り手」がマーケットでアプローチできる体制を構築することが重要で、相互に連携して市場開拓することを強化していきます。
──とはいえ、アドビ製品を使ってソリューション展開できるパートナーがまだ少ないように見受けます。
ティーゲル 日本企業の社内プロセスに目を向けますと、まだまだ紙ベースになっている。多くの企業でアドビのテクノロジーを活用して、古い紙ベースのやり方を見直そうとしています。ですので、こうしたプロセスを自動化し業務効率化を促進できる「LiveCycle ES2」に特化するパートナーが増えていますよ。いままでと違う新しいソリューションを展開できるチャンスがまだまだあるということを訴求します。
──これまで以上にパートナーがアドビ製品でソリューション展開するには、どんなことを実行していく考えですか。
ティーゲル Web解析ベンダーの米オムニチュアを買収しましたので、ますますユーザーが自分のWebサイトを最適化することができます。オムニチュアを買収したことによって、最後のピースがはまってループが完了したのです。
──クラウドコンピューティングの世界が進展しますと、クライアント端末にアドビ製品のようにリッチなアプリケーションを入れる環境が少なくなります。
ティーゲル アドビはクラウド対応のソリューションをいくつか用意しています。ホステッドサービスとして、Webサイト上で画像を最適化するサービスやWebカンファレンスの技術もあります。北米では、「Acrobat.com」上でユーザーがPDFファイルを作成し、特定のファイルを見ながらミーティングする際に、そのデータをホスティング・サービスから取り出して閲覧できるサービスがあります。
一方で、「Photoshop Express」というサービスでは、クラウドを介して写真などのやり取りが可能となっています。そのため、SaaS/クラウドへのオファーは継続的に行っていきます。「LiveCycle」やクリエイティブのサービスもクラウド化を検討しています。
──アドビのクラウドは、パートナー経由の販売になりますか。
ティーゲル すでに北米では、クラウド・サービスをパートナーを介して提供している。例えば、米アカマイや米ライムライトなどがパートナーに名を連ねています。日本で、どのパートナーと組むかは北米の例を参考に進める必要があるでしょう。ただ、チャネルのモデルは北米と変わりません。日本では、2011年に「Acrobat.com」の日本バージョンを出す計画です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
一度だけ、クレイグ・ティーゲル社長に誘われて昼食を共にしたことがある。仕事の話はほとんど抜きで、世間話や趣味、家族構成などについて情報交換したが、とても気さくで頻繁にジョークが口から飛び出す。すぐに人柄を気に入ってしまった。
日本法人の社長に就任してからは、「パートナー重視」を掲げているが、ビジネス上のつき合いだけでなく、パートナーとの幹部としばしばゴルフに興じるなど、日本的で地道な行動をとれる人だ。
アドビシステムズにとって、日本は世界2番目の市場。しかし、米国に比べると、売上高に占めるライセンスの構成比が低いという悩みを抱えていた。安定的な経営を続けるために、ソリューション販売できるパートナーを囲い込もうとしたのだ。相当の苦戦を強いられると予想していたが、ティーゲル社長の指揮の下、体制づくりで成果を上げてきた。それを推進していく姿勢のようだ。(吾)
プロフィール
クレイグ・ティーゲル
1964年12月、オーストラリア生まれ、45歳。シドニー工科大学卒業。同大学でマーケティングの準学士号を取得。20年以上にわたり、ハイテク産業のグローバルビジネスを担当。米アドビシステムズに入社してからは、英国・北米地域のセールス、マーケティング、チャネル流通、カスタマーサポート、プロフェッショナルサービスの事業を統括。2009年1月1日付で、前任のギャレット・イルグ社長(現・SAPジャパン社長)が退任して空席となっていた代表取締役社長に就任した。
会社紹介
米アドビシステムズは1982年、米カリフォルニア州サンノゼ市で創業。日本法人は92年3月、東京・品川の大崎に設立。Webや印刷、出版、映像、電子ドキュメントなどのソフトウェア製品の販売支援などを行っている。米本社は製品を拡充するため買収を積極化。05年にはオーサリングソフトのマクロメディアを、昨年はWeb解析ベンダーのオムニチュアなどを買収。日本市場にも、買収したベンダー製品を順次投入している。