他社とは違う市場で伸びる
──国内ビジネスの比重が高いドメスティック型の日本のSI業界のなかで、御社は異色な存在です。
李 銀行や飲料、製薬など、ITの大口ユーザーは再編統合を急ピッチで進めてきました。サービスを提供するSIerだけが再編せずに済むはずはありません。SIerが生き残るには、主に三つの方法がある。つまり、NTTデータやITホールディングスのように再編をリードして巨大SIerになる。あるいは、小さくても誰にも真似できない専門的な技術やノウハウでニッチ市場で勝ち残る。そして三つ目が、他社とは違う成長市場で伸びることです。当社は三つ目の道として中国市場での成長を選んだわけです。
──デジタル・チャイナはITホールディングスなど大手SIerとの関係強化を進めています。超大手同士の提携強化は、御社にとって不利になるのでは?
李 デジタル・チャイナが誰と提携交渉をしているかは、彼らに直接聞いてください。言えることは、当社は1989年に日本で創業してから20年余り。国内で約1100人、中国で約1400人の人員規模に拡大してきました。日本と中国の両方に精通する人材を多く擁しています。大手SIerといえども、ここまでハイブリッドではありませんよね。日中のSIerが円滑に中国ビジネスを進めるうえで、当社ほど役立つビジネスパートナーは他にないと自負しています。
──少し個人的なことを伺うので恐縮ですが、李社長がこの道に進むきっかけは何だったのですか。
李 SJIの前身となる旧サン・ジャパンの創業した年は、中国で天安門事件が起きた年なんですね。当時私は国費留学生として日本の大学で学んでいましたが、この時期に卒業を迎えた中国人留学生の何人かは、中国国内で何が起こっているのかよく分からないこともあって、滞在期間を延長しました。このとどまった人たちの有志で立ち上げた会社が旧サン・ジャパンで、私は学生アルバイトとして働いていたんです。
中核メンバーは、国費留学生を含むバリバリの理系で精鋭揃い。私は技術面にはそこまでの自信がなかったので、営業を手伝いました。
最初の受注は、日立系の会社から別の2社経由で受注した4次請けのソフト開発。下請けもいいところですが、それでもあのときの嬉しさは今でも忘れられません。二つ目はNTTの仕事を関連会社経由で受注。元請けでも少し仕事が取れるようなってくると忙しくなって、大学院を中退。結局、この会社に就職して現在に至っています(笑)
──世界を取り巻く環境は20年で大きく変わりましたね。
李 今、中国では「明日はもっとよくなる」と思っている人が多い。中国の株価が総じて高いのも、こうした人々のマインドが支えているんです。活力ある市場に進出する日本企業も増えており、当社は国内SIerとの協業も含めて、ユーザーのITシステムを支えていきます。中国での受注がきっかけとなり、これまで直接取引できなかったような国内の大手優良企業からの引き合いも強まりました。グローバルに進出することが、結果的に国内での事業基盤を強化することにもつながっています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「明日はもっとよくなるという中国の人たちの前向きなマインドが、経済を力強く動かしている」と、李堅社長は話す。かつて日本が高度経済成長を謳歌していた時代、中国は文化大革命の混乱期にあった。やっと落ち着いた80年代末に起こった天安門事件。こうしたつらい過去からみれば、ここ20年のめざましい経済発展は、プラス思考のマインド醸成に十分すぎる材料である。
振り返って日本のIT業界はどうか。李社長は、「すばらしい商材をもっているのに、海外に売ろうというマインドが弱い」とみる。SJIはここにビジネスチャンスを見出した。SJIが日本のITサービス商材の中国向けローカライズを行い、デジタル・チャイナが売る。この仕組みで日本のSIer経営者のマインドを刺激する。「当社が日中SIerの“架け橋”になる」ことでビジネスを伸ばす。(寶)
プロフィール
李 堅
1961年、中国北京生まれ。79年9月、北京大学入学。80年、国費留学生として選抜されたため同大中退。日本語予備学校などを経て、81年、電気通信大学計算機科入学。87年、電気通信大学計算機科学研究科修士課程修了。同年、東京大学大学院博士課程(理学系研究科情報科学専攻)入学。90年中退。同年4月、サン・ジャパン(現SJI)入社。92年、取締役。94年、常務取締役。96年、取締役副社長。97年、代表取締役副社長。98年、代表取締役社長に就任。
会社紹介
SJIの今年度(2010年3月期)連結売上高は前年度比0.8%増の260億円、経常利益は同32.3%増の16億円の見通し。09年11月、中国大手SIerのデジタル・チャイナ・ホールディングスと業務提携。子会社などから最大で40%程度の出資を受け入れる資本提携も結び、中国ビジネスをより一層拡大させる。