“次の一手”を考えている
──国内情報サービス業界は、大型のシステム開発プロジェクトが減るなど、厳しい状況にあります。
木村 これまで日本経済を引っ張ってきた製造業でさえ、リーマン・ショック以降、前年度比何割減ったという話をよく聞きます。いいか悪いか分かりませんが、大手SIerの業績を見ると、全体的に2割、3割売り上げが落ちるという状況にはなっていない。そう考えると、ITに対する需要は底堅いものがあるのではないでしょうか。もちろん、ユーザー企業が元気になってもらわなければ、いずれ国内情報サービス市場も縮んでしまいます。そのために、どのような手を打つのか、顧客の企業価値をどう高められるのかという課題を当社のようなSIerが的確に解決し、結果を出していく必要があります。
──御社の直近の業績はどうでしょうか。
木村 残念ながら昨年度(09年9月期)は、2期連続の減収減益でした。三菱東京UFJ銀行のシステム統合の特需が一段落し、その後に経済危機で市場が冷え込むダブルパンチを食らった格好です。しかし、銀行のシステム統合という巨大プロジェクトの一翼を担った経験は、今後のSIビジネスに大きなプラスになると自負しています。例えば、プロジェクトの管理遂行能力など、業界標準であるITスキル標準(ITSS)に基づくレベルアップを着実に行ってきました。こうした人材育成の成果は、クレジットカード業界や生損保業界の合併、再編など需要を捉えるのに強力な武器になります。
──今年度(10年9月期)の見通しはいかがですか。情報サービス市場は、経済危機の発生から1年余りがすぎ、そろそろ明るさが見える頃ではないでしょうか。
木村 上半期(09年10~3月期)は、厳しい状況が続きますが、下半期は引き合いが増えるとみています。通期では増収増益を目指します。
経営や業務、ITをトータルで改善する提案は、すなわちバリューチェーンの創造です。確かに三菱東京UFJ銀行のシステム統合のような巨大プロジェクトは、今後減るかも知れませんが、一方で、“次の一手”を考えている企業経営者は決して少なくありません。事業再編やM&A、グローバル進出などは、より一層の加速が考えられます。経営層からみれば、ダイナミックに動く事業部門の情報をグローバル規模で可視化する必要性が高まるわけで、これを実現するにはITの力を活用するしかありません。
──課題はどこにあるでしょう。
木村 一つ挙げるとすれば、自身の弱みをどう補完していくかだと考えています。システム開発や業務プロセスなど、もっと改善してコストを落とし、品質を高められる可能性があるかもしれません。まずは、そういう課題に気づくことが大切なのです。社員一人ひとりに、「ここをこう変えれば、生産性が高まり、コストが下がる」といった改善意識をもってもらう。そして着実に行動に移せば、課題は必ず解決できます。逆に、課題に気づかなければ、永遠に解決できません。先の経済危機でも、経営環境の変化をいち早く察知した企業から順に元気を取り戻しつつあります。当社も、こうしたユーザー企業を手本にしながら、顧客とともに課題解決に当たり、自らの弱みも克服する。こうした取り組みによって競争力を高め、ビジネスを伸ばしていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
強みはより強く、弱みは補完していく――。木村高志社長は“競合と協業”のバランスを重視する。2009年9月に株式上場した親会社の三菱総合研究所は、グループの年商1000億円を中期目標に掲げる。三菱総研DCSは、グループのSI事業の中核を担う。
だが、年商規模で数倍も上をいくライバルSIerも少なくない。そこで打ち出すのが三菱UFJフィナンシャル・グループを含めたグループ4社連携や、BPOの手法を用いたユーザー企業との協業、日本IBMなど同業他社との技術アライアンスである。時に競合しても、自身を補完できるのであれば、「柔軟に協業を進める」方針を示す。
今年4月以降は、「受注に明るさがみえる」と話す木村社長。自身の強みを徹底的に伸ばすとともに、アライアンス戦略を加速させることで、トップSIerグループにおける存在感を高めていく。(寶)
プロフィール
木村 高志
(きむら たかし)1954年、東京都生まれ。77年、慶應義塾大学経済学部卒業。同年、三菱銀行入行。97年、システム第一部システム企画室主任調査役。02年、新宿新都心支店長。03年、中小企業部長。04年、執行役員法人業務企画部長委嘱。07年、三菱東京UFJ銀行常務執行役員。東日本エリア支社担当。09年10月、三菱総研DCS社長に就任。
会社紹介
親会社の三菱総合研究所の昨年度(2009年9月期)の連結売上高は前年度比1.1%減の734億円。営業利益は同15.9%減の54億円。うち、三菱総研DCSが中核部分を担うITソリューション事業の売上高は530億円。三菱総合研究所の今年度(2010年9月期)の連結売上高は750億円、営業利益54億円の増収増益を目指す。