グーグル日本法人は、クラウドコンピューティングの本格普及に向け、エンタープライズ事業を“超戦略的事業”と捉えている。現在、大規模な人員補強を行っており、SIerやアプリケーションベンダーとの連携も深めている。今年1月に就任した事実上の日本法人代表である有馬誠・専務執行役員は、「ユーザーに役立つ仕組みを徹底してつくりあげる」と宣言。クラウドの「リードオフマン」として、日本市場で技術革新を進める考えだ。
ユーザー・エクスペリエンスを追求
──「世界のグーグル」のビジネスのすそ野は、検索エンジンに限らず「Android OS」「Chrome OS」「YouTube」など、あらゆるIT機器、ITを使うさまざまなシーンに広がっています。何をもたらそうとしているのでしょうか。
有馬 全体としていえることは、収益を得る場所が、「BtoC」でなく「BtoB」であるということです。その前提は、インターネットビジネスです。ユーザーの支持が得られないことには、「BtoB」で収益を得ることができないというのは基本ですね。
ヤフージャパンの立ち上げを経験し、1月にグーグル日本法人に転身して思ったことは、われわれが「ユーザー・エクスペリエンス」と呼ぶ「ユーザーに喜んでもらい、ユーザーの役に立つことを徹底して追求する」というスタイルはブレていないということです。
──グーグルが定義する「ユーザー」とは、何を指していますか。
有馬 テレビやモバイルなどを含めて、ITを使うすべての人です。ただ、「テレビユーザー」という言い方はおかしいですね。「デジタルライフスタイル」に垣根はありませんから。
──家庭でITを使うユーザーも働きながらITを使うユーザーも、「すべて」のユーザーに対し「エクスペリエンス」を追求するということですね。
有馬 そうです。これで「すべて」ということが整理できたでしょうか。そこが、われわれが最も力点を置いているところです。例えば、クラウドコンピューティングを展開するエンタープライズ(法人・企業)事業では、お金をどこからいただくかというと、企業からいただくのですが、「使う人」の便利さを向上させなければいけません。
──グーグルの収益モデルは、革新をもたらしています。クラウドでグーグルが起こす技術革新には目をみはるものがありますが、これからはどんな変革をしていきますか。
有馬 結果として、そう見えているのかと思いますが、とにかくユーザーにとって「それはおかしい」とか「これは不利益だ」ということを徹底的に改善しようとしているだけです。
その結果として、既存のビジネスモデル(サーバー設置型のITシステムなど)に対抗する図式ができあがっているだけ。特定のベンダーモデルに対して対抗心を燃やすというのは、これまで社内で聞いたことがないですね。
──これも一般論になりますが、グーグルのビジネスモデルは、いつ頃までに、どんなものをつくるといった到達目標のようなものはあるのでしょうか。
有馬 ないんじゃないですか。個人的な意見ですが、私は1996年の立ち上げからヤフージャパンにいて、02年時点で、「インターネットビジネスは完成に近いところまで来た」と感じて退社を決意した。しかし、8年ぶりにインターネットの世界に戻ってきて、振り返ってみると、02年当時は「石器時代」ですね。10年後にいまを振り返ると、「縄文時代」か「弥生時代」になっているんじゃないでしょうか。変化は、これからが本番です。
──ヤフーと比べて、どうでしょうか。グーグルのほうが発展性はありますか?
有馬 ヤフーに限りませんが、インターネットの黎明期は、「テクノロジー追求型」と「ビジネスモデル追求型」という両方の側面がありました。ヤフーの場合は、テクノロジーに依存しないモデルで成功したといえます。一方、最近では、テクノロジー重視も大事に感じられるようになり、そこで抜けてきたのがグーグルです。現時点では、テクノロジーがベースにあるビジネスモデルをもつところが優勢になっています。ただ、将来的にはこれもまた分かりませんね。
──現時点では、グーグルに優位性があるということですか。
有馬 そうですね、集まったエンジニアの質と量を見ても相当に凄いので、当分の間、世界をリードできるでしょう。
──そのなかで、“日本発”のようなテクノロジーは生まれていますか。
有馬 「Google Map」のロシア版や中国版は、日本のエンジニア部隊がつくっています。こうした技術の面はグローバルを見渡し、長けたところが対応しています。モバイルビジネスはグーグルのなかで日本が世界をリードしている。とくに、モバイル・プラットフォームへの広告配信技術は群を抜いていますよ。
グーグルに集まったエンジニアの質と量は相当に凄く、当分の間、世界をリードできる。
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