クラウドのアプリ開発環境を提供
──エンタープライズ事業ですが、クラウドなどで、国内で短・中期的にどんな戦略を打ち出していきますか。
有馬 クラウドを明確に定義できる人は、いまいないと思います。グーグルの場合は、クラウドを使い、その上のアプリケーションをクラウドの形で使うことで、業務の効率化や生産性向上などにつなげることを実現しています。まずはそこに役に立つことを考えています。現在は、「Google Apps」のアプリケーションを拡充しようとしています。
──メールやカレンダーなどに限らず、役立つアプリケーションをどんどん増やすということですね。
有馬 これまでもユーザーの要望に応えて拡充してきました。最近では、「クラウドで構造的な転換を図るべき」と感じている企業ユーザーが増えてきています。いち早くトレンドに即したアプリケーションを開発したい。例えば、日本企業の習慣に合致した「勤怠管理」アプリは、サードパーティが開発したアプリを販売するウェブストア「Google Apps Market place」からダウンロードすることで、簡単に使うことができるようにしています。いままでにはなかった考え方なんです。
──ITを使う側にとっては、分かりやすくなりましたね。
有馬 IT管理者にとっては、ドラック&ドロップでアプリをもってきたら、すぐに使えてしまう。いままでは、サーバーを設置し、OSやデータベースを構築し、全体のキャパシティを検証して導入していましたから、本当に簡単です。
──企業に必要とされ、簡単に導入できるアプリを増やしていく……。
有馬 はい。そうしたアプリ開発や関連するシステムを提供していきます。また、最近アナウンスしましたが、「Google App Engine」のfor Business版を出し、グーグルが用意するクラウドサーバー環境で、アプリ開発ができます。
──小さなベンダーでも、一気に製品を世に出せそうですが。
有馬 「Google Apps Market place」にアプリを乗せれば、仮に一人事業者のベンダーでも、世界200万社以上のユーザーに向けて製品をアピールできます。これは大きいですよ。
──いま、“日本発”のこうしたアプリはどれほどありますか。
有馬 いまはまだあまりありません。われわれとしては、どんどん出てきてほしい。グーグルには、「宣伝しなければできないことは、やらない」という企業文化があります。それより、よいモノをつくることを優先しています。「ご自由にどうぞ」という世界です。
──富士ソフトと戦略提携していますが、このようなアライアンスは、今後どのように展開していくのですか。
有馬 同じアライアンスは10社程度あります。それを積極的に増やすことはしません。ただ、社内では「エンタープライズ」は超戦略的な事業で、明確な戦略目標を立てています。この部分の人員は、ひたすら増強・増員です。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ヤフージャパンの井上雅博社長と、同社立ち上げに貢献した主力メンバーの一人が有馬誠氏だ。日本のインターネット広告ビジネスの創始者といっても過言ではない。ネット広告の国内の第一人者が、今度はグーグルでその力を発揮しようとしている。
今年1月、グーグル日本法人は社長職を廃止した。その後に、事実上の社長に就任したばかりの有馬氏は、「グーグルのテクノロジーは計り知れない」と、興奮が伝わってくる口調でインタビューに答えた。
ただ、同社の前に立ちはだかる課題も少なくない。「クラウドコンピューティング」の創始者として、今度は追われる立場になった。なかでも、エンタープライズ事業は、本人にとって未知の世界だろう。アマゾンやセールスフォース・ドットコムもそうだろうが、グーグル以上に泥臭い展開をしてきている。世界はまだしも、日本で勝ち抜くには、もう一段上の戦略的な取り組みが必要だ。(吾)
プロフィール
(ありま まこと)1956年10月、大阪市生まれ、53歳。80年3月、京都大学工学部卒業。80年4月、倉敷紡績(現クラボウ)入社。87年、リクルートに転職し、広告ビジネスにかかわる。96年4月には、ヤフーの第一号社員として立ち上げに参画し、取締役に。2000年6月には同社常務取締役に就任した。2年後には同社を退社し、04年12月、アイ・アムを設立して社長に就任。2010年1月から現職。
会社紹介
グーグルは1998年9月、米国カリフォルニア州のアパートの一室で設立。日本法人は01年8月に立ち上がった。米本社は、「YouTube」を買収し、ネットエンジンを強化する一方、デジタル端末向け「Android OS」や「Chrome OS」などの提供も開始。エンタープライズなどで「クラウド」を打ち出し、快進撃を続けている。日本法人は、辻野晃一郎氏を最後に社長職を廃止。グローバルと歩を一にしながら成長を目指す。