挑戦し続けることが重要
──ドイツのitelligence(アイテリジェンス)やCirquent(サークエント)など欧州の有力グループ会社や、先の北米での基盤強化に比べて、アジアでのビジネス基盤が弱い印象を受けます。
山下 正直、アジア地区はまだ圧倒的に不足しています。ただ、米国のキーンやインテリグループの社員の約半数の勤務地はインドです。ゆうに7000人を超える規模になります。主に開発を担当しているメンバーで、当社既存の開発人員を合わせると、インドでの開発リソースは約8000人規模に拡大することになりました。
実は、これはとても重要なことで、欧米で受注したSI案件をインドで開発して納入するというグローバルソーシングモデルの実行が可能になります。IBMやアクセンチュアなどライバル他社が、インドで数万人規模の開発人員を擁し、競争力のある価格帯を武器に攻勢をかけている。開発規模ではまだ及びませんが、少なくともこれからは彼らと闘える足がかりができたという点では、大きな進歩です。
──日本の有力SIerの多くは中国・ASEANへの進出に重点を置いています。
山下 当社も重視していないわけではありません。ASEANで実際に商売をしてみて分かったことなのですが、ASEANで受注したシステムをインドで開発するケースが、意外に多いんです。ただ、中国は少し違うところもありますし、なんといっても日本のITシステムの海外オフショア開発先でトップの座を占めていますので、中国での体制強化は急ぐ必要があります。中国では今、約2500人の体制なのですが、これを早期に5000人規模へと拡大させたい。
──近年、グループ化した海外企業をみると、SAPをはじめとする、パッケージソフトを活用したSIを得意としているケースが多いですね。
山下 ご指摘の通り、とりわけ欧州、北米のグループ会社はSAPを強みの一つとしています。あと、これはどうしても言っておきたいのですが、日本のパッケージソフトベンダーにも頑張ってほしい。海外の顧客を訪問すると、韓国のソフトベンダーがすでに売り込みに来ていることが、ここ最近、立て続けにありました。サムスンやLGなどにハードウェアでも押され気味で、さらにソフトでも水をあけられる可能性がある。総合力の発揮を考えれば、日本のソフトベンダーと海外でもっと連携してもいいと思っています。
例えば、国内ソフトベンダーで構成するMIJSコンソーシアムは、海外進出を積極的に進めていますよね。海外進出に当たって、五月雨式の戦術は絶対にダメ。各個撃破されてしまう。当社のようなSIer、MIJSのメンバー、ハードベンダーがスクラムを組んで、集中的に市場を攻めるほうが勝率が上がります。
われわれIT業界も含めて、日本の産業界は近年、勢いが衰えているといわれることが多くなってきました。製品やサービス、あるいは戦術の巧拙も重要ですが、ビジネスの勝ち負けには、時の運も大きく影響します。つまり、負けるときもあれば、勝つときもある。重要なのは、常に挑戦し続けることです。
・こだわりの鞄イタリアのブランド「サルヴァトーレ・フェラガモ」の鞄。「昔から鞄を衝動買いする癖があって、これもその一つ」と山下徹社長。口金がよくできていて、「片手で簡単に開け閉めできる」ことがお気に入りのポイント。海外出張の際に愛用しているとのこと。
眼光紙背 ~取材を終えて~
欧州と北米地区は、それぞれ年商1000億円を射程に入れつつある――。NTTデータ・山下徹社長は、M&A(企業の合併・買収)を武器に、破竹の勢いで海外進出を推し進める。国内市場が成熟して、大幅な成長が見込めなくなったことが背景にある。
だが、ほかにも狙いがある。例えば、国内の有力顧客からは、海外でも国内同様のITサポートを求められており、こうしたニーズに応えることで受注増を見込む。また、欧米のIT先進諸国で培った知見を国内に持ち込めば、国内ビジネスをより有利に展開できる。さらには、インドや中国でのオフショア開発体制の強化で、価格競争力も高まる。
山下社長は、「世界の成功モデルを日本に持ち込む」と明言し、国際競争力をテコに国内市場を深耕する。同時に、国内有力ソフトベンダーとの海外での連携を推進。国内IT産業の衰退阻止に向けた“共同戦線”を張っていく構えだ。(寶)
プロフィール
山下 徹
(やました とおる)1947年、神奈川県生まれ。71年、東京工業大学工学部卒業。同年、日本電信電話公社(現NTT)入社。99年、NTTデータ取締役産業システム事業本部産業営業本部長。03年6月、常務取締役ビジネス開発事業本部長。04年5月、常務取締役経営企画部長。05年6月、代表取締役副社長執行役員。07年6月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
NTTデータの今年度(2011年3月期)連結売上高は前年度比1.5%増の1兆1600億円、営業利益は同8.2%減の750億円の見込み。国内情報サービス市場の回復が予想以上に遅れ、価格競争が激化したことなどが減収要因となった。今期の海外売上高はM&A(企業の合併・買収)の積極展開で、昨年度に比べて約300億円増の1000億円に達する見通し。