年率35%成長でようやく市場並み
――サービスは無形商品ですから、いったんノウハウを移転してしまえば、その後のビジネスにつながらない危険性があるのではないですか。
梅 それはナンセンスですよ。IT業界は日進月歩ですし、常に新しいサービスを日系SIerが創り出していけばいいだけの話です。日本だけにとどまっていても将来の大きな発展がないのは揺るぎない事実ですし、現に中国情報サービス市場は勢いよく成長しています。長年、日本人や日本企業をみてきて思うのですが、彼らは技術やサービス品質にとことんこだわり、コツコツと新しい商材を開発し続けています。これは、もはや民族性の違いともいえるもので、中国のダイナミズムと日本の技術や品質を組み合わせれば、ビジネスの可能性はさらに大きく膨らむに違いありません。
――御社のビジネス概況はどうでしょうか。
梅 当社はまだ社員数500人足らずの中堅SIerですが、2010年12月期の売上高ベースで前年と比較すると約35%伸びました。中国情報サービス市場の2010年の伸び率が34%増ですので、市場の伸びを若干上回るくらいです。広東省の同業他社をみると、前年比50~100%増で売り上げを伸ばしているケースがざらにありますが、堅実な成長という私の経営方針の影響もあって、そこまでは伸びていません。それでも2011年12月期の見通しは、日系有力SIerとの協業効果も本格的に出てきますので、前年度比35~50%くらいは売り上げを伸ばしたいと考えています。
――冒頭でおっしゃったように、日本からのオフショア開発でスタートしたとのことですが、売り上げ全体に占めるオフショア開発の比率はどのくらいですか。
梅 実はまだ高くて、2010年12月期では8割近くを占めています。日本からのオフショア開発は、日本のソフトウェア開発の量に比例しますので、今後この分野が大きく伸びるとは考えにくい。そこで提携戦略を展開して、中国地場のビジネス拡大に取り組んでいるのです。2~3年後には、今の比率を逆転させて、中国市場に向けたビジネスで売り上げの8割を稼ぎだすことをイメージしています。
――御社は提携戦略で成長への道筋を立てていますが、日本からのオフショア開発の比率が高い中国SIerは、必ずしもそうではないわけで、厳しい立ち位置にあるのではないですか。
梅 われわれのように日本との取引が多い中国のSIerは、中国全国にたくさんあります。なかには日本からの受注が減ったところもあるのかもしれません。ただ、見方を変えれば、日系SIerのシステム開発に精通した会社や人材がたくさんいるということなのです。世界のどこに、巨大な市場をもち、日本式のシステム開発に精通した人材が大量にいる国があるでしょうか。日系SIerは中国進出に意欲的ではあるものの、だからといってM&Aが容易にできるほど資金的な余力はない。中国側の規制もまだ残っています。であれば、当社のような会社や人材を存分に活用して、ともに力を合わせて成長盛んな中国市場を開拓するのはごく自然な流れであり、むしろ推進すべきです。
・こだわりの鞄 お気に入りは「Montblanc(モンブラン)」のビジネスバッグ。「姉が中東のドバイへ旅行に行ったときに買ってきてくれた」(梅総裁)ものだ。実は、もう一つ、群馬大学の大学院留学中にお世話になった地元の鞄メーカー「モギカバン」も、「日本的な使いやすさ」でお気に入りとのこと。
眼光紙背 ~取材を終えて~
広東華智科技の梅傲寒総裁は、勢いよく成長する中国市場への進出を拡大するには、「日中双方が強みを持ち寄り、特徴を生かし合うことが大切」と説く。日本と中国のSIerが同じような領域で競合していては、協力関係が成り立ちにくいからだ。例えば、中国のSIerは豊富な人材を生かしたソフト開発力や営業・サポート力で地の利がある。一方、日系SIerは、中国のSIerが弱いとされるきめ細かなサービス体系や品質管理、業種ノウハウで強みを生かしやすい。
日系SIerは、これまでサービスや業種特化などで、従来型のハード販売や受託ソフト開発からの脱却を進めてきた。日本の情報サービスの成熟度に合わせた進化であるが、「中国は今、まさにハードやソフトも必要とする成長期」。中国地場の有力SIerが注力する領域を、日本の成熟度の高い技術やノウハウでサポートする協業を、より多く進めていくことが中国ビジネスの成功につながる。(寶)
プロフィール
(MEI AOHAN)1969年、中国・湖北省生まれ。89年、華中科技大学卒業。同年、来日。群馬大学大学院に進学。専攻は電子情報工学。コンピュータアルゴリズムなどの分野で教員を経て、2003年に中国・広州市で広東華智科技を起業。総裁に就任。
会社紹介
広東華智科技は、中国南部の広州市に本社を構える地場有力SIerである。社員数は約500人で、2010年12月の売上高は前年度比約35%増えた。JBCCホールディングスや日立情報システムズなどと協業。2011年6月には日立情報システムズとの合弁会社「広東華智立信軟件」を本格的に立ち上げている。今期(11年12月期)の広東華智科技の売上高は、日系SIerとの協業ビジネスが追い風となって、前年度比35~50%増を目指す。