従来型ビジネスモデルから脱却
――HP時代の経験をどのように経営に生かしますか。
松本 HPには30年近くいました。最初のほぼ10年間はフィールドシステムエンジニアとして、サーバープラットフォームのサポートや生産管理、財務会計システムのプロジェクトを担当しました。次の10年間は、主に営業で直接販売と間接販売の両方を担当しました。最後の10年間は、製品事業部でマーケティング活動などに従事していました。
どの経験も役に立っていますね。社内では、ファン会長が開始したプロジェクトとして、米国で開発したERP(統合基幹業務システム)の導入を進めています。数か月でカットオーバーできるでしょう。これには最初の10年間の経験が非常に役に立っています。システム導入がどのようなものなのか、肌感覚でわかっているからです。一方で、販売店、ベンダーの担当者と営業的な話をするときに、営業の経験がそれなりに生きています。直近の10年間の製品事業部での経験が、ディストリビュータでは一番生きてくると思っています。
当社は、企業向けサーバーやストレージ、ネットワークビジネスはまだまだ大きく伸ばす余地があります。前職での実績を役立てることができます。
――具体的には、どのようにして企業向けビジネスを伸ばしていくつもりなのでしょう。
松本 伸ばすには二つの方向があります。一つは売り上げを伸ばすこと。もう一つは利益を確保することです。経営的には難しくても、それをバランスよくやっていくのが大きな課題だと思っています。
まず売り上げを伸ばす。社内のインフラ体制を整えたうえで、専門性を身につけた営業活動を展開していきたいというのが方針の一つです。
二つ目として、ディストリビューションから派生した米国でのサービスを日本でも展開したい。サービスの例を挙げると、マネージド・プリントサービスがあります。日本ではプリンタメーカーがサービスを提供しています。直接日本にもってくることができるかどうかは検討が必要ですが、50種類くらいあるソリューションのなかから通用しそうなものを選びたいと考えています。
シネックスは、保守契約更新の代行などのビジネスプロセスアウトソーシング(BPO)サービスを提供しています。代行業務は、英語でのサポートができるフィリピンで展開しています。成長期にあるベンダーは、こういう仕組みを自社にもつことは重荷です。米国では、こうしたベンダーの業務をサポートし、成長もサポートする体制ができあがっています。日本でも、ベンダーの一部業務を代行するようにしていきたい。これが三つ目です。
――人材の教育に力を入れてこられました。これは、専門性をもった営業活動をすることが狙いですか。
松本 まさしくそうです。体育会のように、朝練習や昼練習など、いろいろなパターンを用意しています。そこでは、大きくわけて二つ勉強しています。一つは、お客様にどのように製品を提案すると効果的で利益があるか、という営業アプローチ的なもの。もう一つは、製品に関する知識です。
――ファン会長が推進してこられたオペレ―ション(物流関連)コストの削減といった取り組みは、一段落したのでしょうか。
松本 ファン会長が始めたプロジェクトであるモバイル営業化を推進していきます。地域はなるべくモバイル営業化を進めて訪問件数を増やす一方で、バックエンドは集約し、効率化することでコストメリットを出し、そのメリットをパートナーに還元していきます。また、外資系である特徴を生かし、首都圏と同じタイミングで海外の素晴らしい商材に関する情報を地方にも提供しようと考えています。
・お気に入りのビジネスツール 手紙をしたためる際に、ペリカンの万年筆で署名する。「転職するときに、HP時代の友人たちが購入してくれた。HPのビジネスを伸ばしてください、という気持ちがこもっている(笑)」。iPhoneでは、出荷状況などの各種情報を確認しているそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
シネックスが丸紅インフォテックを買収して間もない2010年12月、当時社長だったロバート・ファン氏に取材する機会があった。その際に、ファン氏が強調していたのが、高すぎるオペレーションコストの削減。就任から1年の間に、物流機能を内製化したりシネックスのノウハウを取り入れるなどで、サプライチェーンの合理化に成功した。これが、ファン氏の主な実績である。
ファン氏は、「まだタッチしていないソリューションがあります。ストレージやネットワークのビジネスなどを伸ばしていきたい」とも話していた。それだけに、このタイミングでの社長交代には驚いた。次は、企業向け事業へのてこ入れで陣頭指揮を執るものだと思っていたからだ。
もっとも、人選の狙いを知って、改革の速度を増している印象も受けた。ファン会長と松本社長の経営体制下で、従来型ディストリビュータから脱却しようとしている。(宮)
プロフィール
松本 芳武
(まつもと よしたけ)1957年12月9日、東京都生まれ。1982年、横河・ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)入社。1997年、米HPに出向し、エグゼクティブ・ブリーフィング担当。執行役員エンタープライズ・ストレージサーバー事業統括やエンタープライズビジネス営業ストラテジック・プロジェクト担当を経て、2011年8月1日、シネックスインフォテックの社長&CEOに就任。
会社紹介
1962年10月、関東電子機器販売を設立。1989年4月、丸紅が経営権を取得。1998年6月、東京証券取引所第二部に上場。2001年10月、商号を丸紅インフォテックに変更。2004年10月、コンピュータ ウェーブと合併。2007年11月、上場廃止。同年12月、丸紅の完全子会社となる。2010年12月、丸紅が同社保有の株式すべてをシネックスに譲渡し、商号をシネックスインフォテックに変更。