スマートシティ事業の強化点は4分野
──スマートシティの建設にあたって、NECは何ができるのですか。
木戸脇 スマートシティを建設するためには、さまざまな技術やソリューションが必要となります。NECがすべての分野で競争力のあるソリューションを提供し続けることは不可能でしょう。ですから、NECは四つの分野に焦点を当てます。すなわち、「安心・安全」「医療・ヘルスケア」「環境・エネルギー」「交通・物流」です。
ひと言でスマートシティといっても、各都市の社会インフラの整備状況、経済状況が違うので、ニーズが異なります。私が定めた4分野は、その都市がどんな状況でも当てはまりやすい汎用的なソリューションが多い。また、NECがすでにもっている強みでもありますから、他社との差異化を容易に図りやすい分野でもあります。
街の安全を保ち、国民に安心を与えるための防災・監視システムや、病院・介護施設で利用する業務アプリケーション、ビルやエネルギーを管理するためのシステム(BEMS)、空港や駅に欠かせない映像表示装置や業務システムなどが代表的な例です。われわれはこれらをトータルで提案できます。
──ライバルは、どこになりますか。
木戸脇 正直にいえば、日本企業は相手にしていません。やはり、力をつけてきた時の中国のIT企業になるでしょうね。だから、今はライバルがどうかを気にするよりも、いかに早く、NECがスマートシティ建設に貢献できるかを知ってもらうことが先決です。
──スマートシティ関連事業を伸ばすためのソリューションは十分整っているという感触ですか。
木戸脇 ニーズは変化・進化しますから、今のソリューションで十分、とはどんな時にもいえないでしょう。要望を把握して、製品・サービスの強化は進めていかなければなりません。
──中国では、6年ぶりに携帯電話の販売を再開し、タブレット端末も初めて発売しますね。これもスマートシティ事業を伸ばすためには必要という判断ですか。
木戸脇 それ(スマートシティ)だけではありませんが、大きな理由の一つ。端末は必須と判断しました。
──拠点・人員は十分足りている、と?
木戸脇 拠点は、北京・上海・広州といった沿岸部の超大都市と、天津・大連、青島といった沿岸部大都市、西安や成都などの内陸部大都市には、拠点を設置済みですが、今後はそのほかでも必要になるでしょう。大きなビジネスにつながる可能性が高い都市をしっかりと見極めて、順次設けていくつもりです。また、スマートシティに特化した新会社を設立することも検討していますよ。
人員でいえば、数というよりはローカル人材(中国人)にこれまで以上に要職に就いてもらう必要があると考えています。すでに中国人スタッフを事業部長クラスに就任させることは珍しくなくなり、子会社によっては社長も中国人が務めているケースがあります。中国でのビジネスは中国を知っている中国人に任せたほうがいいと考えていますので、今後も推進します。
──スマートシティ関連事業の目標は?
木戸脇 競合ベンダーもこの記事を読むと思うので、具体的な数値は明かせませんが、来年度にはスマートシティ関連事業が中華圏全体の売り上げで、一番大きな数値になるでしょう。
──レノボとNECは、パソコン事業で提携関係にあります。中国最大手のパソコン会社との協業関係は、中国事業に生きていますか?
木戸脇 現段階では、国内のパソコン事業の話だけですからね。協業範囲の拡大についても、まだ具体的な計画が示されていません。今は、中華圏の事業にレノボとの協業関係が好材料になっていることはありません。
・お気に入りのビジネスツール 愛用のソニー製電子辞書。実は、写真の製品は“2世代目”。以前、深センのゴルフ場で車上荒らしに遭って盗まれたことがある。「使いやすいから、同じものをまた購入した」。中国での生活が長い木戸脇氏でも、「必ず携帯する必需品」になっている。「タクシーの運転手と会話する時などに使っている」とか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
木戸脇総裁の話を聞いていると、NEC全体の業績低迷が、まるで嘘のように思えてしまう。
急成長国を相手にビジネスしているとはいえ、中華圏の業績は好調。木戸脇総裁の今後の計画にも力が漲っているからだ。「これこそが中国でビジネスを伸ばす人の顔」と感じさせる。戦略が明確で、話す表情に活力を感じる。昨年度に1000億円超の最終赤字を出した会社の人間とは、とても思えない。
木戸脇総裁に会うのは、今回の取材で三度目になる。最初に会ったのは昨年2月だった。その時に話を聞いてから、この連載企画(KeyPerson)に登場してもらいたい人だと感じていた。木戸脇総裁の話は今回、ほぼスマートシティ事業に終始した。都市開発が急速に進む場所で、その需要を正面から獲りにいくNEC(中国)。どれほどの存在感を示すか。「容易なことではない」と言うが、その表情は相変わらず自信たっぷりのように見える。(鈎)
プロフィール
木戸脇 雅生
木戸脇 雅生(きどわき まさき)
1956年、岐阜県生まれ。慶應義塾大学工学部卒業後、1979年にNECに入社し、南東アジア部に所属。99年、NEC(Thailand)社長、01年、NEC香港社長、05年、NEC信息系統(中国)総裁、06年、NECの執行役員(現任)に就任し、2010年に現職に就いた。
会社紹介
NECは、日本以外の地域を北米、中南米、中華圏、APAC、EMEAの5地域に分けて世界展開している。その一つである中華圏(中国本土、香港、台湾)のビジネスを統括するのが、NEC(中国)。中華圏にあるNECの子会社・関係会社は41社で、総従業員数は約1万3000人(2012年3月時点)。木戸脇雅生総裁はそのトップを務める。