ビジネスパートナーの役割を果たす
──SJIは中国で強大な営業力とディストリビューション力をもつデジタル・チャイナ(神州数碼)グループと資本業務提携を結んでいます。こうした販売チャネルも活用できるようになるということですか。 時 集団経営体制ですので、若干、コメントを控えさせていただきますが、さまざまな可能性があると思います。対日オフショアソフト開発事業が拡大期に入ってから10年余りが経ち、香港株式市場に上場するまで大きくなった当社ですが、次の10年の成長を見据えると、事業ポートフォリオを大胆に変えていく必要があると思っています。感覚的には次の10年で、対日ビジネスも伸ばしつつ、中国地場におけるビジネスも伸ばしていくことで、対日と中国地場ビジネスを半々くらいの売上構成比に変えていくことをイメージしています。SJIとの取り決めのなかでは、当社の香港株式市場への上場は維持する方針ですので、SJIとの相乗効果を追求しつつも、当社は当社で新しいビジネスモデルを打ち立てていかなければならないことに変わりはありません。
──中国市場に受け入れられるには、外資単独では難しい局面が多い。外資規制うんぬんというよりも政治的な摩擦も無視できません。 時 中国は改革開放以来、多くの旧国有系の会社が民営化され、今では当社も含めて民間企業の活力は日増しに高まっています。とはいえ、莫大な投資規模となる建設や通信、金融、交通といった社会インフラ系のビジネスは国主導であることも多いですし、旧国有系企業の人脈も実はとても重要なのです。日本も旧財閥系の大きい企業はたくさんありますが、中国はまたちょっと違うのですね。だからこそ、中国ビジネスで欠かせないのは、当社のようなビジネスパートナーなのです。中国企業の当社が前面に出ることで、中国地場ユーザー企業は格段に受け入れやすくなることでしょう。こうしたビジネスパートナーとしての役割を果たすためにも、中国地場での営業力や何らかの販売チャネルを整備していくことが求められています。
──NRIに「北京でのビジネスパートナーを紹介してほしい」とお願いしたところ、真っ先に御社の名前が上がってきましたので、信頼関係をかなり重視しておられる印象を受けました。 時 NRIをはじめ10社ほどの日系SIerなどとは、基本的に深く、長く、強い信頼関係を構築してきました。多くの会社と取引するとオーバーヘッドロスが発生しやすくなりますので、少数の有力SIerと密接な関係をつくるのが当社のビジネススタイルです。日本のSIerやITベンダーの強みは、なんといっても品質の高さです。一方の弱みはコスト高になりやすいこと。日本で割高なら、物価の違いから中国での売り込みはさらにハードルが高くなる。実際をいえば、当社が本社を置く北京の人件費高騰も課題になりつつあるので、大連や成都、無錫、杭州、済南など地方の開発拠点の開設を進めています。無錫の開発拠点は今年5月に開設したばかりで、次は吉林省方面への進出も検討しています。日系ベンダーの質の高さ、当社のコスト管理能力を組み合わせれば競争力の高いサービス創出が可能になりますし、当社自身も変わっていくことで中国地場ビジネスでもアドバンテージを生かせるように努めていく考えです。
・こだわりの鞄 ブランド品ではないが、登山で使うような撥水性の繊維でできたビジネスバッグ。数年前に東京駅前の丸善で購入した。「飛行機の乗り降りで多少雑に扱っても丈夫で壊れず、革の鞄よりも軽い」という点が気に入った。実用主義でブランドにはあまりこだわらないという時社長らしい選択だ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
サイノコム(中訊軟件)グループは、主要顧客である日系SIerのよきビジネスパートナーであることに忠実な会社である。十年来の取引を続けている日系SIerを多く抱え、深く、密接な信頼関係を築いてきた。無錫や大連、杭州、成都など人材豊富で、かつ人件費が比較的安定している地方都市での開発拠点の開設も積極的に行うことで、「日系ベンダーの品質の高さと、当社の開発力、コスト競争力の連携でビジネスを伸ばす」と、時崇明社長は自らの考えを語る。
一方、大手SIerの多くが巨大な中国市場への進出意欲を高めているなか、地場市場での営業力や販売チャネルの開拓にも取り組む。自力で営業体制の整備を進めるとともに、有力SIerのSJIグループと合流することで「相互補完を図る」として、長年継続してきた中国オフショアソフト開発のビジネスモデルの転換を通じて、ビジネスパートナーである日系SIerの期待に応えていく。(寶)
プロフィール
時 崇明
時 崇明(SHI CHONGMING)
1955年、中国・瀋陽生まれ。84年、瀋陽工業大学大学院修士課程計算機応用専攻。88年、北海道大学大学院情報工学専攻博士課程修了。同年、スインク主任技師。95年、エーティーアンドアイ専務。99年、中訊軟件集団のサイノコム・ジャパン代表取締役専務。02年、代表取締役社長に就任。中国本社の董事高級副総裁を兼務。
会社紹介
中訊軟件集団の全体の2011年12月期の売上高は前年度比12.4%増の6億8494万香港ドル(約68億円)、営業利益は同5.6%増の6701万香港ドル(約6億7000万円)。北京本社を含めて主要7拠点を中国国内に展開。日本法人を含めたグループ全体の社員数は約2000人。2012年7月、有力SIerのSJIグループによる株式公開買い付け(TOB)によってSJIグループに加わった。香港株式市場への上場は維持する見通し。