中国ビジネスでは、ビジネスパートナーとの連携が成否を大きく左右する。通信インフラやデータセンター(DC)などの規制分野や、地場の商慣習や営業力、ブランド力といった日本のSIer単独ではなかなかクリアできない課題があるとしても、パートナーの協力があれば思いのほかスムーズにいくことが多い。中国ならではの特色あるビジネス環境のなかで、実際にビジネスを伸ばしているSIerは、ほぼすべてのケースでパートナーとの関係を深めている。(取材・文/安藤章司)
成長市場で多様性が生きる
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NTTデータチャイナ 神田文男 総裁 |
中国ビジネスでカギを握るのは、ビジネスパートナーだ。地方政府や有力ユーザーである国有企業系グループとのコネクション形成は、中国ビジネスでは欠かせない要素である。中国という国の特異な面でもあるが、ここをクリアさえすればビジネス拡大の突破口がみえてくる。コネクション形成は外資系企業が単独で行うのは困難な場合が多く、やはり地場の有望なビジネスパートナーとともに築いていくのが望ましいパターンだ。
「One NTT DATA」を掲げ、グローバルガバナンスを強化しているSIer最大手のNTTデータでさえ、中国ではグループ会社やビジネスパートナーとの連携を重視する「合議制」で一体感を強めていく方式を採っている。成長市場である中国では、単一的な組織よりも、多様性を生かすことで、「さまざまなビジネスの可能性を追求していくほうが、今の段階ではメリットが大きい」(NTTデータチャイナの神田文男総裁)と考えているからだ。NECも北は遼寧省の大手SIerの東軟集団から、南は広東省の有力SIerの広東華智科技までさまざまなパートナーと連携を図っている。
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NEC 辻本栄二 副事業本部長 |
では、実際にどのようなパートナーシップを組んでいるのか。NECと東軟集団は共同で大連にデータセンター(DC)を構築し、広東華智とは自動車業向けのSIにターゲットを絞ったビジネスを展開する。自動車産業の三大基幹システムといわれる「サプライチェーン(生産)管理」「ディーラー管理」「補給部品管理」を主軸として早期に両社協業で50億円規模のビジネスに拡大する目標を立てている。
中国華南地区では、日系自動車メーカーの生産設備の拡張が続いており、これに歩調を合わせるように日中双方の協力会社の投資も活発化している。NECの辻本栄二・製造・装置業ソリューション事業本部副事業本部長は、「広東華智は地場の通信キャリアなどと良好な関係にあり、パートナーとして最適」と評価する。中国屈指の大手SIerである東軟集団も、大連でDCを運営しており、NECはこうしたパートナーのIT基盤系リソースを活用することでSIビジネスを拡大させる。IT基盤は規制業種である通信インフラとも密接に連携しており、この分野に強みをもつパートナーと組むメリットは大きい。
商慣習のギャップを埋める役割も
日立製作所グループも、大連と広州にそれぞれDC拠点を拡充する施策を打つ。日立グループでDC事業の中心的役割を果たす日立システムズは、大連では大連創盛科技と、広州ではNECと同じ広東華智とパートナーシップを結び、DCの整備を急ピッチで進めている。大連創盛科技は地元政府の電子政府システム案件を請け負ってきた実績をもち、コネクションも強い。今回は2012年11月をめどにサーバーラック換算で2000ラック規模の大型DCを開設するとともに、地場通信キャリアとのパイプをもつ広東華智ともDCを活用したビジネスに取り組む。
パートナーと組むことによって、パートナーがもつインフラやコネクションを活用できるだけでなく、中国の商慣習を身につける重要なアシスト役にもなってくれる。これまでグローバル進出の経験に乏しかった日本の情報サービス業界にとって、地場の商慣習に関するノウハウは貴重な財産となる。例えば、中国ビジネスは日本に比べて即断即決、スピードが速いと評されることが多い。だが実際のところ、中国で数々の商談をこなしてきた日立システムズの若園淳・中国事業推進本部長は、「商談からクロージングまでにかかる時間はトータルでみると日中でそう大きく変わることはない」と言い切る。
若園本部長は、「売り手と買い手の双方のトップが笑顔で握手を交わしてから、実際に納品、代金回収までのトータルにかかる時間に日中間で大差がないとしても、スピード感をどこに求めるかという点については見方が異なる」とも語る。中国はまず双方のトップで大筋合意するまでは早いが、その後に担当者間で詳細を詰めていく段階で二転三転することが決して珍しくない。その点、日本の場合は大筋合意するまでにほぼ詳細について見通しが立っていることが多い。ただ、「事前のマーケティング調査やレポートづくりに時間がかかりすぎ、合意意思の表明が遅い印象をもたれることもある。中国ビジネスではまず大筋を合意して、それから詳細を詰めるやり方が好まれる」(日立システムズの手島吉紀・中国事業推進本部主管技師長)と“中国式”の商談スタイルを説く。

写真左から日立システムズの内倉宣夫担当部長、若園淳本部長、手島吉紀主管技師長
成長途中にある市場では、「多少のリスクは後からリカバリできると先方も踏んでいることが多い」(日立システムズの内倉宣夫・市場開発営業戦略部担当部長)とみて、ある程度のリスクは織り込み済みのようだ。むしろ、最初の大筋合意の相手としてライバル他社が選ばれてしまえば、それを覆すのは至難の業。商談を他社にもっていかれないよう、まずはトップ同士がスピード感をもって方向性を決めなければならない。ここで重要な役割を担うのが、現地の事業に精通しているビジネスパートナーだ。リスク度合いや商談相手のバックグラウンドについての考察や助言を通じて、正確な判断をスピーディに下せる可能性が高まる。
日立システムズでは、直近では手薄になっている上海地区にDCを確保するため、新たなパートナー開拓も含めたさまざまな進出方法の可能性を検討中だ。
メーカーと組む販売系SIer
もう一つ例を挙げると、JBCCホールディングス(JBグループ)とIBMグループとの関係性だ。JBグループは日本IBMのトップセラーではあるが、あくまでも日本の国内限定だった。しかし、製造業や流通・サービスの顧客企業のアジア成長国への進出が加速するなか、サポート範囲が国内限定では顧客を失いかねない状況になっている。そこでJBグループが採ったのは顧客の主な進出先であるアジア成長国の主要なIBM現地法人のビジネスパートナーになる戦略である。
大手コンピュータメーカーは、積極的に世界展開を進めており、IBMグループをビジネスパートナーとしてグローバル進出を進めているのがJBグループというわけだ。国内のドメスティックなトップセラーから、日本を含むアジア全域でのトップビジネスパートナーにクラスチェンジすることで、JBグループが大切にしてきた国内の顧客とともに成長市場でのビジネス拡大を目指す。また、IBMグループと組むだけでなく、中国やタイの有力SIerともパートナーシップを結び、それぞれの地域の地場ユーザーに向けた独自の営業も展開し始めている。
JBグループが初めての本格的な海外進出先に選んだ中国大連市人民政府からは、今年3月15日の事業立ち上げ3周年に先だって「星海友誼奨」を授与された。大連の発展に貢献したJBグループの石黒和義会長を評価したもので、同時にJBグループの大連地区のビジネスパートナーである大連百易軟件とのパートナーシップの成果の一つとみることもできる。地元政府からの表彰は中国法人の社員の士気向上にも直結するだけでなく、「地場ユーザー企業からの評価を高めることにもつながる」(JBグループ石黒会長)と喜びをあらわにする。

大連市人民政府からは「星海友誼奨」を授与されたJBCCホールディングスの石黒和義会長(右)と、JBグループのビジネスパートナーである大連百易軟件の李遠明総裁。李総裁は大連軟件行業協会(大連ソフトウェア産業協会)会長を務める地場情報サービス業界の重鎮だ
JBグループはメーカーとの結びつきを最大限活用することで中国やASEAN市場への進出を果たした。日系既存顧客を守るという意味合いだけでなく、すでに中国では1億円規模の受注も相次ぐなど、実ビジネスも本格的に立ち上がりつつあり、「海外売上高比率10%の達成を目指す」(石黒会長)と、中期経営計画の2014年3月期を目標にドライブをかける。
中国SIerのしたたかな狙い
戦略的互恵関係の構築
日本の有力SIerとパートナーシップを結ぶのに積極的な中国SIerは、実は複数の日系SIerと協業関係にあることが多い。広東華智科技は日立システムズやNEC、JBCCホールディングスと協業するほか、一部、NTTデータからのオフショアソフト開発も請け負う。杭州の東忠集団は、NECグループやNTTデータ、富士ソフトグループ、シーイーシーといった有力SIerの中国ビジネスを支援している。独立系の地場有力SIerであるにもかかわらず、日立製作所グループ一筋の大連創盛科技はむしろ珍しいケースだ。
中国SIerが複数の日系SIerと組むのは、日系SIerがもつ技術力をできるだけ多く採り入れるとともに、中国に進出している日系ユーザー企業を日系SIerとともに共有できるメリットがあるからだ。複数の日系SIerと連携を深めれば、多くの技術や顧客を手にでき、迅速な成長につなげることができる。他の中国地場SIerに比べて技術や顧客基盤で優位に立てば、地場ユーザーに対する営業的なアドバンテージにもなる。
また、日系SIerと組む中国SIerのなかには日本からのオフショアソフト開発を請け負っているケースも少なくない。日系SIerの中国市場進出を支援する見返りの一部として、日系SIerからより多くのオフショアソフト開発案件を引き出せる余地も広がるというものだ。オフショア開発の受注と中国の巨大市場を開拓するという戦略的互恵関係の構築は、文字通りの対等なパートナーシップを実現するベースの役割を果たす。中国SIerには、複数の日系SIerとパートナーシップを結ぶことで、日系SIer同士の競争意識を刺激し、より多くの熱意と投資を自らに向けさせるというしたたかな狙いも見え隠れする。