三つの要素の掛け合わせでDCの品質を向上
──DC事業者間の競争が激しくなっているなかでビジネスを拡大しておられますが、好調の要因を教えてください。 浜野 三つの要素の掛け算で、トータルでのDCの品質向上を図っています。その一つはファシリティです。当然のことですが、DCの堅牢性やエネルギー効率が高いことは、お客様にとってDCを選ぶうえでの前提条件になっています。
二つ目が、立地条件です。やはり立地が整っていないと、現実に災害に遭遇した時に対応できません。例えば、海岸の近くにあって、津波などの被害を被る恐れがある立地では、いくらファシリティを充実しても課題を抱えることになります。自治体も大震災以降、被災エリアを見直していて、以前は安全圏だったDCでも、現在は危険エリアに入っているものもあるのです。現在、大震災に耐えられるようなDCは、首都圏では50%ほどだとみています。
三つ目が、運用の品質です。システムを標準化して、従業員がマニュアルをきちんとこなしていることが品質の向上には欠かせません。
これら三つの要素を掛け算にして、トータルで高い数値を出せるようにしています。どれか一つでも欠けていれば零点になりますので、それぞれをバランスよく伸ばしていくことが必要ですね。この戦略が他社との大きな違いです。
──DCを基盤としたクラウドサービスも提供しておられますが、どのような規模・業種をターゲットにしているのですか。 浜野 自治体や病院に向けたクラウドサービスを提供しています。自治体では、規模の大きいところはプライベートクラウドの構築、中規模では複数のシステムを自治体間で共同利用するケースが増えています。ただ、当社はあまり大規模のプライベートクラウド構築は得意ではないので、まずは住民が20万~30万人ほどの中規模の自治体を狙っていきます。そこから大規模なり小規模なりの自治体に幅を広げていく予定です。例えば、ゴルフの初心者は、始めに7番アイアンで練習して経験を積んで、そのあとで8、9番と使い分けていくことが多いですが、これと同じような感じですね。同様に病院では、まずは200床ほどの中規模を狙い、実績を積みあげてから横展開していきます。
四つの戦略で海外展開を推進
──海外に拠点をもつ企業からの引き合いが増えているそうですが、海外展開の戦略について聞かせてください。 浜野 これまでは、個別のお客様から要望があれば海外でのサポートを行ってきましたが、12年度に入ってからは、本格的に海外展開を始めました。グローバルでの売り上げを、今後3年間で総売上げの5%にしたいと考えています。
海外については、主に四つの事業に分けて推進しています。一つ目は、当社の得意なソリューションをグローバルで売っていくことです。例えばドイツでは、日本国内で提供している環境経営情報システム「SLIMOFFICE」を現地語化して、4月から販売していく予定です。また、台湾では、大気汚染ソリューション、中国ではEDIシステムなどを販売していきます。
二つ目は、富士通グループが海外で展開している商品を当社が日本語化して、現地の日本企業向けに販売していくというもの。三つ目は、先ほども少し触れましたが、大阪や横浜など、当社のDCにお客様のシステムを集約して、海外の拠点に向けてサービスを提供するというものです。最後が、シンガポールなど、富士通グループがもっている海外のDCを借りてお客様のシステムを集約して、それを当社が運用していくということを考えています。
──四つの戦略のうち、最も力を注ぐのはどれですか。 浜野 三つ目ですね。当社は国内に16のDCを抱えていますので、国内のDCにお客様のシステムを集約して、そこから海外に対してサポートしていくことはハードルが低いのです。また、現地の方式をとる必要がなく、日本で契約することができるというメリットがあります。お客さまからの引き合いも多いので、これが一番最初に伸びていくと思います。一方で、四つ目の海外の富士通グループのDCを借りるという商売は、まだ時間がかかると思います。現在、商談を進めている段階ですが、まずは二つ三つの案件をやってみて、実績を出してから本格的に進めようという感じですね。
──DCの拡張や海外展開など、堅調にビジネスを進めておられる印象を受けますが、今後の業績をどのように伸ばしていくおつもりですか。 浜野 無理をせずにじっくりと伸ばしていきたいと考えています。平均成長率でいうと、年5%くらいの勢いで伸ばしていきたいですね。2011年度は単体での売上高が947億円だったので、今年度は1000億円に到達するかしないかというラインです。しかし、来年度には、確実に到達する見込みです。
また、企画から開発・構築・運用・保守などをトータルで提供できる当社の強みを、お客様の経営のレベルまでに引き上げていきたいと考えています。IT屋というのではなく、経営のパートナーになれるようにしたいですね。例えば、当社は凸版印刷と、「ギフトカードASPサービス」を協業展開しています。一緒にインフラを構築して、お互いがつかんだビジネスをシェアして、利益をシェアしながら事業を推進しています。こういった関係になれる会社をどんどん増やしていくことが究極の目標ですね。
・FAVORITE TOOL ビクトリノックスの鞄。バリスティックナイロンという、防弾チョッキに使用されるような強靱な素材でできており、頑丈で軽量なところに魅かれて購入した。支社に1泊2日で出張に出ることが多い浜野社長は、ノートPCや着替えなど、出張に必要なものをすべて収納して、この鞄一つで出かけるのだとか。
眼光紙背 ~取材を終えて~
富士通FIPは、昨年、設立35周年を迎えた。浜野社長曰く、「バブルが弾けた時と、リーマン・ショックの時に業績が落ち込んだくらいで、これまで売上高は階段状に伸びてきている」という。
その意味では、浜野社長の立てた計画は非常に現実的だ。目標の年平均成長率5%は、特別に高い数字ではないし、「今後もこれまでと同じように、じっくりと伸ばしていきます」と無理をする様子はない。また、グローバル戦略について語るときには、「一つ目の戦略は、二つ目は、三つ目は……」と、計画をきっちり分けて、それぞれを確実に伸ばそうとする姿勢が伝わってきた。浜野社長からは、しっかりと地に足がついた安定感が感じとれる。
経営のパートナーを増やすことを究極の目標としている浜野社長。このまま成長すれば、単体での売上高は、来年度にも1000億円に到達する見込みだが、「パートナーとのビジネスが拡大すれば、さらに収益が増える」と期待を語る。業績の上ぶれは、決して非現実的なものではないようだ。(道)
プロフィール
浜野 一典
浜野 一典(はまの かずのり)
1955年、埼玉県生まれ。79年3月、東京大学文学部を卒業後、同年4月に富士通に入社。SEとしてシステム部門で約15年間経験を積み、94年6月から営業部門を約10年間、04年6月からマーケティング部門を7年間担当。11年5月にサービスビジネス本部長に就任し、12年4月には兼任でマーケティング部門長付に就いた。12年6月、富士通エフ・アイ・ピーの顧問となり、同月、代表取締役社長に就任。
会社紹介
1977年11月28日設立。データセンター(DC)の事業を中核にして、システムの企画から開発・運用・保守までをトータルでサポートするLCM(ライフサイクルマネジメント)サービスとして、「アウトソーシング」「クラウド」「ソリューション」の三つの事業を展開している。2011年度(12年3月期)の連結売上高は991億円(単体では947億円)。従業員数は3806人(12年4月1日現在)。