中国IT市場への進出は、一部の大手SIerやコンピュータメーカー、ソフトメーカーの話と思われがちだが、そんな時代ではなくなってきた。前ページで紹介したビッグネームのSIerだけでなく、中堅クラスのSIerも、中国に進出し始めている。まだ結果を云々するには早いが、あの手この手で攻め込もうとしている中堅SIer・ITサービス会社の姿がある。(取材・文/木村剛士)
【SRAホールディングス】
15社の事業会社の半分は海外 海外向けのオリジナル事業を創出
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SRAホールディングス 鹿島亨社長 |
独立系SIerのSRAホールディングス(鹿島亨社長)。年商は331億円(2011年3月期)と中堅クラスだが、大手SIerに引けを取らないのが海外法人の数だ。傘下には、15社の事業会社があるが、そのうち半分以上の8社が海外法人。米国、オランダ、インド、シンガポール、そして中国に子会社を設置する。北米、欧州、アジアと地域はさまざまで、業務内容もSIだったり、パッケージソフトの販売だったりといろいろ。海外事業のなかでも、とくに積極策を打ち出しているのが、中国だ。
SRAホールディングスの中国進出は、今から8年前の2004年だった。オフショア開発拠点として大連に子会社を設置し、開発プロジェクトの一部をアウトソーシングしてコストを削減してきた。「工場」として活用していた中国を、「市場」として捉え始めたのは3年ほど前。市場調査などを経て、昨年6月、上海に新たな子会社「愛司聯發軟件科技(上海)有限公司」を設立した。営業拠点として位置づけており、この拠点を通じて、中国での営業活動を本格的に始めている。
SRAホールディングスが中国で行う事業の特徴は、日本で得意とするビジネスを横展開する手法と決別していることだ。日本では金融機関と製造業向けのシステム・ソフト開発や、日本IBMのハードウェアを活用したソリューション事業を得意にしている。だが、中国では、こうしたビジネスを軸に据えない戦略をとっている。
SRAホールディングスが中国で計画している事業をみると──。米国など海外で販売実績があり、さらには中国で今後伸びそうな他社のパッケージ型製品を見つけ出し、中国での販売権を獲得。そして、中国の有力販社と手を組んで、製品・サービスを販売するというもの。SIerというよりも、商社のような事業形態だ。
09年に、大規模な無線通信環境を構築する際に使う機器を開発する米プロキシム ワイヤレスに資本参加し、販売する製品を調達した。そして、今年1月11日には中国のIT販売会社である鑫金浪电子有限公司と業務提携して、販売網を築いた。また、SRAホールディングスは、中国ディストリビュータ大手のデジタル・チャイナ・ホールディングスのSJIと資本提携している。この関係を生かして、デジタル・チャイナ・ホールディングスの事業会社を通じて、販売することも検討していくという。
SRAホールディングスの鹿島社長は、「巨大な市場ではあるが、単独で乗り込んで勝てるとは思っていないし、日本での勝ちパターンが通用するとも考えていない。中国特有のニーズをしっかりと掴まえて、それに合わせた製品と販売網を他社と協業して確立する」と、パートナーシップを重視する考えを示している。
【富士通FIP】
DCサービスを中国に移植 社長自ら専任組織のトップに
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富士通FIP 杉本信芳社長 |
富士通グループのITサービス会社で、年商983億円(11年3月期)の富士通エフ・アイ・ピー(富士通FIP、杉本信芳社長)も、昨年から中国進出に向けて本格的に動き出している。今年度、「中国事業推進室」を設置して、その室長に杉本社長自らが就いている。
富士通FIPの強みは、国内に16か所設置するデータセンター(DC)と、それを運用するスタッフとノウハウをもつことだ。DCを使ったサービスは伸び盛りで、10年12月に新設した約4200個のサーバーラックを収納できる神奈川県横浜市のDCは、予想よりも1.5倍速いスピードで埋まっている。杉本社長は、DCサービスの需要が高いのは日本に限ったことではないと考えて、中国への進出を図った。
杉本社長は、「当社のビジネスは、富士通との連携が欠かせない。富士通も中国事業に力を入れており、足並みを揃えていくのが大前提」と前置きしたうえで、「場合によっては当社単独で中国事業を展開するほうが好都合な場合があるかもしれない。その時は、中国企業と提携して、現地にDCをつくることもあり得るし、中国企業のシステムを日本のDCで預かるといったことも考えられる」と、富士通FIP単独での事業展開にも意欲的だ。
横浜のDCは、高まる需要を受けてすでに増設することが決まっている。伊藤博樹・センターサービス統括部長(兼)センター計画部長は、「施設にはほぼ毎日、当社サービスの利用を検討の俎上に乗せているユーザーに施設を見学しに来ていただいている。最近は中国企業の人がかなり増えてきた。きちんと強みを説明するために、中国人スタッフを採用した」と話し、手応えを感じている。

約4200ラックを収納できる超大型DC(横浜市)。最近は中国企業の見学が増えている
【NECフィールディング/富士通BSC】
再強化するSIer 新たなビジネス創出へ
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富士通BSC 室町義昭社長 |
保守サービス会社であるNECフィールディング(中西清司社長)も、中国事業に力を入れ始めた。今年度(12年3月期)の重点施策を6項目定めており、そのなかの一つとして「グローバル展開」を盛り込んだ。なかでも重視しているのが中国である。
NECフィールディングの主な事業は、NEC製品の保守サービスで、NECの顧客が中国にいれば、当然ながら中国に出ざるを得ない。北京や上海などの主要都市には、10年以上前から拠点を設置してサービスの提供を行っていた。海外進出する日系のユーザー企業が増加していることに伴い、従来以上に本腰を入れて取り組む方針を決め、昨年度から進めている中期経営計画には、グローバル戦略を盛り込んだ。
今年度には、中国を中心に世界展開するための専門スタッフを45人増員し、中国に進出している日本企業の海外拠点の保守・運用サービスの案件を獲りにいくための営業活動を開始している。中国を核に海外事業の売り上げを伸ばす計画で、今年度の目標は前年度比70%と急速に立ち上げたい考えを示している。
年商308億円(11年3月期)の富士通ビー・エス・シー(富士通BSC、室町義昭社長)も中国事業の加速をもくろむSIerだ。
富士通BSCの中国進出は20年ほど前で、北京に子会社を設置してスタートした。オフショア開発が主な事業で、現在は北京本社ほか上海と大連に拠点を置く。中国子会社の売上高は4977万7000元(約6億5000万円)と全体に占める割合は微々たるものだが、毎年右肩上がりだ。
ただ、昨年6月に社長に就任した室町義昭氏は、この実績に満足していない。就任早々に、中国事業の拡大施策を推進する専任組織を立ち上げた。各事業部門を横断的に捉えて、中国でのビジネス展開に生かすことができる情報とノウハウを集約してスピードを速めることを狙いとしている。大連に専用センターを開設してBPOサービスを開始しており、既存のビジネスに縛られず、新たな事業にも積極的だ。室町社長は、「リスクがあっても、ヒットする可能性を感じたものには、どんどん取り組む」と威勢がいい。
拠点も拡張する計画で、現在北京に100人、大連に45人、上海に30人体制の拠点を設置しているが、スタッフを今年度末には200人に増やす計画。3拠点のオフィスも拡充する。また、沿岸地域の開発者の人権費が高騰していることを考慮して、「内陸部に新拠点を開設することも検討していく」と一気呵成に体制を整える。過去の緩やかな伸びでは満足できず、一気に中国事業を伸ばしたい考えだ。
いまだ静観するSIerも
中国に積極的に進出するSIerがいる一方で、いまだ静観しているSIerもいる。JBISホールディングス(内池正名社長)は、年商377億円(11年3月期)で、自治体と証券会社向けシステム構築が得意な老舗SIerだが、海外進出には慎重だ。内池社長は、「当社の顧客のなかにも、中国に進出しているユーザー企業がある。ユーザーからは、海外の現地法人のITシステムの面倒もみてほしいとの要請もある。だが、拙速に踏み込めば、投資したコストを回収できない恐れがある」として、海外進出には慎重だ。
日本事務器(NJC、田中啓一社長)もJBISホールディングス同様に静観する姿勢を示している。NJCの年商は277億円(11年3月期)だが、国内拠点数が40拠点と、同等規模のSIerに比べて多い。顧客先に拠点を構えて密に接することが、NJCの戦略。それだけに、全国に拠点を張り巡らせている。そんなNJCも、海外となると、及び腰のようだ。
田中社長は、「海外展開は視野に入れているが、まだ調査が十分ではない。文化も言葉も違う国でビジネスを展開するには、国内よりも緻密な準備が必要。来年度から事業化に向けて真剣に取り組む」とコメントするにとどまる。また、「出て行くにしても、中国とは限らない。中国独特の商慣習はリスクと思える。東南アジア地域の成長性も調査しながら、進出する国を検討していく」と話している。
中国という巨大マーケットにいつ挑むか、それとも挑まないのか──。成長するのは間違いなさそうな中国市場だが、そこでの成功体験をもつ日本のSIerがまだ少ない現状では、慎重な姿勢をみせるSIerがいるのも当然のことと思える。