グループで400余りの商材を地域で売る
──中堅・中小ユーザーを満足させるためには、カネのかかる手組み方式のソフトではダメで、手頃なパッケージソフトやクラウドサービスに力を入れなければならないとみられています。 新美 ターゲットとするユーザー層を考えると、パッケージを中核に位置づけるのは必須でしょう。当社としても、例えば人事給与やワークフローシステムの「Hi-PerBT」シリーズや、イージーオーダー方式の販売管理・生産管理システム「KIT3」シリーズなどを独自で開発しています。また、自動振替システムは、地銀や信金などの地元金融機関ユーザーの多くにご採用いただいて、地域シェアトップクラスを自負しています。
日立ソリューションズグループ全体を見渡してみると、パッケージやクラウドサービスなど400種類を超える多彩な商材がありますので、西日本地域でも積極的に扱っていく方針です。
──同じ日立グループの日立システムズが、全国規模で中堅・中小ユーザー市場に担当していますが、競合しませんか。 新美 日立グループとして、中堅・中小ユーザー市場でシェアを伸ばせればいいと思っていますので、競合はあまり意識していません。顧客からみたら少しわかりにくい部分があるのかもしれませんが、お客様にご満足いただけるよう、日立システムズとはお互いに切磋琢磨すればいいと思っています。
──「地場密着」というと、響きはいいのですが、今後のITビジネスは、やはり規模がモノを言います。GoogleやAmazonは世界規模で展開したからこそ勝てたのであって、もしあれが地域限定だったらビジネスとして成り立たなかった。 新美 グループとして国内外をカバーしていますので、これを最大限に活用します。技術トレンドを例にとると、国内であれば東京がトレンドの発信地であり、先進的で高度な技術をいかに地域にもってくるかという点だけでも価値あります。オブジェクト指向スクリプト言語の「Ruby」のように、西日本で研究開発が盛んな分野もありますが、珍しいケースといわざるを得ません。
当社では社員の170人ほどが首都圏の日立グループの拠点で開発業務に従事しているのですが、ここで得られるノウハウは重要ですし、必要であれば日立ソリューションズや日立製作所などからノウハウをもつキーパーソンに期限つきでもかまわないので、まずは当社へ来てもらう人事交流にも力を入れていきます。そもそも日立ソリューションズ西日本が誕生した経緯も、グループの経営資源を有効的に活用するためですし、規模の拡大だけでなく、グループ同士の技術やノウハウの共有を含めた相乗効果を高めていきたい。
営業、SEでなくてもできることはある
──新美社長は、親会社の日立ソリューションズの前身である旧日立ソフトウェアエンジニアリングと旧日立システムアンドサービスが合併するときも、人事総務の担当役員として尽力されたとうかがっています。グループ再編による相乗効果を出すうえで手腕を発揮しそうです。 新美 私は人事労務畑が長いですし、親会社の合併も経験していますので、合併がどういうものなのかは心得ているつもりです。現場の人からみれば、「営業やSEの経験もないくせに……」と思われるかもしれませんが、今、当社に必要なのは、中国地方と九州地方のそれぞれの地域で仕事をしていた旧会社や組織が、早く一つの会社として融合することにあります。
繰り返しになりますが、競争力を高めていくには、親会社や日立製作所など首都圏の最先端で仕事をしている人との人事交流が欠かせません。いくらインターネットが発達したといっても、最先端のノウハウは、そうやすやすとネットに転がっているものではないですからね。
最先端であればあるほど、やはり人と人が交わってはじめて伝えられる部分は少なくないと思うのです。ノウハウをもっている人には、有期で構わないので当社に来てもらって、地場指向が強い当社社員も機会あるごとに首都圏でキャリアを積む人事交流の仕組みづくりは、私が大きく貢献できる部分だと自負しています。
──日立ソリューションズグループは、今、グローバル進出を加速させていますが、御社での取り組みはどうですか。 新美 西日本担当の当社がグローバルの最前線に立つことは想定していませんが、西日本のユーザー企業が海外に進出するケースは日常的にあります。できる限り密着して支援していきたい。
──中期的な売り上げ規模はどのくらいを想定しておられますか。 新美 2015年3月期に年商300億円をイメージしています。旧2社にプラスして今年4月に約170人が新しく加わったことで、今期(14年3月期)は260億円ほどまで増える見込みです。日立ソリューションズ連結で中期的に直近の年商から1000億円規模で上乗せして4000億円を目指しているわけですから、当社も売り上げを伸ばさないわけにはいきません。西日本という地域に根ざしながら、新規案件で40億~50億円は獲得していきたい。そのためには日立グループのSE子会社という役割だけでは不十分で、地域の新しい顧客の獲得によるビジネス拡大が不可欠。私はこのために、人事交流を含めたさまざまな施策によって技術やノウハウを取り入れて、競争力の向上に取り組んでいきます。
・FAVORITE TOOL スイスの機械式時計「オーデマ・ピゲ」。旧日立システムアンドサービスの役員就任の記念で購入した。「もともと機械時計が好きなことに加え、「オーデマ・ピゲ」のなかでも、角形のデザインが特徴のロイヤル・オークモデルが気に入った。一生の宝物と思って奮発した」そうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
日立ソリューションズ西日本の新美雅文社長は、「今年度をキーワードで表すならば“融合”だ」という。新美氏を同社の社長に指名した日立ソリューションズ初代トップの林雅博・前社長は、昨年末、2013年をキーワードで表すとどうかという本紙の問いに「飛躍」と答えている。同じグループなのに「融合」と「飛躍」では意味合いが違いすぎないかと記者がたずねたら、新美社長は、「旧2社と1部門が合併したばかり。まずは“融合”を優先する。飛躍はその次の段階」と話す。
新美社長は、林前社長とともに旧日立システムアンドサービスと旧日立ソフトウェアエンジニアリングの合併を舵取りし、連結で1万5000人を超える日立ソリューションズを立ち上げた人物だ。今回の日立ソリューションズ西日本を巡る一連の合併・再編でも、親会社の合併を経験したノウハウを生かしていく。「人と人の交流を深めることで“融合”を加速させる」と、人事総務畑が長い新美社長らしい施策で次の“飛躍”につなげる。(寶)
プロフィール
新美 雅文
新美 雅文(にいみ まさふみ)
1951年、東京都生まれ。73年、慶應義塾大学卒業。同年、日立製作所入社。01年、システム・ソリューショングループ総務本部長。05年、日立システムアンドサービス執行役人事総務部長。08年、取締役執行役常務人事総務本部長。10年、日立ソリューションズ取締役常務執行役員人事総務統括本部長。11年、取締役専務執行役員人事総務統括本部長。13年1月、日立ソリューションズ西日本社長。
会社紹介
日立製作所の直系主要SIerの一翼を担う日立ソリューションズグループで、西日本地域を担当するのが日立ソリューションズ西日本である。2013年1月に中国地方と九州地方のSE子会社が合併して発足した。4月1日には日立ソリューションズの九州事業部門の約170人も加わり、社員数は1100人余りに増えた。2013年3月期の売上高は200億円弱。2015年3月期には300億円を目指す。