NTTコミュニケーションズ(NTT Com、有馬彰社長)は、減収が続く音声伝送やIPなどのネットワーク(通信回線)分野への依存体質から脱却するため、クラウド/データセンター(DC)事業へ積極的に投資している。今年4月18日に発表した「Global Cloud Vision 2013」では、クラウド/DC事業の売り上げを15年度(16年3月期)に2000億円まで拡大する目標を掲げた。有馬社長に、通信事業者ならではのクラウド戦略を聞いた。
ネットワークと類似するクラウドビジネス
──御社は、音声伝送やIPなどのネットワーク(通信回線)分野の収益が2000年度から12年度(13年3月期)にかけて約5000億円も落ちこみ、厳しい業績が続いています。今後もこの傾向は続きそうですか。 有馬 音声伝送やIPなどのネットワークの収益は、確かに減ってきています。これから伸びるビジネスではありません。ただ、すでにだいぶ減ってしまった後なので、これから減る分は限られています。まずは減収分を他の事業で補てんすることが重要ですので、現在はクラウド事業に力を注いでいます。今年度で増収に転じる目標を立てていて、今年4月に発表した「Global Cloud Vision 2013」も、そのための施策の一つです。
──「Global Cloud Vision 2013」の内容を聞かせてください。 有馬 グローバルで、ネットワークやクラウド基盤などのインフラからアプリケーション、セキュリティ、運用管理までのサービスをトータルで提供するというものです。とくにクラウド基盤の整備には力を入れていて、ここ数年間で数十のDCを拡充しています。そのため、13年度はグローバルでのDCの拠点数・面積を、今年3月時点の138拠点・15.8万m2から144拠点・17.7万m2にまで拡大します。4月に東京で6番目のDCを開設したほか、5月には香港、イギリスでもオープンしました。また、マレーシア、上海、タイにも新設します。
──短期間にこれだけ多くのDCを設けるということは大きな決断だと思います。どうしてここまでの大型投資に踏み込むことができたのですか。 有馬 クラウド/DC事業が、ネットワーク事業のビジネスパターンと同じだからです。先に大規模な投資をして、後から利用料で回収するというモデルなのです。当社は、もともと先行投資をするという文化が根づいているので、躊躇することがありません。
また、資金に関していえば、投資からタイムラグがあって収益が出る仕組みですので、過去のネットワークへの投資から現在上がってくる収益を、クラウド事業に投資することができます。ですから、クラウドビジネスというのは、当社にとって追い風ですね。これまでのビジネスモデルをそのまま応用できますから。このことが当社の強みになっています。
ただ、スイッチからサーバーへと技術が変わっていますので、ネットワークからクラウドへ技術者を変えていく必要があります。IPネットワークを担当していた人間からすれば、それほど技術が違うわけではないので、難しくはないと思います。
実際、DCの拡充について、システムを売ってすぐに回収するというモデルのSIerの方とお話しすると、「DCの予約ユーザーが決まっていないのに、本当に建設するのですか」と心配気味にたずねられることがあります。SIerの文化は、受注してから購入して、調達してというビジネスですから、当社とはカルチャーが違うのです。
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