DCは開設前にすでに完売
──先行投資を主流とする御社の企業文化を生かして、ニーズの高い地域のDC拠点を増やしているわけですね。増収の目標は達成できそうですか。 有馬 自信はあります。DCの売れ行きは好調で、マレーシアでは、12年4月に開設したDCがすでに完売しています。香港では、今回オープンしたDCが、開設前の時点でほぼ完売の状態でした。12年度には、こうしたクラウド基盤の売上高が990億円までに拡大しました。そのほかにも、セキュリティサービスが伸びていて、250億円ほどの収益があります。運用管理のサービスも約360億円の売り上げがありますが、これも安定した収益を上げています。
──DCは、アジアでの需要が一番旺盛なのですか。 有馬 日本企業のアジアへの進出割合が高いので、当然ながらニーズも旺盛になってきます。また、当社の欧米のDC基盤はまだ弱いところがありますので、お客様のニーズと当社の強い拠点がアジアで一致しているということですね。ただ、そうはいっても香港のDCについては、ほとんどのユーザーが欧米企業です。外資企業では、APAC(アジア太平洋地域)に進出したいという企業が多くて、欧米の現地法人では、「アジア進出のためのネットワークを用意してほしい」という要望が多いのです。香港のDCは、そうした意味でプレゼンスが出てきていて、DCのニーズがあると必ず引き合いがある状況になっています。
──グローバルの顧客層は、日本企業が中心ではないのですか。 有馬 海外の売り上げは、日系企業よりも非日系企業のほうが多くなっています。欧米の現地法人では、7~8割のユーザーが非日系企業です。ただ、今までネットワークが中心事業だったので、ネットワークだけをお使いいただいているお客様が多いという一面があります。これからはクラウドが中心のビジネスで、それも基幹系システムまでの深い入り方になってきます。そこまでの深い入り方というのは今までの各現地法人ではできていませんので、今後は、協業した外国のキャリアの名前でサービスを提供してもらうなど、クラウド基盤を積極的に利用していただきたいですね。
クラウド基盤はトリガーにすぎない
──クラウド基盤では、IaaS「BizホスティングEnterprise Cloud」とPaaS「Bizホスティング Cloudn」が看板サービスですね。競合と比べた優位点はどこにありますか。 有馬 当社の強みは、やはりネットワークをもっていることです。アマゾンなどの競合は、ネットワークをもっていないので、クラウドに特化したモデルになります。自前でDCやネットワーク、ケーブルまでのインフラを用意できていなければ、本当に信頼性の高いビジネスはできないと思います。
当社のクラウド基盤では、ユーザーはクラウドの接続料が不要になるというメリットもあります。アマゾンだと、データの転送料金が高くなってしまいますが、当社ではデータ転送の料金が無料で、実際にお客様から高く評価されています。自前でネットワークをもっていて、データ転送料がかからないので、トータルの利用料では、アマゾンなどの競合と勝負できるのです。
また、IaaS、PaaSは確かに重要なサービスですが、基本的にはインフラからアプリまでのトータルサービスで提供するというかたちをとっていますので、実はクラウドのプロジェクトで、IaaSだけの収入は全体の3割くらいなんです。クラウドをトリガーにしながら「トータルで当社を使いませんか」という売り方ですね。海外の通信キャリアも同じようなトータルサービスを考えていますが、当社のほうがよりクラウドらしくなっていると感じています。例えば、ネットワークの仮想化は、他の通信事業者ではまだできていないですから。
──こうしたグローバル展開を進めるには、自社の努力だけでなく、パートナー企業との協力体制が重要になってくると思います。どのような対策を打っていかれるのですか。 有馬 当社だけではとても顧客にリーチできません。NTTグループ各社だけでなく、SIerや通信事業者、アプリケーション事業者、コンサルティング企業とグローバルレベルでパートナーシップを結んでいきます。
すでに通信キャリアのパートナーは1社に絞っています。SIerでは、大手は自前のクラウドをもっているので、あまり大きくない企業に当社のサービスを担いでもらっています。今までSIerには、当社の回線を担いでもらっていたのですが、クラウドはまだまだですので、できるだけ多くのSIerに担いでもらいたいと考えています。また、SaaSなどを提供するアプリケーション事業者に当社のクラウド基盤を使っていただきたいですね。
こうした施策を含めて、海外売上を15年度には2010年度の約2倍の3000億円にしたいと考えています。クラウド関連だけいえば、今は国内外で半々くらいの売り上げですが、目標の2000億円になるときには国外のほうが多くなっているでしょうね。
・FAVORITE TOOL 社外での仕事が多い有馬社長は、BYODソリューション「Bizモバイルコネクト」をスマートフォンに導入して、常にスケジュールの管理と社内メールの確認を行っている。
また、海外への出張時や休日にはノートパソコンを使用。仮想デスクトップを導入しており、遠隔地からでも社内と同じ環境を利用できるので、重宝している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
有馬社長が指摘する通り、ネットワークとクラウドのビジネスモデルは似通っている。ともに先行投資型のストックビジネスで、後々の利用料金で回収していくモデルになっている。だからこそNTT Comは、これまでのビジネスモデルを踏襲するかたちで大胆な投資を進めることができるのだ。
一方で、こうした先行投資は、SIerにはなかなか真似することができない。注文が入ってからシステムを調達するようなビジネスモデルのSIerにとって、大規模な投資は慎重にならざるを得ない一面がある。成功が約束されているわけではなく、投資コストが無駄になってしまうリスクがあるからだ。このことについて、有馬社長はNTT Comの先行投資を、リスクに対して敏感になることの対称という意味で“鈍感力”と表現した。
しかし、SIerが投資を躊躇している間に、NTT Comが各地でクラウド基盤を先に固めてしまえば、その分の先行者利益は大きく、顧客を独り占めできる。そう考えれば、この“鈍感力”はSIerにとっての脅威といえるだろう。(道)
プロフィール
有馬 彰
有馬 彰(ありま あきら)
1949年生まれ。神奈川県出身。一橋大学商学部を卒業後、73年4月に日本電信電話公社(現NTT)に入社した。その後、99年7月にNTT第一部門担当部長、02年6月にNTT東日本取締役企画部長、03年4月に同取締役経営企画部長、05年6月にNTT取締役を歴任。07年6月からはNTTコミュニケーションズ代表取締役副社長兼ネットビジネス事業本部長を務め、10年6月に代表取締役社長に就任した。
会社紹介
1997年7月にNTTの完全子会社として設立。資本金は2117億円で、従業員数は6850人(13年3月31日現在)。2012年度(13年3月期)の連結売上高は前年度比1.5%減の1兆1947億円で、営業利益が同5.2%増の1163億円。近年では、これまでの中心事業であった音声伝送やIPなどのネットワーク分野での減収を補うために、クラウド/データセンター(DC)事業に注力している。