ソニックガーデンが手がける「納品のない受託開発」は、納期を設けずに、月額固定制で、顧客のオーダーメイドのシステムをクラウド上で開発するビジネスだ。2週間程度でプロトタイプを作成し、その後は継続的にシステムを改修していく。要件定義をして、定められた納期のなかで一括で請け負ったり、エンジニアを人月単位で派遣したりする従来の受託ソフト開発と一線を画した新たなビジネスモデルとして注目されている。従来型の受託ソフト開発の低迷に苦しんでいるITベンダーにとって、このビジネスモデルは光になりうるのか、倉貫義人社長CEOに聞いた。
従来の受託ソフト開発は不幸せ
──「納品のない受託開発」の着想は、どこから得たのですか。 倉貫 SIerで働いていた当時、社内ベンチャーを立ち上げて、クラウド型の社内SNS「SKIP」を販売するビジネスを展開しました。この経験を通して、ソフトウェアをサービスとして提供するビジネスのやり方を受託ソフト開発に持ち込めないかと考えたのです。クラウドと受託開発の違いを考えたときに、納品するか、しないかという違いに気がつきました。納品しなければ、一括請負ではないので、お客様にとってはコスト安です。エンジニアも納期に追われることがありません。経営者としても、安定した収益を確保できます。こうしたきっかけで、このビジネスを始めました。
──従来の受託ソフト開発については、どのようにお考えですか。 倉貫 お客様とエンジニアが幸せではないな、という印象があります。要件定義をして、定められた納期のなかで一括請負をするビジネスでは、お客様が高いコストをかけても、思った通りのものができ上がらず、改修したいときにはベンダーから追加費用を請求されて、効率がよくありません。一方、エンジニアにとって、プログラムをつくることは、本当はクリエイティブな仕事のはずですが、要件定義にもとづいた決まりごとのなかでつくらないといけないというのは、おもしろいことではなく、クリエイティビティを発揮できません。納得のいく仕事ができないうえに、納期が迫ってデスマーチが起きて、3K(「きつい」「給料が安い」「帰れない」)になることも……。経営者にとっても、従来型の受託ソフト開発は利益率が低く、実はあまりいいビジネスではありません。
──要件定義なしで、継続的にシステムを改修していくためには、御社と顧客とが互いを深く理解することが重要だと思いますが、やり取りはどのように進めていくのですか。 倉貫 まず、いきなりシステムの話をするのでなく、私が事業計画や企業のビジョンの話をお客様から聞かせていただきます。そこで、「もう少し練り直したほうがいい」とか、「これなら一緒にやれそうです」といった判断をします。システム開発については、エンジニアがお客様と直接やりとりを行い、予定の調整から打ち合わせのアジェンダ、毎月の請求書のチェックまで、すべてエンジニアが担当します。大体、一人のエンジニアが1~2社を担当しています。
──契約前に事業計画の見直しを迫ったりすることは、顧客にとってハードルが高いことだと思います。入り口のところで断念する顧客も多いのではないですか。 倉貫 確かに、契約前には平均して2か月ほどの期間をいただいていますし、実際に当社にお問い合わせいただいたお客様でも、半分くらいは契約に至っていません。
ただ、当社の顧客の大半はスタートアップのベンチャー企業で、むしろ従来のシステム開発のやり方を知らないお客様が多いのです。先入観がないので、お客様の話を引き出して、こういうものをつくったらどうですかと提案して、困ったことを相談しながら開発していけますので、お客様としてもやりやすいはずです。
──継続的に改修していくことは、エンジニアにとって負担が大きいのではないでしょうか。 倉貫 そうですね。当社としても、月額定額で提供するので、たくさんつくっても儲かりません。だから、なるべくつくらないでやりましょうという方針です。お客様が欲するシステムで、すでに世の中にあって、無料で使えるものがあったら、それを紹介しています。
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