街づくりで重要なエネルギー管理
──今年、政府の新たなIT戦略が発表されましたが、OGCが目標に掲げてきた「世界最高レベルの電子政府と電子自治体をオープンなクラウド技術で実現する」というテーマと方向性は共通していますね。新戦略の内容についてはどう評価しておられますか。 須藤 全体としていい方向に向かってはいますが、ものすごく満足しているというわけではありません。本来であれば、もっと大規模な予算を投入し、居住空間のあり方から都市計画、長期のエネルギー供給体制まで踏み込んで、ICT利活用社会、スマートシティ実現に向けた長期のロードマップを示すべきだったと思います。具体的には、各省庁が全体の戦略を踏まえて、どう具体的な施策に落とし込むかがポイントですので、その第一歩をどう踏み出すか、来年度が非常に重要です。
その意味で、2020年の東京オリンピック開催が決まったことは、今申し上げたようなテーマを本気で考えるきっかけになりますので、意義深いと思っています。OGCとしても、提言活動を続けていきます。
──新戦略は網羅的な内容ですが、とくに注目されているポイントはありますか。 須藤 OGCとしては、やはりスマートシティの取り組みを含めた「街づくり」に着目していますが、「街づくり」を進める際に極めて重要なテーマが、エネルギーの問題です。
東日本大震災の後、日本は電力供給体制の転換を余儀なくされているわけですが、当然ながら、化石燃料だけに頼り続けるのは限界があります。その代替発電方式の一つとして私が注目しているのが、音波の微細振動を利用した発電です。要は、クルマが走る時の騒音などを電力に変えるということです。
スマートシティ化の流れに伴い、あらゆるところでセンサを多用する時代になりつつあります。例えば、東京五輪のインフラ整備に合わせて、首都高の橋脚にセンサをつけて老朽度をモニタリングするといった施策も、今後実現することになるでしょう。その場合、電源をどこに求めるかが課題ですが、太陽光発電や微細振動による発電で十分に賄うことが可能です。これからの都市計画には、こういった仕組みを盛り込んでいくべきで、総務省や国交省も実際のプロジェクトを立ち上げたいといっています。OGCは、その一端を担う用意があります。
ベンダーロックインを解消せよ
──オープンデータの推進も、OGCが継続的に取り組んできたテーマですね。 須藤 問題は、基幹システムを納入しているベンダーごとにデータの構造が違うので、省庁間だけでなく、場合によっては省庁内でもデータの共有ができていないことです。これを統一化する作業は必須です。役所のシステムにベンダーロックインがかかっているようでは、オープンデータ化は進まないのです。
OGCは、そうしたデータ構造の統一といった作業でも、ブリッジ、ハブの役割を果たすことができます。アメリカ政府などは、すでにブッシュ政権の時代から取り組んでいることですので、日本も早急に着手する必要があります。
──ベンダーロックインというのは、日本のIT業界の成長を妨げる課題といえそうですが、なかなか解消されない印象があります。 須藤 クラウド化が日本ではなかなか進まなかったのも、ベンダーロックインで収益を上げるというこれまでのITビジネスの図式が崩れる可能性が高かったからです。しかし、それは後ろ向きの発想ですよね。いまの競争環境に合わせた戦略を打たなければ、世界に取り残されるだけです。
マイナンバー制度の導入などでシステム開発の仕事は増えますので、大手のベンダーにとっては、今後7~8年はキャッシュフローは良好でしょう。ただ、そういった仕事のなかで、いまだにベンダーロックインにこだわり続けるようなことがあれば、それこそ2020年には、取り返しのつかないほど世界から置き去りにされているという状況になりかねません。アジアをはじめとする新興国の台頭もあるので、このままでは負けてしまいます。
お金の出所も問題です。例えば米国は、国防総省から国防費という名目でさまざまなIT技術の開発費用が出ていますが、日本で同じことはできません。プロジェクトの進行を透明化して、国のお金だけでなく、企業のお金も合わせて使えるプロジェクトのスキームが必要です。政府も考えてはいるでしょうが、OGCも、日本が世界で戦うためのスキームを提案していきたいと考えています。オープンデータやマイナンバーは、そうしたインフラをうまく整えるフィールドとしても活用していくべきです。

‘代替発電方式の一つとして私が注目しているのが、音波の微細振動を利用した発電です。’<“KEY PERSON”の愛用品>スケジュールとto do管理はアナログが一番 スケジュールとto doの管理を一体的に行うには、いつでもどこでも書き込むことができること、そして情報の一覧性が高いことが大事。だから「出先では一番役に立つ」と、須藤氏はアナログの手帳を手放さない。
眼光紙背 ~取材を終えて~
共通の目的を達成するために、何社かのIT企業が集まって任意団体を立ち上げるというのは、IT業界ではよくみられる。しかし、具体的な活動を始めると、「総論賛成・各論反対」となり、企業同士の連携がうまくいかず、結果的にフェードアウトするケースも少なくない。
OGCは、そのなかでも会員企業が密に連携し合って成果を出してきた数少ない任意団体だった。とくに、東日本大震災の復興支援では、福島県の都市再生計画の立案支援で大きく貢献した。須藤会長がエネルギー問題に高い関心をもち、スマートシティ関連の施策を強化しているのは、そのためだろう。
一般社団法人になったことで、信用力も影響力も一段と強くなる。OGCが進める計画は、どれも必要なことばかりだ。同じ目的で活動しているIT団体も少なくない。それだけに、会員企業同士の連携だけでなく、他のIT団体との協業もさらに強めて、理想を実現するまでのスピードを少しでも速めてほしいと願う。(鈎)
プロフィール
須藤 修
須藤 修(すどう おさむ)
1955年生まれ。1985年、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。1995年、筑波大学先端学際領域研究センター客員研究員。1995年、スウェーデン・ストックホルム経済大学客員教授。政府の各種委員会にも有識者として多数参加。1997年に参議院商工委員会客員調査員、2006年に政府「IT新改革戦略評価専門調査会」委員、「電子政府評価委員会」座長を務める。その後も、政府「次世代電子行政サービス基盤検討プロジェクトチーム」座長、総務省「電子自治体の推進に関する懇談会」座長、政府「情報セキュリティ政策会議情報セキュリティ基本計画検討委員会」委員長などを歴任。
会社紹介
(Association DATA)
2009年4月に設立されたオープンガバメントクラウド・コンソーシアムが母体。電子政府・自治体をオープンなクラウド技術で構築するための活動を任意団体として進めてきたが、一般社団法人化を機に業容を拡大した。スマートシティや医療情報ネットワークの構築支援、HTML5の普及促進、高度IT人材の育成施策なども手がける。会員企業は、アクセンチュアなどの正会員と準正会員合わせて25社。