アウェイではなくホームで勝負する
──システム開発の案件が増えた一方で、人材不足が指摘されるようになりました。とくに中小規模のシステム開発ベンダーでは、開発者不足が大きな経営課題になってきています。 山本 2014年から15年にかけては社会保障・税番号制度の開発があるなど、さまざまな大型の案件の影響で人材が不足する事態が生じるかもしれません。しかし、基本的な設計さえしっかりやれば、オフショア開発で対応できると考えています。例えば、富士通はインドの拠点をはじめ、オフショア開発要員を3000人から5000人ほど抱えています。開発案件が増えた場合でも、社内の人員を増やすのではなく、外部のリソースを活用していきたいと思っています。
──開発が海外に移るとなると、日本のシステム開発者は不要になっていくということでしょうか。 山本 それはないでしょう。その考えは間違っています。ICTの適用範囲はどんどん広がっていますから、開発者の仕事はいくらでも増えていきます。だから、日本で開発者の仕事がなくなることはありません。
──国内のマーケットは広がるかもしれませんが、いずれは縮小傾向になるといわれています。富士通の海外事業比率は4割弱ですが、海外の事業についてはどのようにお考えですか。 山本 “圧倒的”に海外の事業を進めていかなければいけない。富士通はここ何年かをかけて、グローバルでインフラを整備してきました。やはり、どこでも均質なサービスをサポートできなければ、グローバルカンパニーが相手にしてくれませんから。そこで、データセンターやオフショア開発センター、コールセンターとか、かなり整備してきています。ようやく、それをベースにしたマネージドサービスを提供できるようになりました。
今後は、もっとアプリケーションのレイヤに行こうと。2014年以降の富士通のグローバルテーマは、「アプリケーションレイヤをどうやって広げていくか」ですね。
──地域別ではどうですか。 山本 最近は、ホームとアウェイという話をよくしています。アウェイの戦いは避けられないけれど、大量得点ができない。だからホームで勝負するのだと。ホームというのは、やはりアジアですね。高得点を目指して、ホームでのビジネスをどうやって大きくしていくかだと思います。
アジアには、日本のすぐれた文化が浸透する可能性がある。日本という国をベースに考えたら、可能性はものすごく高いと思います。
2014年は「飛躍」の年
──2014年のキーワードは何になりますか。 山本 2013年は「挑戦」でした。今年は飛躍の年だと思っているので「飛躍」ですね。日本も同じで、アベノミクスでベースはできたとしても、真の経済が立ち上がるかどうか。今年は賭けになるけれど、そこは飛躍しないといけない。
──経済環境については、どのようにみておられますか。 山本 良好だとみています。不安要素はありますが、あれだけの予算で政府が投資していますから、つられていろいろな効果が出てきますよ。一時的には消費税率引き上げのブレーキがかかるかもしれませんが、過去に何回も経験していますし、消費増税の対策もいろいろ講じていますから。
それと、日本人全体のマインドが、けっこう前向きになってきているじゃないですか。これは大きいですよ。景気の「気」は、気合の「気」です。よくなると思わなければ、景気は決してよくはならないのです。
──2014年度は何がポイントとなりますか。 山本 これまでの取り組みは、あくまで実証の段階というものが多い。2014年は、それを実ビジネスにつなげていく。種まきは終わりました。そこからどうやって刈り取るか。収穫に向けた非常に重要な年になります。
──2014年度の業績見通しは、挑戦的なものが出てきそうですね。 山本 2015年の中期目標に向けて、今年は成長戦略の上昇カーブに乗らないといけない。2014年度はしっかりと1400億円の営業利益を出して、2015年度につなげたいと思います。

‘種まきは終わりました。そこからどうやって刈り取るか。収穫に向けた非常に重要な年です。’<“KEY PERSON”の愛用品>パソコン代わりに重宝 出張時には必ず携帯していくタブレット端末「ARROWS Tab」。「出張先にパソコンを持っていくのをやめちゃいました。不都合はまったくない」と山本正已社長。長持ちする電池がお気に入りのポイントになっている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「世の中っていうのは、いいことと悪いことが交互に来るようになっているんだよね」と山本社長。2013年度は、社長就任以来、最高の年になったのではないかとの問いに、笑顔でそう答えた。
悪いこともあったという。その一つが、2013年度上期の業績を悪化させる要因となったスマートフォンだ。NTTドコモの“ツートップ戦略”にスマートフォンの国内メーカーは翻弄された。「かき回されちゃったという感じですね」と、本音をちらり。ただし、撤退する気はまったくない。2013年の経験から底がみえたので、それを考慮したビジネスモデルをつくればいいという考えだ。端末ビジネスの難しさを実感していると思いきや、「ただそれだけのこと」といわんばかりの発言に拍子抜けした。
むしろ、その視線はもっと先にある。山本社長は言う。「イノベーションは端末から起こる」と。それゆえ、富士通全体のソリューションに端末は欠かせない。業績好調の今こそ、世間をあっといわせる富士通発のイノベーションに期待したい。(弐)
プロフィール
山本 正已
山本 正已(やまもと まさみ)
1954年1月11日生まれ。1976年4月、富士通に入社。99年にパーソナルビジネス本部モバイルPC事業部長、02年にパーソナルビジネス本部長代理に就任した後、05年6月、経営執行役に就いた。07年に経営執行役常務、10年に執行役員副社長を経て、同年4月、歴代2番目の若さで執行役員社長に就任。同年6月から代表取締役社長を務める。社長就任時に掲げたビジョンは「ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ」。
会社紹介
ハード、ソフト、サービスともに国内トップレベルの大手ITベンダー。2013年4~9月期の業績は、売上高が前年同期比3.9%増の2兆1516億円、営業利益は同2.5倍増の108億円。通期の連結売上高予想は4兆6200億円。システムプラットフォームとサービスを機軸とする法人向けのビジネスソリューションが売上高の6割以上を占める。