50%以上の成長、「IaaSではない」を訴求
──橋本社長のたとえの通り、マイホームを購入すると、わくわくすると思います。しかし、その一方で、住宅ローンを返却するために、たくさん働いて稼がないといけないので、プレッシャーも大きくなるか、と。 橋本 もちろん、大人になったことによる責任はきちんと果たすつもりでいます。これから、マルチDC対応のクラウドサービス「ZETA Cloud(ゼタクラウド)」を中心とする商材の提案に力を入れて、「大人」にふさわしい年商規模につなげていく。そう、覚悟を決めています。
──現在の売り上げはどのくらいですか。ぜひ、教えていただきたいのですが。 橋本 金額は公開しません。(少し考えて)申し上げられるのは、成長率です。2013年12月期の売上高は、前年同期比56%の増加となりました。案件が活発に動いていて、クラウドビジネスが順調に伸びつつあります。
──御社は、2012年に市場に参入し、クラウドでは後発のプレーヤーです。現場主義の橋本社長ですから、営業担当にも話を聞かれると思います。競争が激しいなかで、「ZETA Cloud」を提案する際に、営業担当はどのような苦労をしているとみておられますか。 橋本 クラウドサービスをIaaS、つまり、単なるインフラと捉えているお客様が多い。だから、提案の際には、当社のサービスは通常のIaaSとどう違うのかということを明確にすることが大きな要素になります。ここで営業力の差がつくと思います。サービスのメリットをきちんと説明できない営業は、とてつもなく苦労しているという話が私の耳によく届きます。
──橋本社長は、御社のサービスの利点をどのように説明されますか。 橋本 当社は、石狩、横浜、大阪の3拠点のDCに共通のクラウド基盤を構築しています。それが、「ZETA Cloud」です。この基盤の上で動かしているシステムは、仮に一つのDCが震災によって被害を受けてサーバーなどが壊れたとしても、ほかのDCにバックアップ環境ができているので、システムは問題なく稼働し続けます。要するに、当社サービスのマルチDC対応は、災害時のBCP(事業継続計画)に直結するのです。
ポイントは、BCP対策を“ついでに”図ることができるということ。バックアップ環境の構築に予算を使うのではなく、システムを当社のクラウドに移せば、バックアップ環境が自動的に提供されるということが当社の強みだと自負しています。
そして、もう一つあります。当社は、インフォリスクマネージの頃から、システム運用を得意としていて、今もクラウドと合わせてお客様に提案しています。運用を当社に任せることによって、ユーザー企業の情シスの方は定時に帰ることができ、さらに、システムのトラブルによるビジネス停止を防ぐので、経営層にも喜ばれています。この裏づけとして、先日開いたユーザー会で、お客様のエグゼクティブの方々から「導入を決めてよかった」といううれしいお言葉をいただきました。
マネジメントは外資系らしく数字をシェア
──橋本社長は、12年6月にエヌシーアイの社長に就任する前に、ずっと外資系のIT企業でキャリアを積んでこられました。社風の違いとか、違和感を覚えることはありませんでしたか。 橋本 およそ1年半、当社の社長を務めてわかったのは、外資と国産が違うのは人ではなく、ルールでもない、リーダーなのだ、ということです。エヌシーアイに入って、社内で業績の数字が共有されていないことに衝撃を受けました。そこで着手したのは、情報共有の徹底です。
月一回、各本部長を集めて、直近のビジネス状況と翌月の目標を確認し、会議が終わった後、数字を全社員に送信します。社員は、数字を把握していれば、なぜ上司が最近厳しい発言が多いのかといったことについて納得し、会社全体に対する責任感が強くなると捉えています。私の社長就任から、エヌシーアイが「100%、別の会社になった」と社員が言ってくれます。社風に関しては、今は外資系とほぼ変わらなくなったといっていいでしょう。
──最後に、今年の重点施策と、今後のビジョンについて聞かせてください。 橋本 今年は、セキュリティのサービスを積極的に増やしたいと考えています。私は、SSLサーバー証明書を提供する日本ベリサイン(現シマンテック)の社長を務めたこともあって、サイバー攻撃の怖さを身をもって経験してきました。ぜい弱性診断や各種認証はもちろんのこと、ファイアウォールやURLフィルタリング、暗号化なども用意して、セキュリティを幅広く提供することによって、「ZETA Cloud」の強みを明確に打ち出したい。
ビジョンは、お客様が当社の国籍などを意識しなくなる会社づくりです。「エヌシーアイは日本のベンダー」ではなく、「エヌシーアイはサービス事業会社」。お客様にそういうふうに思われるよう、サービス開発と提案活動に精を出していきたいと思います。

‘4月に石狩DCは完全に当社の財産になります。賃貸の部屋を出てマイホームを手に入れるのです。そうした「大人」にふさわしい年商規模にしていきたい。’<“KEY PERSON”の愛用品>ピンクの手帳 「Work hard. Have fun. Make history」。たくさん働いて、たくさん遊んで、実績を残すという橋本社長のモットーを表す英文字を施した手帳。現在は違うものを使っているが、机の引き出しに大切に保管している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
橋本晃秀社長は「自分の仕事にプライドをもつことが大切」と強調する。今回のインタビューでは、エヌシーアイの社長の活動について熱く語った。とくに、氏が専門とするセキュリティについては熱弁を振るい、セキュリティ商材を武器に事業を伸ばす方針をアピールした。日本ベリサインの社長を務めた経験で得たプライドを、エヌシーアイのビジネス拡大につなげようとしている。
仕事の進め方に関しては「メリハリをつけること」を重視するそうだ。「人間が集中力を保つことができるのは、せいぜい1時間。ちゃんと休憩の時間を入れて、一日、効率よく仕事をこなす」ようにしている。夜や週末は、「自分を仕事から解放し、オフの時間を満喫する」。仕事にプライドをもっているからこそ、プライベートも大切にするというプロ意識だ。
ドイツの高級車に目がない。ブランドは明かさないが、ガレージには2台も止まっているそうだ。品質とスピードで、ビジネスの拡大に拍車をかけていく。(独)
プロフィール
橋本 晃秀
橋本 晃秀(はしもと てるひで)
SSLサーバー証明書を提供する日本ベリサイン(現シマンテック)とデジタルコンテンツ配信事業のシーディーネットワークス・ジャパンのCEO(最高経営責任者)を歴任した後、2010年、ホスティングサービス会社のGMOクラウドに入社。エンタープライズ営業本部本部長を務める。12年6月、エヌシーアイの代表取締役社長に就任した。
会社紹介
日商エレクトロニクスグループのクラウドサービス会社。北海道・石狩、横浜、大阪のデータセンター(DC)を活用して、ハウジングやプライベートクラウド構築、セキュリティなどを、運用を含めて提供する。サーバーの運用・監視を手がける「インフォリスクマネージ」として、1997年に設立された。日商エレクトロニクスによる子会社化後、2012年9月に社名を「エヌシーアイ」に変更。従業員数は168人(2013年4月1日現在)。東京・千代田区に本社を置く。