「『完璧』をリーズナブルに」を提案
──具体的には、どんなことに取り組んでおられますか。 カンナン 仏教がインドで生まれたことから考えると、日本とインドは文化の“原点”が同じだといえます。言葉も実は、文法やシンタックス(構文)に関して共通点が多いと捉えています。このことを基盤にして、社員の徹底的な教育を進めています。
社内の教育機関として、「TCSラーニングアカデミー」を設けました。インド人の社員には日本語の学習に励んでもらい、文法の知識や読解力を認定する「日本語能力試験」を受けるように促しています。ちなみに、私自身もビジネス会話レベルを目指し、日本語を勉強しているところです。
一方、日本人の社員は、研修プログラムの一環としてインドに送り、現地で開発手法などについて学んでもらいます。インドのIT開発の手法はグローバルスタンダードになりつつあります。だから、IT業界に関していえば、グローバル化はつまり“インドナイゼーション”だということですね。日本人社員に現地でインド式のスキルを身につけさせて、世界に通じる人材を育成しています。
──日本でビジネスを成功させるためには、製品力は当然として、ブランド力がカギを握っていると思います。「TCSジャパン」のブランドはまだ弱い気がしますが……。 カンナン おっしゃる通り、ブランドはとても重要だと考えています。TCSジャパンよりも日本で認知度が高いのは、当社の親会社であるタタグループです。相手に名刺を手渡すと、「タタの子会社だね」といわれて、高い評価をいただいていると実感することがよくあります。これから先、タタだけではなく、TCSジャパンも強いブランドとして定着させたいと考えています。
──カンナン社長は、日本法人のトップに就任する前に、インド本社でキャリアを積んでこられました。日本ビジネスをけん引するということについて、どのように感じておられますか。 カンナン 私は、若い頃に愛用したソニーのウォークマンにしても、MBAで勉強した「カイゼン」などのマネジメント手法にしても、これまでも日本と多くの接点をもちました。だから、日本のことを身近に感じて、今、TCSジャパンの社長として仕事ができることに、大きな満足感を覚えています。
日本に来て心がけるようになったのは、「完璧」を追求すること。日本のお客様には「よい」は通じません。常に「完璧」でなければいけないので、ソリューションの品質の向上に力を注ぎながら、「『完璧』をリーズナブルな価格で」という切り口の提案を行っています。
パートナーを生かして特定業種に入り込む
──現在、事業の拡大に取り組んでおられるということですが、具体的な目標を教えてください。 カンナン 今後数年で、売上高を5億米ドル、日本円でいえば、およそ500億円に引き上げたい。そのために、引き続き、技術・営業の体制を強化していきます。この4月、社員を150人増員しました。もう一回、同じくらいの人数の新メンバーを入れて、1000人に増やしたいと考えています。フロアの増床など、急ピッチで準備を進めているところです。
インドの開発センターにも、日本専用の仕事を担当する人材が1500人います。こうしたリソースを活用して、早いうちに売上高500億円の目標を達成したい。
──商材に関してはいかがでしょうか。 カンナン グローバルソリューションの品揃えの拡充を方針に掲げています。
最近、お客様がソリューションを体感することができるデモンストレーションコーナーを本社内に新設しました。インドに行くには時間と費用がかかるので、ビデオ会議などを使って、まず日本で簡単なデモをお見せする。それを踏まえて興味を示していただいた場合は、お客様をインドにお連れして、TCS本社で詳細な体感の場をご用意するというかたちで、当社のソリューションの強みを訴求しています。
最近とくに手応えを感じているのは、保険や医療/製薬といった業種のお客様に対する提案活動です。これらの業種に精通する日本の“ニッチパートナー”と組んで、案件を獲得するという提携モデルが軌道に乗りつつあります。パートナーは自社のテンプレートをもっているので、それらを生かしてソリューションを提供します。今後、横展開に取り組んで、日本のパートナーと一緒に特定の業種にどんどん入り込んでいきたい。
──話題の「ビッグデータ」については、どのように考えておられますか。 カンナン ビッグデータをどのようにソリューションに取り入れて価値を創出するかについて、センサや工場用の機械を製造する3社の日本企業と協働し、今、実証実験を行っているところです。とくに製造や医療/製薬の分野で、ビッグデータの可能性は非常に大きいとみています。
ビッグデータを含めて、日本のお客様にソリューションを提供し、IT活用によって「グローバル力」が高まるよう、提案活動にまい進していきます。

‘私は日本のことを身近に感じて、TCSジャパンの社長として仕事ができることに大きな満足感を覚えています。’<“KEY PERSON”の愛用品>インド「Titan」の腕時計 インド製の「Titan(タイタン)」の腕時計がお気に入り。「誰かからの贈り物だけど、確か妻ではなかったような気が……」と、ジョーク交じりに語る。薄型で腕にぴったりのはめ心地が気に入っているそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
TCSジャパンのカマラ・カンナン社長は、ユーモアのある人物だ。今回のインタビューの写真撮影の際、「ち~ず」と笑顔をお願いするカメラマンに応えたのは、「マネー」という言葉だった。日本事業の成長に投資したお金を短期間で回収することを強く意識しているようだ。
インタビューは英語で行ったが、「インドと日本は文化が同じだ」ということを、カンナン社長は日本語で強調した。日本側とインド側がうまく噛み合ってソリューションを届けるというTCSジャパンのビジネスモデルを成功に導くためには、日本法人とインドの開発拠点の緊密な連携が欠かせない。カンナン社長は、自らが手本になるべく日本語を学び、社員の“インド化/日本化”に精を出している。
TCSジャパンの挑戦は、日本のユーザー企業にいかに「入り込む」かということだ。カギを握るのは、日本のパートナーとの協業モデルの成立と定着。パートナービジネスを活発にして、「マネー」をたくさん稼ごうとしている。(独)
プロフィール
カマラ・カンナン
カマラ・カンナン(Kamalak Kannan)
1960年生まれ。インド大手自動車メーカーのグループ企業でソフトウェアエンジニアを経て、タタコンサルタンシーサービシズ(TCS)に入社。製造や金融などの業界に対してのシステム提案に携わる。TCSチェンナイのバイスプレジデントとして、大型プロジェクトのデリバリを統括。2012年4月に現職に就いた。インドのアンナ大学でMBA(経営学修士号)を取得している。
会社紹介
インド・タタグループでITコンサルティングやシステム構築を手がけるタタコンサルタンシーサービシズ(TCS)の日本法人。1987年に日本へ進出し、日本法人の設立は2004年。東京・港区に本社を置くほか、大阪と名古屋にオフィスを構える。現在、数百人の従業員を1000人に増員することを計画している。