間接販売チャネルの開拓が重要に
──基本的には、取引時の手数料だけが収入源となる薄利多売のビジネスモデルですから、ユーザー数の拡大が至上命題ですね。 佐俣 現在、販路は大きく分けて三つあります。一つは、オンラインの申し込みで、やはり数としてはこれが一番多くなります。一方で、規模の大きいお客様に対しては当社の営業が直接対応して調整することもありますので、直販営業の部隊があります。これが二つ目ですね。
三つ目は、パートナー経由の販売ですが、これはさらに2種類に分けられます。一つは、コイニーのサービスを直接取り次いでくれるクレディセゾンなどのカード会社です。もう一つは、「Coiney」と連携したプロダクトをもつベンダーが、OEMのようなかたちで、自社プロダクト/ブランドの一部機能として売ってくれるパターンです。その具体例が、NTT東日本との提携です。同社の店舗向けクラウドサービス「ラクレジ」の決済機能に「Coiney」が採用され、NTT東日本の法人営業部隊は、「ラクレジ」を通して「Coiney」を普及させてくれるのはもちろん、「Coiney」単独の取次販売も手がけていて、同社経由の流入が増えています。地方まで行き届いた強力な営業網をおもちですし、ユーザーとの信頼関係も構築されています。
──現在はアーリーアダプタにリーチしている段階ですが、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティと普及させていくためには、「人が売る」間接販売の比率を増やす必要があると考えますか。 佐俣 人が介在するチャネルは拡充していきたいと思っています。事実、人が介在した案件では、一店舗あたりの売り上げや決済額が、オンラインで契約したお客様と比べて高くなる傾向があります。やはり人の足で稼ぐのが大事だよねというのが、日本のスモールビジネス市場に対する私の見方です。
──NTT東日本のような通信キャリアは、結局、回線契約で元を取れればいいわけで、単価が安いクラウド商材とビジネスの親和性は高いといえそうですが、地場の中小ITベンダーなどは協業相手になり得るのでしょうか。 佐俣 当然、なり得ます。人が介在するチャネルということを考えると、地場に強い、そしてそのなかでも飲食や小売りなど、特定のジャンルへの提案で強みを持つパートナーとは、ぜひ連携したいと考えています。実際に地域によっては、そのような動きがありますし、今後もトライアンドエラーを繰り返しながら連携を模索していきます。
すでにキャズムに到達しつつある
──しかし、薄利多売のクラウドサービスである「Coiney」の間接販売モデルを構築するのは、ひと筋縄ではいかないのではありませんか。とくにITベンダーは、そうしたビジネスモデルに対応できていないケースが圧倒的に多いようです。 佐俣 代理店に、どういう収益モデルでインセンティブを提供できるとWin-Winになるのか。確かに悩ましいところではあります。インフラビジネスは規模が大事で、とくに普及期は、エンドユーザーにいいサービスを届けるために、収益率を落として、低コストで提供することになりますから。ただし、今後は決済手数料だけでなく、付加価値の高いサービスを提供して対価をいただくモデルも増やすべきだと考えています。付加的なサービスを、当社やパートナーが用意して、案件の単価を上げるということですね。それを見据えたパートナーシップも今後生まれてくるでしょう。
──具体的にそういうスキームが実現できそうな取り組みは始まっていますか。 佐俣 トライアルで、「スタートパック」というものを始めました。「Coiney」のアカウントやカードリーダーに、端末と通信プランをセットにした商品です。代理店のビジネスとして単価はかなり上がりますので、一つのモデルとして有望だと考えています。今回はハードと通信サービスという付加価値ですが、もちろん、SDKによる機能のカスタマイズでもいいわけです。
「スタートパック」には、想定よりも多い反応がありましたが、一例にすぎません。日本は米国よりもアーリーアダプタの層が薄く、モバイル決済についていえば、すでにキャズムの段階が来ている印象があります。その意味でも、間接販売ルートの整備は、非常に重要です。
──「Coiney」が普及した先に、どんな世界を実現したいと考えておられますか。 佐俣 極端にいえば、「1億総キャッシュレス化」です。日本は、よくも悪くも現金中心で経済がうまく回っていますが、世界でみると、インターネットの普及をバックグラウンドにキャッシュレス化が進み、通貨が再発明されるという流れのなかにいるのです。事実、AmazonやFacebookなどは、国境を越えたお金をもち始めています。それがさらに進み、外国為替の概念が消失したら、新しい経済のかたちが生まれる可能性もあります。そのためのインフラを担うということも、将来は大きな目標になり得るかもしれません。

‘やはり人の足で稼ぐのが大事だよねというのが、日本のスモールビジネス市場に対する私の見方です。’<“KEY PERSON”の愛用品>カード収納付きのスマートフォンケース カード類をしばしば紛失してしまうのが悩みだという佐俣社長。なくしてはいけないカードは、スマートフォンのケースに収めて一緒に持ち歩く。仕事でもプライベートでも常に手元から離さないので、効果はてきめんだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
新卒で大手外資系投資銀行の内定を得たが、インターンで実際の業務に触れ、1クリックで数十億円のお金を動かす仕事にリアリティが感じられず、辞退した。その後、ベンチャーキャピタルでインターンとして働いていたときにシリコンバレーを訪れ、「金融サービスの分野でも、これからはソフトウェアが伸びていく」と確信した。そして、米ペイパルに入社。「ペイパルは、ITのエンジニアが主導して金融サービスを開発・提供するという挑戦的な企業だった。ITと金融サービスの両方を学ぶことができた」という経験が、現在までの道のりを決定づけた。
キャッシュレス化を進めることは、世の中を今よりもっとずっと便利にすることだと信じている。インターネットの普及により、新たな通貨の仕組みができつつあるなかで、日本が後れを取っていることへの危機感もある。スモールビジネスの業務プロセスにクラウドサービスで革新をもたらし、その先には新時代の経済インフラの担い手を目指すビジョンを描いている。
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プロフィール
佐俣 奈緒子
佐俣 奈緒子(さまた なおこ)
1983年生まれ。広島県出身。高校時代、米国に短期留学し、帰国後、京都大学経済学部に入学。在学中に、インターンで米国の携帯電話事業立ち上げなどを経験した。2009年、米ペイパルに入社。マーケティング担当として日本法人の立ち上げに参画し、翌年に優秀社員賞を受賞。2012年3月、コイニーを設立、代表取締役社長に就任。
会社紹介
2012年3月創業。2013年4月に、スマートフォンやタブレット端末を使ったクレジットカード決済サービス「Coiney(コイニー)」をリリースした。ユーザーは、「Coiney」のアカウントを取得するとともに無料のアプリを自身のモバイル端末にダウンロードし、オリジナルのカードリーダーを装着すれば決済サービスを利用できる。基本的な利用料は、取引ごとに手数料3.24%を支払うだけ。創業から1年半で、約14億円の資金を調達した。