2014年7月期の決算で、売上高が前年度比12%増の約1436億円となった内田洋行。今期、新たに大久保昇社長が就任し、柏原孝前社長(現会長)から経営の舵取り役を引き継いだ。目下、同社の事業のなかで最も高い成長率を誇る公共関連事業、とくに文教向けITビジネスの「顔」として長年活躍してきた大久保氏の社長就任は、内田洋行の戦略を雄弁に語っている。子会社の再編を進めて、グループとしての組織のあり方も大きな変革期にある同社を、どのように成長に導くのか。大久保社長のビジョンに迫った。
真の「情環融合」を実現
──7月半ばに社長に就任されました。経営者としての最優先課題は何でしょうか。 大久保 強く意識しているのは、企業価値です。内田洋行の株価は、残念ながら同業他社と比べてもそれほど高くない。リーマン・ショック以降、業界全体が沈みましたが、当社は立ち直りに時間がかかり、業績・株価ともに回復が遅れています。今期は中期経営計画の最終年度ですが、来年7月に施行する新たな中計にその解決策を示すべく、検討を進めているところです。
──企業価値向上のために、何を進めますか。 大久保 当社は、公共、オフィス、情報という三つの事業を柱にしていますが、それぞれの強みを共有して、三事業が連携した総合的なソリューション提案で強みを発揮できる体質にしたいと考えています。タイプの違う三つの事業ドメインをもっていて、それぞれの強みがあるのは、他社にはない当社ならではの魅力です。それを、営業やマーケティングの現場でも意識してほしいと、各事業本部に指示しています。一歩引いて自らの事業を俯瞰してみると、例えば、他事業で自分たちが攻め切れていない地域や業種に強みをもっていることに気づくケースがあります。そこに事業間で連携した提案をすれば、新しい顧客を開拓できる可能性が高まります。
──実現の難易度は高そうです。 大久保 もちろん、簡単ではありません。実は、ITとオフィス家具の総合的な提案を情報と環境の融合という「情環融合」として数十年前から掲げてきました。例えば、本社社屋では、オフィスの総合的なソリューションを、未来の絵空事ではなく、あくまでも内田洋行が現在提供できる実用的な製品群として展示しています。ところが、それを見たお客様の99%は、「内田洋行ってこんなこともできるの?」とびっくりされます。お客様への提案の現場で、当社のポテンシャルを生かし切れていない証拠といえるでしょう。これまでは、それぞれの事業が独立して頑張るだけで経営が何とか成り立っていたこともあって、顧客の視点で、事業間を横断した総合的な提案をするという発想に乏しかったのだと思います。
──組織の構造そのものを変えるのでしょうか。 大久保 組織をいじるというよりも、情報共有の仕組みをどう整えるかが課題です。まずは、社員に向けてさまざまな意識改革の場を用意することが大事だと考えていますし、「情環融合」のコンセプトも、あらためて整理して、アップデートします。また、三事業という大きなくくりの中に、膨大なスモールビジネスユニットがあるわけで、それぞれの強みを共有して社内の横の連携を促進する情報システムづくりも並行して進めていくことになるでしょう。こうした取り組みは、グループ会社にも広げていきます。
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