富士通が2021年に立ち上げた新たな事業モデルである「Fujitsu Uvance(ユーバンス)」が本格的な成長段階に入った。24年度(25年3月期)は上期だけで売上高が2000億円を超え、主力のサービスソリューション事業におけるUvanceの売上構成比率が2割を占めるに至ったほか、テクノロジー基盤の「Horizontal」領域だけでなく、社会課題・経営課題を解決する具体的なソリューションに相当する「Vertical」領域の売り上げが伸びているのが特徴的だ。時田隆仁社長は「結果に対する一喜一憂はない」と話し、計画通りの進捗であるとの見方を示した上で、今後へのさらなる期待もにじませた。
(取材・文/大向琴音、日高 彰 写真/大星直輝)
結果に対する一喜一憂はない
――Uvanceの売上高が、24年度上期に2000億円を超えました。前年同期比31%増と力強い伸長です。この数字に関してどのように見ていますか。
中期経営計画で掲げた数字に対して“オントラック”で来ているということで、一喜一憂はないですね。ただ、しっかりと実績が積み上がっているということは非常にポジティブに受け止めています。それだけUvanceへの理解が顧客や社会に広まって認知度も上がり、必要性を認めていただいていることの表れではないでしょうか。無理な目標を立てたとも思っていないし、楽な目標を立てたとも思っていません。サービスソリューションセグメントの中の(Uvanceの)比率は、25年度に30%を目指しています。いわゆる(受託開発型の)SI一辺倒だったところから、(オファリング型のサービスに)構成が変わってきているということは非常にうれしいです。
――時田社長就任以前の富士通も、オファリング型の事業モデルを志向する発想はあったと思いますが、Uvanceを立ち上げたことによって初めて、ビジネスのかたちがこれほど力強く変わり始めたということでしょうか。
そうですね。Uvanceはブランドとして立ち上げたものではなく、ずっと「事業モデル」だと言い続けてきました。事業モデルそのものが変わっていることを示すためにも、比率が上がっているのは非常にポジティブです。しかし、比率が100%になるかどうかはまた別の話で、そうあるべきかについても非常に注意深く検討しなければいけないと思います。
――1年前のインタビューでは、Horizontal領域の先行は織り込み済みとのお話がありました。今回の決算の中では、Vertical領域が大きく伸びていましたが、大手企業ではHorizontalに相当するシステム基盤の整備はある程度済んだということなのでしょうか。
今回の中期経営計画ではモダナイゼーションを一つの軸としていますが、それが進んだ先、あるいは同時にUvanceのHorizontalがあるわけなので、この領域でのビジネスの余地はまだまだあります。ただ(前年の上期と比べてVerticalの売り上げが)倍ぐらいに成長したことについてはよかったです。一喜一憂しないとは言っても、「あ、意外にいったな」と感じています。
要因としては、20~30ほどのオファリングをそろえたこともあるでしょう。ただ、それらのオファリング全てで満遍なく導入が進んでいるわけではありません。パッケージアプリケーションビジネスにおいて、当社は必ずしも成功モデルが多いわけではないので、収益性や競争力を見定め、きちんと取捨選択をしていく必要があります。品ぞろえをただ増やせばいいということではありません。
――受託開発もオファリングビジネスも、システムを構築するという点は共通です。どこに違いがあるのでしょうか。
受託開発で一番厳しいのは標準化です。共通のプラットフォームという考え方が効かない上、どうしてもリソースを(個別のプロジェクトに)張り付けてしまうので、リソースの割り当ての自由度は大きく違います。もちろん、“ビスポーク(オーダーメイド)”でやったほうがぴったりした服はつくれますが、そこではない価値を訴求しながら増やしていくということです。
前述したように、Verticalの全部の調子がいいわけではないので、そこはしっかりと見ながらやっていかなければなりません。特に今はデータ分析やインテリジェンス、AIを使って業務を手助けすることに関心が集まっています。次なる業務プロセスの革新は、AIが本格的に実装されたときに起きるので、(今は)Verticalの中における準備段階かもしれません。
競合製品の提案も辞さない
――Uvanceの冠が付くビジネスとしては、24年にコンサルティング事業の「Uvance Wayfinders(ウェイファインダーズ)」を立ち上げられました。ITベンダーのコンサルというと、自社のソリューションを買ってもらうための売り込み的な意味合いが強かったように思います。しかしコンサル自体を事業にするとなると、仮に顧客にとって富士通製品よりも他社製品のほうが良いとなれば、そちらを薦めるのが筋です。そんなことが果たして可能なのでしょうか。
まさにその通りです。私が顧客の経営者だったら、変な色がついたコンサルタントには頼みません。確かにWayfindersには富士通の色がついているわけですが、問題は、顧客からそれがセールスと見えてしまうかどうかです。まずは「社会課題解決がどのようにして企業の成長ドライバーになるか」のストーリーを語り、理解していただく必要があります。そこが、Wayfinders(に携わるコンサルティング人材)をある種の認定制度のようにした意義でもあるわけです。富士通は、押し売り的なコンサルティングを当社のコンサルティングビジネスとは呼びません。グループ内にRidgelinezを立ち上げた意味もここにあります。中立性を持ったRidgelinezと、富士通のWayfindersを使い分けていく必要があります。顧客への向き合い方をどう変えるかは、正直チャレンジです。
また、コンサルティングビジネスにおいては、他社とは顧客を奪い合う関係ではありません。私はほかのコンサルティングファームとも積極的に話をしています。コンサルティングファームにとって、富士通がオプションの一つになるためです。顧客にとって最適なものとなるショーケースの中に、富士通やUvanceのロゴはまだまだ入りきれていません。他社のコンサルタントにも私たちが選ばれないとだめですし、選ばれる以前に、まずは知られなければどうしようもない。Uvanceをほかの会社の人が紹介してくれるのは大歓迎です。逆もまたしかりで、Ridgelinezには「(NECのDX事業モデルの)『BluStellar(ブルーステラ)』のほうが良ければBluStellarで」と言っていますよ(笑)。
――コンサル事業においては競合ソリューションの販売も辞さないと。
現実には今までに起きてはいませんが、Ridgelinezの今井(俊哉)社長とは「そういう世界が来ればいいのにね」と話をしています。他社製品を売ることを辞さないということは、自社のIP(知財)にこだわらないという話と全く一緒です。そう言いながら、これまで実態としては自社IPにこだわってきたわけです。でも私は“カニバリゼーション”すら恐れません。逆に、「ヘルシーなコンフリクトは歓迎」とのメッセージをずっと発信し続けています。目線は顧客の成長や社会の発展ですから、そこに資するもの、そこで選ばれるソリューションやプロダクト、サービスをつくっていくということです。
他社にはないテクノロジーを搭載する
――この1年の間に、サーバー、ストレージ製品の事業を富士通本体から切り離し、エフサステクノロジーズが始動しました。効果は出ているのでしょうか。
これらの事業では当たり前のことができていませんでした。エフサステクノロジーズをつくったことで、それにしっかりと向き合えるようになった実感があります。例えば、業種軸でサーバーのビジネスをする中に、データセンター事業者が入っていなかったんです。データセンターに供給するサーバーは今の時代、当然GPUサーバーです。しかし、富士通は業種向けの業務アプリケーションのためのサーバーを売ってきたため、GPUサーバーの供給量は少なかったのです。これがいわゆる従来型のSIモデル、垂直統合だったとすると、もうそのような時代ではないということを、エフサステクノロジーズをもって示したわけです。エフサステクノロジーズは自律的な成長のために市場を開拓しなければいけない。サーバーやストレージのインフラの価値を最大限発揮できるマーケットに向き合うということですね。
――基本的に業務アプリケーションとセットで入っていくサーバーだったために、サーバー事業全体の中で、データセンター向けのソリューションがどうあるべきかとの発想が希薄だったということですね。
当社ももちろんデータセンターを持っており、運用サービスや、ホスティングサービスを提供している事業者です。ただ、データセンターのありようは変わりました。キャッチアップはしっかりしていきます。それは、他社にはないテクノロジーを搭載するということにほかなりません。例えば、次世代プロセッサーの「FUJITSU-MONAKA」もそうですし、GPUのほとんど使われてない領域を効果的に使えるようにするソフトウェアなどのテクノロジーがあります。もちろん、(独自CPUなどのビジネスにおいては)一定の規模を追う必要があり、これは当社だけで実現できる部分ではないため、提携しているサーバーメーカーにそれらを提供するということも考えられます。富士通のIPを搭載した省エネや効率性を備えたサーバー群を出していくということは、市場に対して相応のインパクトがあると思っています。
眼光紙背 ~取材を終えて~
24年に東京・汐留から、「富士通信機製造」の故郷である神奈川・川崎へ本社を移転した。富士通が誕生したころに立ち返り、富士通グループの技術の中心であることに加え、地域との共生も踏まえた「公園」のような場所にしたいとの意味も込めて、本社を「Fujitsu Technology Park」と名付けた。「その名の通り、当社のテクノロジーの総本山、本拠地という位置づけ」と時田社長は語る。今後、敷地内には量子コンピューティングの拠点を建設する予定という。
世の中の変化はますます激しさを増し、富士通の事業モデルも大きく変わりつつある。ただ、時田社長は「顧客のはしごを外したことはない」と話し、既存事業とのバランスには注意をはらっていると強調する。創業の地に立ち戻りながら、さらなる発展を目指していく力強い姿勢が見て取れた。
プロフィール
時田隆仁
(ときた たかひと)
1962年、東京都生まれ。88年、東京工業大学工学部卒業後、富士通に入社。システムエンジニアとして金融系のプロジェクトに数多く携わり、2014年に金融システム事業本部長に就任。15年に執行役員、17年にグローバルデリバリーグループ副グループ長、19年1月に常務・グローバルデリバリーグループ長を歴任し、19年6月に社長に就任。19年10月からはCDXO(チーフDXオフィサー)職(23年3月まで)、21年4月からCEO職を務める。
会社紹介
【富士通】1935年、富士電機製造(現富士電機)の通信機器部門を分離して設立。60年代からコンピューターの製造を本格化し、日本を代表する電機メーカー、ITベンダーに成長した。2020年、企業パーパス(存在意義)を「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」と制定。24年3月期の連結売上高は3兆7560億円、従業員数は12万4000人(24年3月31日現在)。