LegalOn Technologiesのビジネスが順調だ。電子契約やAIレビューなど、複数のモジュールで法務に関する業務プロセスを統合し、一貫して支援するAI基盤「LegalOn Cloud」のパートナービジネスを4月に本格的に開始し、事業を新たなステージに引き上げようとしている。角田望CEOは「グローバルでナンバーワンのリーガルテック企業になる」と意気込み、さらなるビジネスの拡大を目指している。
(取材/大畑直悠 写真/馬場磨貴)
リーガルテックは使うのが当たり前に
――ビジネスの近況を教えてください。
順調に成長しており、有償で提供しているサービスの導入数は2025年3月時点で7000社を超えています。当社の強みの一つは開発力で、プロダクトの進化の速さに期待を抱いてもらえていることが好調を後押ししていると考えています。LegalOn Cloudは24年の販売開始以来300件近くの機能をリリースしており、これだけのスピードで進化しているリーガルテックサービスは世界を見てもほかにはないでしょう。
――17年からリーガルテックで法務部門の業務を支援しています。この間、顧客のDXへの意識の変化は感じますか。
何らかのリーガルテックを使って業務を効率化しなければならない、という意識を持つ顧客がほとんどで、「使うかどうか」ではなく、「どうやって使っていくべきか」を考えるフェーズに入っています。
新しいテクノロジーの台頭など目まぐるしく事業環境が変わる時代には、変化に合わせて法律も変わり、法務部門の仕事は増えていきます。一方で、人手不足の問題は法務部門も例外ではなく、限られた人数で日々の契約に関するオペレーションを回しつつ、法改正に対応したり、新人を育成したりしなくてはなりません。特に法改正に関しては、個々の企業の努力で対応することに日本経済にとっての価値はありません。当社のようなIT企業が提供するリーガルテックが法改正に適用すれば、導入企業全体が対応できるので、日本企業の生産性を向上する上で意義があります。
ただ、ITツールを導入して業務効率化を図っても、契約書の締結や管理、レビューなど、業務に応じて複数のITツールを使い分けながら作業していてはオペレーションが複雑なままです。実は、LegalOn Cloudのような法務の業務を統合するソリューションの構想は創業時からありました。業務がサイロ化していることは、起業前の弁護士時代から感じていた問題だったからです。LegalOn Cloudは、当社の企業としての体力や開発体制が整ったことでようやく出せた製品となります。
チームとしてパートナーを支援
――LegalOn Cloudの販売状況を教えてください。販売開始から約1年たちますが、基盤ビジネスの展開はどのように進んでいるのでしょうか。
この1年でビジネスの3割ほどまで来ており、25年中にはほとんどをLegalOn Cloudが占めるようになるとみています。
LegalOn Cloud上で提供する機能は、単一のモジュールから導入して徐々に拡張することが可能なため、顧客の要望に合わせた提案をしています。一方で、例えば案件管理のモジュールでは法務部門のオペレーション自体の見直しが可能で、上流からのアプローチが必要になるため、従来のAIレビューツール「LegalForce」や契約書管理ツール「LegalForceキャビネ」と比較して売り方は高度になります。
LegalOn Cloudの提供を開始してから、コンサルティングへの要望が高まったことを受け、専任のチームを組織して、顧客の業務オペレーションの設計を支援する体制を整えています。また、AIレビューにおいても弁護士チームが顧客ごとにレビューの方針を聞いた上でAIに学習させる支援も展開し、上流からの顧客支援を進めています。
――4月にLegalOn Cloudのパートナー経由での販売を本格的に開始しました。
LegalOn Cloudのパートナービジネスについては二つの方向性を考えています。一つはパートナーと伴走する体制の整備です。パートナーとエンドユーザーの間に入って支援するパートナーセールスの営業人員と、より製品や基盤ビジネスに習熟したフィールドセールス部隊をタッグにして、一つのプロジェクトチームとしてパートナーをサポートする取り組みをしており、チームとしてパートナーを支援する体制を今後も強化していきます。
もう一つは、必要な機能だけを導入できる点を生かし、単一のモジュールの導入を入り口にして、その後のクロスセル・アップセルを進めるための商談をお手伝いし、パートナーの基盤ビジネスの展開を支援することです。初動のタイミングから導入サービスの拡充を見据えることで、一つの製品の受注単価を上げられることは、パートナーにとってもメリットになります。
また、将来的な話にもなりますが、コンサルティングの部分でも、当社のリソースがいつか足りなくなることはありますので、ビジネスをより拡大するためにパートナーと連携することはあり得るでしょう。
――今後の製品開発の方針を教えてください。24年追加した電子契約のモジュールは法務部門だけではなく、営業や人事といった部門にも利用されます。法務の業務を最適化するCLM(契約ライフサイクル管理)の外側とのソリューションとの連携も進めていくのでしょうか。
現状ではまだできませんが、外部ソリューションとの連携を進める方針で動いています。顧客が使うさまざまなシステムと連携させる構想がありますので、近いうちに発表できると考えています。
グローバルでのビジネスを加速
――25年1月にRAG(検索拡張生成)を用いた生成AIアシスタント「CorporateOn」の提供を開始し、法務部門だけではなく、管理部門の支援にも事業領域を拡大しました。
普段、顧客と接していると、管理部門が法務や人事、経理も担っており、契約に関してはあくまで業務のごく一部というケースは多々あります。こうした顧客を支援する目的で開発しました。
CorporateOnはパートナービジネスとの相性がいい製品だと考えており、すでに間接販売を開始しています。法務部門向けのサービスとは違い、当社の直販部隊と競合することがないことに加え、パートナーが普段接触している情報システム部門や管理部門にアプローチできます。法務部門へのコネクションがないパートナーにも扱いやすいでしょう。法務向け以外のビジネスに関しては、当社の営業やマーケティングのリソースを十分に回しきれていない部分ですので、パートナーとの協業が不可欠になります。顧客のシステム環境に熟知したパートナーに、RAGの構築など社内知識のAIへの取り込みを担ってもらいたいです。法務向けではない製品の展開は、今後も検討していきます。
――グローバルビジネスの近況と今後の展望を教えてください。
早期にリーガルテック市場に参入できた製品力を生かし、グローバルの競合と比較しても顧客数の伸びはトップクラスです。25年はグローバル向けビジネスをさらに加速させます。従来、商材の面ではAIレビュー機能だけを提供してきましたが、LegalOn Cloudを世界で提供するプロジェクトが進行しています。また、25年からグローバルの開発体制を一元化し、より競争力の高い機能をスピード感を持って提供できるようにします。
ビジネスを成長させ続ける上で、日本のマーケットだけでは人口減少もあり、いずれ限界を迎えます。こうした中、世界でのビジネスは早い時期から志向していました。法律は違えど、法務業務は共通した部分が多く、グローバルで展開しやすい領域です。現在事業を展開している米国や英国以外の市場への進出も見据えた上で、30年までに世界一のリーガルテック企業を目指します。
眼光紙背 ~取材を終えて~
弁護士時代、世界中を駆け巡ったプロの棋士に勝つ囲碁AIのニュースに触れ、衝撃を覚えたことがAIで法務業務の高度化を支援するLegalOn Technologiesの創業につながった。弁護士として法律に関する知識はあったものの、AIは畑違い。創業当初は「AIについて一から学びつつ、エンジニア採用のために一日に何十通とスカウトのメールを送るなどして組織を整え」ながら、会社を成長に導いた。
その成果の証左の一つがAIアシスタントのCorporateOnだ。法律の専門家としてだけではなく、AIに関するプロフェッショナルとして法務部門に限らない、より幅広い領域の課題解決に乗り出した。24年の提供開始以来、主力製品に据えるLegalOn Cloudが順調に成長軌道に乗る中、法務に限らないより広い領域を支援するCorporateOnのビジネスの成功が今後の同社のさらなる成長を後押しするだろう。
プロフィール
角田 望
(つのだ のぞむ)
京都大学法学部卒。2012年弁護士登録。森・濱田松本法律事務所を経て17年3月に独立し、法律事務所ZeLoを開設。同年4月にLegalForce(現LegalOn Technologies)を設立。
会社紹介
【LegalOn Technologies】2017年にAIレビューツールを提供するLegalForceとして創業。24年に契約の締結から管理までのプロセスを一貫して支援する統合基盤「LegalOn Cloud」を提供開始。22年から米国子会社LegalOn Technologies USを中心にグローバルでもビジネスを展開する。