米Snowflake(スノーフレイク)日本法人は新たな局面を迎えている。AI活用の本格化によって、同社が展開するデータ基盤への関心はこれまで以上に高まっており、成長の勢いは加速度を増している。さらに8月には浮田竜路社長が就任し、新たな体制が動き出した。浮田氏は「誰もが使えるデータ基盤としての価値を訴える」と語り、AI機能の充実などを通してデータ活用の民主化を目指す考えを示す。パートナーエコシステムの強化や人材育成を通して、事業のさらなる拡大を図る考えだ。
(取材・文/大畑直悠 写真/大星直輝)
シンプルで使いやすい製品を届ける
──8月1日付で日本法人の社長に就任しました。率直なお気持ちを聞かせてください。
前任の東條英俊氏が6年かけて築いてきた日本法人の成長戦略をいかに継続し、拡大していくかという点で、大役を引き受けた思いです。一方で、入社して5年目になり、東條氏の横で共に歩んできたので、市場やチームのことは理解しています。日本法人のさらなる成長に弾みをつけるのが、私の役目だと考えています。日本がけん引するアジア太平洋地域の成長率はグローバルより高く、好調です。日本法人は6年連続で成長を続けており、特にこの1年は顧客のAI活用が進んだことがこの流れを後押ししています。今後の当社の成長でもAIという文脈はやはり大きいとみています。
──AIを活用する上での顧客支援を教えてください。
「データ戦略なくして、AI戦略なし」というメッセージを出しています。データを最大限利用して顧客のビジネスを進化させるという目的のためにAIが有効だと考えており、AIをデータ活用戦略の一部として捉えることが重要です。自然言語でデータを取得できる「Snowflake Intelligence」や、データの準備や分析を自動化する「データサイエンスエージェント」といった機能を用意し、AIを通して誰もがデータを活用できるように支援しています。
またAIを生かすには、品質が高く整ったデータ、それを扱える人材、実業務に根ざしたユースケースが重要になります。データやアプリケーションのマーケットプレイス「Snowflakeマーケットプレイス」で社外にあるデータも取り込みながらAIを高度化できる点も当社の特徴です。
グローバルでは、当社製品上でAIや機械学習を利用する顧客は半数を超えていますが、国内では30%強にとどまっています。これを2026年までにグローバルと同じ水準まで引き上げます。PoC(概念検証)にとどまらない本格運用フェーズへと顧客を導きます。
──データ基盤として、競合に対する優位性はどのような点にあるのでしょうか。
シンプルで使いやすい製品を市場に届けることを使命としている点です。いかに優れた製品でも複雑で導入が難しければ顧客に受け入れられません。企業のデータ活用を進める上では、もちろん職人のような専門人材は重要ですが、彼らが全てを握るのではなく、あらゆる人がデータにアクセスできるようにする必要があります。これを実現する上ではAIとともに、セキュリティーやガバナンスの確保が重要で、ここも当社の強みです。
データ活用に向けた意識は、まだまだ顧客ごとにばらつきはあるものの、積極的に取り組む企業は多いです。当社としても、ただ製品を提供するだけではなく、「SNOWCAMP」というイベントを顧客ごとに開催しており、例えば(Snowflakeを活用した)新しいインサイトの獲得や新ビジネスの考案をテーマにしたコンテストを開き、われわれや顧客の経営層が審査員となってデータ活用の機運を活性化させるような取り組みを進めています。
また、データの共有やサードパーティーのデータの取り込みのしやすさは当社の最大の特徴だと考えています。複数組織間であっても、必要なタイミングで必要な情報を集められることが競合優位性だと考えています。
データとデータ、人と人をつなげる
──今後、顧客のデータ活用をさらに進めるために、どのような施策を用意しますか。
自社内の知見だけではやはり限界があるので、コミュニティーの存在は重要です。異なる業界や同じ業種の企業がどのように当社の製品を使い、成果を出しているかが分かれば、自社でもやってみようという刺激になります。
コミュニティーの拠点になっているのが、24年4月に移転した東京・八重洲オフィスです。すでに9000人以上が訪れ、間もなく1万人に達します。開発者や業界ごとのコミュニティーがあり、これを活性化したり、トレーニングを積極的に提供したりしています。顧客やパートナーがデータやAIの活用の未来を思い描く共創の場として、今後もこの施設を使い倒します。データとデータをつなげるのはもちろん、人と人をつなげるのも当社の役割だと考えていますので、顧客と顧客、顧客とパートナー、パートナーとISVなどいろいろな人が交流する場を提供していきます。
──今後の販売戦略を教えてください。
業界別のアプローチを強化します。先述したコミュニティーを業界別で盛り上げたり、海外の成功事例をしっかりと共有したりします。業界ごとに固有の課題をわれわれがしっかりと把握し、顧客と同じ目線に立った営業を推進し、顧客の現場に即した実践的なユースケースを提供していきます。また、新しい領域として、公共向けのビジネスの確立にも取り組みます。
日本固有の課題に対応した事例の発信も推進します。一例として、卸業者が間に入ったビジネスモデルを持つ顧客において、当社製品が活躍しているケースが挙げられます。海外では生産者と消費者の間をつなぐデータ活用ができればいいのでシンプルな場合が多いです。一方国内では、卸業者と店頭在庫の双方を見ながら生産者は判断する必要があり、当社の基盤を用いて複数組織間でデータ共有することで最適化が図れます。
パートナーと地方へ拡販
──パートナーとはどのように連携していきますか。
既存のパートナーとの関係強化はもちろん、新しいパートナーの獲得も目指します。具体的には地方のカバレッジを上げ、公共や大学といった顧客の獲得を進めます。また、当社の製品は業界・業種や、企業規模を問わずに利用されています。中堅・中小企業向けの拡販も期待しています。
既存パートナーに対しては、当社製品の有資格者数を増やすことが重要だと考えています。拡大する需要に追いつくために、当社製品を扱える人材を増やさなければなりません。体系化されたトレーニングプログラムを提供しており、25年に入門者向けの認定資格「SNOWPRO ASSOCIATE」の提供を開始しました。4月には取得を支援する無料のハンズオントレーニングの提供も開始し、すでに1000人以上の顧客やパートナーが受講しています。今後も当社の製品に関する入り口として活用していただきたいです。
──今後のさらなる成長に向けて、課題はありますか。
新しい機能を次々と追加しています。新機能で顧客のどのような課題を解決し、既存のビジネス環境がどう良くなるかをかみ砕いて伝えられる営業をつくっていきたいです。当社はまだまだチャレンジャーであり、顧客の期待にしっかりと応えられるように組織を強化しなければならないと考えています。
グローバルの売り上げの内、10%をアジア太平洋地域が占めるというのが米本社から発信しているメッセージであり、これを達成するには、日本法人が大きく引っ張っていかなくてはなりません。国内企業がデータやAIをフルに使えるような“わかりやすさ”を届けるために、パートナーやISVともしっかりと連携することが重要になるでしょう。
眼光紙背 ~取材を終えて~
新たにリーダーシップを担う浮田竜路社長は、日本法人の設立から1年後に入社し、国内でのビジネス拡大に貢献してきた。8月に開いた就任会見の際、前任で、日本法人の第1号社員でもある東條英俊氏は「社内のことはもちろん、顧客のこともよく理解している、第2段階目の成長をけん引してくれるリーダー」と評していた。
浮田社長が今後の成長で重視しているのは「現場力」。誰もがデータを基に業務を遂行する未来を実現する上では、データサイエンティストのような限られた人材だけではなく、さまざまな業界・業種の現場の従業員の課題を理解したユースケースを示さなければならないと考えている。これまで以上に現場に寄り添った営業の推進で、同社の第2章を切り開く意気込みだ。
プロフィール
浮田竜路
(うきた りゅうじ)
米Adobe(アドビ)日本法人などで要職を経た後、2021年に米Snowflake(スノーフレイク)日本法人で執行役員・第二営業統括本部長としてセールスチームを統括。25年8月から現職。
会社紹介
【Snowflake】米Snowflake(スノーフレイク)は2012年に米カリフォルニアで創業。クラウドベースのデータ基盤を提供する。グローバルでの顧客数は1万1000社を超える。日本法人は19年に設立。