国産PCメーカーとして、品質の高い堅牢な製品を生むものづくりをしてきたVAIO。PC事業の売り上げの約9割を占める法人向けでは、業務の生産性向上などに寄与し、企業から価値を評価されてきた。新たに就任した糸岡健社長は、ノジマ傘下となったことを機に「これからは『クオリティー』だけでなく『スピード』『ユニーク』の3本柱を成り立たせて進化していきたい」と意気込みを語る。
(取材・文/下澤 悠 写真/大星直輝)
収益は後からついてくる
――ソニーからの独立前後から、低迷期を経て再び成長軌道に乗った自社の歴史を内側から見てきたかと思います。その流れを踏まえ、今後の中長期的なビジョンをどう考えますか。
社長に就任した際、従業員の皆さんには「新たなる理想工場を築きたい」とのメッセージを伝えました。ソニー創業者の井深大が記した設立趣意書には、終戦後の焼け野原から立ち上がり、日本を良くするのだという思いが綴られ、そこに「理想工場」という言葉が出てきます。私が入社した頃のソニーは「家電のソニー」として時代を築いていた企業で、やはり原点は「ものづくり」にあったと思います。昨今のソニーは業態を変え、違うかたちで世界的な企業となっており、すばらしいと感じています。ただ、われわれは、ものづくりのDNAの部分を継承し、新しいかたちで、ものづくりをもう一度輝かせたい。そうして成長し、日本の製造業に活気をもたらす存在となることを目指して、中長期的に取り組んでいきます。
これは社長になってから考えたことではなく、元々持っていた思いです。2014年にVAIOが独立したときからずっと、今後会社として何をしていけば、自分にとっても従業員のみんなにとっても一番力を発揮できるのかと、さまざまなことを考えてきました。内からエネルギーが湧き出てくるような、自分たちが得意かつやりたいことを突き詰めたとき、原点回帰してものづくりのDNAに行き着きました。
――一般的には、PC事業は世界的な規模がないと収益性を高められないとされます。国内メーカーがさらに収益を上げられるビジネスにする道筋はありますか。
まず「規模がないと収益を上げられない」というのであれば、われわれはもういないでしょう。「数と価格で勝負するのか」という点が、独立以降の試行錯誤のポイントでした。われわれはその土俵から離れ、市場のシェアを追うのではなく、製品の価値を認めてくださるお客様に向けて製品を提供するスタイルを取り、期待に応える努力をしてきたつもりです。それはこれからも変わりません。
もちろん今の市場シェアはとても小さく、これから伸びていけばある程度増えるかもしれませんが、それは後からついてくるものです。そうではなく、社内では「マインドシェア」と表現していますが、製品に対してもっと「すごいね」「いいね」と喜んでもらえて、お客様の中での存在感が今まで以上に大きくなることを目指しています。安値を争う価格競争はしませんから、結果的に収益がついてくるはずです。
販売後の「つながり」が武器に
――キッティングなど、PC購入後の導入や運用を支援するサービスを提供しています。ビジネスの拡大にどのような効果をもたらしていますか。
われわれは日本に工場を持ち、メイドインジャパンでものづくりをしています。そのようなメーカーにとって、製品の販売後にもお客様と直接つながり続けられるサービスには、非常に大きな意味があります。
まず、やはりトラブルは起きてしまうものなので、その際にメーカーが直接問題を解決できれば、お客様は大きな安心感が得られるでしょう。そして、トラブルについてメーカーが直接情報を取れるのも、実は大きな武器になります。同じトラブルがほかのお客様にも起きていないかすぐにチェックしたり、次の製品開発に生かしたりできるからです。
長野県安曇野市の本社にはサービス部隊、品質保証の部隊、そして設計・開発の部隊が一緒にいるので、起きたことに対してすぐアクションを取れます。内部では「高速フィードバックループ」と呼んでおり、これがお客様にとってもわれわれにとっても非常にメリットが大きいと考えています。
――現在はスタンダードなモバイルノートPCで品質・性能・デザインを追求されていますが、糸岡社長がソニーに在籍されていた頃のVAIOといえば、非常に特徴のある多様な機種を展開していました。今後はVAIOの個性をどのように製品や事業に反映させていきますか。
「カッコイイ」という見た目のVAIOらしさの部分は、法人向けにビジネスをシフトしてもずっと大事にしてきましたし、これからもさらに研ぎ澄ましていきたいと考えています。ただ、以前は誰もつくったことのないようなモバイルノートなどをよく出していましたが、そうしたことが現在できるかどうかは、当時から大きく環境が変わっているので未知数ですね。何かやってみたいという気持ちはあります。
スピード重視の姿勢を浸透させる
――メモリー価格の高騰が続いています。生産や販売への影響についてお聞かせください。
価格上昇は、われわれの事業を直撃しており影響が出ています。PCの価格という意味では、26年4月中に値上げを予定しています。データを見る限りは、今後もまだまだメモリーの値段は上がり続ける見通しで、われわれにとってもお客様にとってもうれしくない状況です。しかし、こればかりはコントロールできないので、状況を的確にとらえて適切なかたちで対応を続けます。
一方で、PCの供給におけるリスクに対しては、今のところ長期の部品の枠取りがきちんと生きており、直近では問題なく対応できる見込みです。しかし、さらにメモリー価格が高騰すれば、PCを買う人が減っていく状況に陥り、マーケットに甚大な影響が生じるのではないかと懸念しています。
――ノジマグループ入りしたことで変わることは何でしょうか。
われわれのコンセプトを応援してもらえるノジマのチームに参画させてもらいました。多くの店舗という強力な援護部隊があるので、個人向けにも新たな製品を投入することを目指しています。現在のPC事業の売り上げの約9割は法人向けですが、個人向けの売り上げも伸ばしたいと考えています。
従来の高品質・高性能の製品をつくり続けることはこれからも変わりません。ただ、これまでは会社を軌道に乗せるために、ややもすれば安定志向気味で石橋を叩いて渡る傾向がありました。今後は製造だけなく事業全般において、スピード重視の姿勢も浸透させていきます。
――販売におけるパートナー戦略についてお聞かせください。
当社はノジマ傘下となったことによる強みを生かし、ノジマ店舗での販売拡大を進めていきます。もちろん、ほかの量販店各社とのパートナーシップについては、これまでと変わらず、しっかりと連携します。
法人向けについては、大手ディストリビューターや販売会社を通じた間接商流においても、直販と変わらず、エンドユーザーにVAIOの価値をしっかりお届けすることを最優先に考えています。個人向け・法人向けを問わず、安曇野でものづくりを行う日本のPCメーカーとしての強みを生かし、販売からアフターサービスまで含めてパートナーと協力し、お客様の期待に応えます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ソニーからの独立後、歴代のVAIOトップはほとんどが株主のファンド側の人間が就任していた。自身はソニー時代からPC事業に携わってきた生え抜き。その点は「そこまで意識していない」と話すが、「やはり『輝く製品をつくりたい』と願うのは、原点を知っているからこそかもしれない」とも思っている。
「原点を知るからこその、自身に求められている役割は何か」と尋ねると、「独立前を知る世代はもうじきいなくなる。会社はやはり人であり、私以上にVAIOを愛してくれる若手を育成できるかが輝き続けるためのポイントだ」と返ってきた。こだわり抜いた製品をこれからも届けるため、その目は未来を見据えている。
プロフィール
糸岡 健
(いとおか たけし)
甲南大学理学部経営理学科卒業後、1992年にソニー入社。96年のVAIO事業部門立ち上げ期からのメンバー。2000年から4年間、欧州VAIOビジネス立ち上げのためにベルギー赴任。帰任後は経営企画マネジメント、設計プロジェクトマネージャーなどを歴任。14年VAIO独立に参画。19年9月に取締役執行役員常務オペレーション本部長。24年6月取締役執行役員常務社長室長・品質保証担当。25年12月から現職。
会社紹介
【VAIO】ソニーによる日本産業パートナーズへのPC事業譲渡に伴い、2014年に設立。25年にノジマグループ入り。25年4月から東京本社・安曇野本社(長野県)の2本社制をとり、安曇野本社で開発・製造などを担い、東京本社で顧客へのサポートを強化。国産PCメーカーとして、PCや関連製品・サービスの提供、サポートを行う。従業員数は約370人(25年4月1日時点)。