米Cohesity(コヒシティ)による米Veritas Technologies(ベリタステクノロジーズ)のデータ保護事業の買収から約1年半が過ぎ、日本法人であるコヒシティジャパンでも、組織や販売戦略の統合を経て、国内ビジネスを本格化するフェーズに入った。1月からかじ取りを担う田中良幸社長は「データマネジメント基盤を提供するベンダーの責任として、データのセキュリティーやレジリエンスまで含めた価値を提供する」と強調。バックアップも含めたセカンダリーデータを取得し、一元的に保護・管理するデータ基盤「Cohesity Data Cloud」を、生成AIのためのデータ活用基盤として国内市場に訴求したい考えだ。
(取材・文/大畑直悠 撮影/大星直輝)
AI時代に統合基盤で挑む
――ベリタステクノロジーズとの統合を経て新生コヒシティとなりました。
IT業界に長くいる中で、社長就任の以前からコヒシティもベリタステクノロジーズもよく知っていましたが、歴史や守備範囲など、特徴が違う2社が統合されることで、どのような方向性を目指すのか、興味を持って見ていました。
両社の統合がマーケットのニーズに合致するタイミングであったことが重要だったと考えています。生成AI時代にデータの保護から活用まで担える当社の役割は重要になっており、このタイミングで社長に就任したことにわくわくしています。国内企業を新しい時代にお連れするための基盤としてCohesity Data Cloudの統合環境を提供していきます。
――ビジネスの近況をうかがいます。特に好調な領域はありますか。
一番引き合いがあり、当社としてもフォーカスしているのはデータセキュリティーの領域です。昨今のサイバー攻撃の脅威が高まる状況では、データの侵害で企業の存続さえも危ぶまれていることが誰の目にも明らかになっています。
かつてはバックアップさえ取っていれば大丈夫と考える経営者もいましたが、昨今では、サイバー攻撃によってバックアップそのものが機能しないケースが多発しています。当社の基盤はデータマネジメントまで担うものであり、なおさらデータセキュリティーには注力しています。
ベリタスの経験値を生かす
――ベリタステクノロジーズと統合したことによる強みを教えてください。
ベリタステクノロジーズはバックアップソリューションとして、長年にわたり定番となっている製品の一つです。これは大量のデータを長い時間、保持してきた経験値があることを意味します。これにコヒシティの技術も掛け合わせることで強みが生まれます。
データをセキュリティーやレジリエンスを確保した状態で保持しつつ、そのままAIレディーデータとして活用可能になります。データの保護や回復からマネジメントまでを全て兼ね備えている点は唯一無二です。
ベリタステクノロジーズの経験値や実績が伴っているために可能になるのは、「今からこれをしましょう」というかたちでの提案です。昨今の攻撃状況を見ると、複数年をかけたシステムの導入を待っていられないケースもあります。当社としては顧客のシステム環境の中で危険な部分から優先順位を付けて少しずつでも変えてもらい、必要に応じてAIで使えるデータにする提案をしています。
Cohesity Data Cloudのプロジェクトは、バックアップだけではなく、データセキュリティー、データ活用と幅広い領域に広がりますが、現実的なアプローチは顧客の状況に応じて段階的に導入することだと考えています。大手SIerなどのパートナーが顧客に伴走しつつ、企業のデータ全体をリカバリーも可能なセキュアな状態にして、生成AI活用につなげるという最終的なゴールに向かっていきます。
――ベリタステクノロジーズ製品をバックアップ用途で利用してきた顧客にとっては、Cohesity Data Cloudで製品のカバー範囲が一挙に広がることになります。データマネジメントまで一体的に価値を享受するニーズはどれほどありますか。
顧客のニーズはバックアップに対してではなく、BCP(事業継続計画)といった観点になっており、セキュリティーも一体となった計画の中で当社製品が求められています。
着任してから重点的に取り組んでいるのはCxO層に対するアプローチです。事業を見渡す責任者にとって、BCPは喫緊の課題であるため、当社の一体的な製品アプローチに対しても高い関心を寄せてくれています。
――Cohesity Data Cloud上のデータから直接、インサイトを取得できる生成AIソリューション「Cohesity Gaia」の国内ビジネスの現状を教えてください。
Cohesity Gaiaに関してはまだこれからという段階ではありますが、すでに複数のプロジェクトが進み始めている状況です。Cohesity Gaiaの特徴はオンプレミスでも使える点で、閉じた環境で利用したいという国内企業の要望に応えるものとなっています。オンプレミスでGaiaを展開するための認定済みサーバーを提供するハードウェアベンダーと連携して、国内市場の開拓を進めています。
――販売施策では特別価格のオファーや他社製品のリプレースを推進するキャンペーンを打ち出されています。目下の課題は新規顧客の獲得なのでしょうか。
既存顧客に段階的に製品の適応範囲を広げてもらうのはもちろんですが、より幅広い層へのアプローチを加速したいと考えています。今やらなくてはならないデータ保護やサイバーレジリエンスに取り組み始めてほしいという思いです。
コヒシティの認知度を上げる狙いもあります。ベリタステクノロジーズはバックアップベンダーとしては広く知られており、他方でコヒシティはデータセキュリティーやセカンダリーデータの活用を創業時から訴えているものの、そのメッセージが十分に伝わっていないと感じます。ただ、先述のようにデータセキュリティーやデータマネジメントへのニーズが高まる中で、当社が活躍できるタイミングが訪れており、国内市場での知名度を高めていければと考えています。
このほかの販売戦略では、大企業を販売ターゲットに据えた拡販を進めます。象徴的な事例をつくることで当社の統合基盤の価値を市場に浸透させます。加えて、政府機関といった公共への導入も狙います。大規模組織向けのデータ保護に関しては、ベリタステクノロジーズが長年、信頼性を証明してきた知見があるので当社にとって得意な領域と言えます。もちろん中堅・中小企業の顧客にも活用されているので、ここはパートナーとタイアップしながら継続して取り組みます。
顧客やパートナーと信頼を分かち合う
――パートナー戦略はどのように進めますか。
パートナーの中でも、バックアップだけではなくセキュリティーも含めて顧客に提供するためのスキルの差はすでに埋まってきていますが、今後も顧客の要望に一体的に応えるための連携に取り組みます。
製品面ではさまざまなプレイヤーとの協業がグローバルでも発表されています。直近ではAIエージェント基盤の米ServiceNow(サービスナウ)、オブザーバビリティー基盤の米Datadog(データドッグ)、アイデンティティーの脅威に対処するセキュリティー製品を展開する米Semperis(センペリス)といった企業との連携をアナウンスしています。もちろん当社だけで、全ての領域を担えるわけではありません。データマネジメントを使命とするベンダーとして、顧客の環境に点在するソリューションの中からデータを取りまとめ、保護することが重要です。
――中長期的な目標を教えてください。
今更ながらと思われるかもしれませんが、ブランディングの強化が目下の課題であり、時間をかけて取り組む必要があります。「データマネジメント、データセキュリティー、サイバーレジリエンスと言えば、コヒシティ」となるようなメジャープレイヤーとして国内でも認知されるようにします。これには信頼が伴わなければ実現できません。顧客やパートナーと信頼を分かち合いながら進んでいきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
ビジネスを進めるにあたっては「お祭りのような一体感」を大事にしているという。自身の就任時のイベントの際には、出席者のネクタイの色を自社のイメージカラーにそろえてもらうなど、全員が団結して同じ方向に向かえるように演出した。
データの保護や回復、管理を一元的に支える自社にはさまざまな専門家がいる。またコヒシティとベリタステクノロジーズという異なる文化の中にいた従業員も一つの組織となった。多様な才能が結集し、連帯することで自社の強みは生まれると考える。
自社内だけではなく、他社をも巻き込みながら国内企業に価値を届けたい。コヒシティのビジネス領域が広がる中、競合する企業も増えているが、「たとえ競合であっても互いの特徴を認め合えばパートナーになれる」と話す。顧客が直面する課題の前には文化も企業の違いも関係ない。多くの技術や知見を持ち寄りながら、一丸となって企業のセキュアなデータ活用を支える気概が感じられた。
プロフィール
田中良幸
(たなか よしゆき)
1985年に立教大学経済学部卒業後、ソニーや横河ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)を経て、米GXS(ジーエックスエス)日本法人などで経営トップを歴任。直近では、2017年2月から25年1月までピュア・ストレージ・ジャパン(現米Everpure日本法人)の社長を務めた。26年1月から現職。
会社紹介
【コヒシティジャパン】米Cohesity(コヒシティ)は2013年設立。バックアップやデータセキュリティー、データマネジメント基盤を展開。グローバルで1万3000社以上の顧客を持つ。24年12月に米Veritas Technologies(ベリタステクノロジーズ)のデータ保護事業を統合した。日本法人は19年に設立。