ラクスは、社内でのAI活用による生産性向上の成果を原資とし、2025年10月支給分からの給与について、全社平均3.0%のベースアップを実施した。現時点での改善効果ではなく、将来のコストダウン効果を踏まえた上で、前倒しで待遇に反映させた。人への投資を強化し、従業員の定着や優秀な人材の獲得などにつなげる狙いだ。
10月21日に開いた報道向けの説明会で明らかにした。ベースアップの比率は管理職で2.2%、一般社員で3.1%となる。
本松慎一郎CAIO
取締役の本松慎一郎・CAIOによると、ラクスでは、ほぼ全社員が何らかのAIソリューションを活用しており、生産効率の改善がみられるという。業務効率化により、将来的に確実なコストダウンが見込めることから、ベースアップに踏み切った。
AIによるコストダウン効果をどのように測定しているかについて、本松CAIOは、1人当たりの業務時間の削減量と、その削減によってどれだけ採用が抑えられたかが目安になるとの考えを示した。
例えば、導入支援の業務において、従来は顧客1社当たり20時間かかっていたとして、1カ月の労働時間を上限に近い160時間とすると、月に8社の対応が限界となる。これがAIによって対応時間を10時間に短縮できれば、16社まで対応可能となり、サービスの質を維持しつつ、従業員1人でこなせる業務量が増加する。これまでは業務量の増加に対して新規採用で人員を増強して対処しており、この分のコストが圧縮できる仕組みだ。
AIによる直接的な売り上げ増加やコスト削減の効果を証明するのは難しいものの、本松CAIOは「人員数に対する影響で効果を見ると、計画に落とし込みやすいという実感がある」と語った。
本松CAIOは「AIの効果がコストダウンにつながり、人間による付加価値が高まることで、待遇にフィードバックするという正のサイクルが起こせるようになっている」と述べ、AIの導入意義を強調した。(藤岡 堯)