米IBM(アイビーエム)は10月26~29日(米国時間)の4日間、米アトランタで開発者を対象にした年次カンファレンス「IBM TechXchange 2026」を開催した。IBMの製品や技術にかかわる6000人を超える開発者が世界から参加し、AI開発環境「IBM Bob」や、買収で加わった「HashiCorp」および「Confluent」ブランドの製品のアップデートなどを発表した。
同社は5月に米ボストンで開催した旗艦イベント「IBM Think 2026」において、企業が“AIファースト”に向かうためのコンセプトとして「AIオペレーティングモデル(AI Operating Model)」を提示したが、今回のTechXchangeではそのAIオペレーティングモデルを現場に実装するために必要な開発環境、特にAIエージェントのスケールや統制/管理に特化したアップデートが多く含まれている。
【Streamhouseアーキテクチャー】
2026年3月に買収した米Confluent(コンフルエント)が強みを持つ「Apache Kafka」「Apache Flink」の技術をベースに、さまざまな企業システムに対してリアルタイムなビジネスコンテキストを提供。データやイベントの変化に応じてAIエージェントの状態をつねに最新に保つ
Kafkaで大規模なデータを高速に移動させ、Flinkでスケールするデータをリアルタイムに変換/加工し、
MCPやAPI経由で任意の環境(リモートオフィスや隔離された工場なども含む)に
ビジネスコンテキストをデプロイすることが可能になる
【IBM Bob】
プログラミングの知識をもたないビジネスユーザーでも自然言語でタスクを実行できる「IBM Bob Desktop」、社内で開発されたMCPツールなどのコンポーネントを発見/共有する「IBM Bob Bazaar」、開発工程全体にセキュリティーアプローチを組み込んだ「DevSecOps Premium Package」などを追加し、開発の生産性を大幅に向上
【IBM watsonx Orchestrate】
AIエージェントの開発元やデプロイ先を問わず、あらゆるAIエージェントを一元的に可視化/管理する「Agentic Control Plane」、外部プラットフォーム(AWSやGoogle Cloudなど)上で構築されたサードパーティーAIエージェントとの連携、デプロイ前後の各段階でAIエージェントを評価/監視する「AgentOps」、セキュリティーとガバナンスをAIエージェントのコントロールプレーンに組み込む「Controls」など
【IBM Integration Intelligence Hub】
AIエージェントによる社内の既存資産(アプリケーション、API、ワークフローなど)の発見や再利用を容易に
【HashiCorp Vault】
2025年2月に買収した米HashiCorp(ハシコープ)の機密情報管理プラットフォーム「HashiCorp Vault」をAIエージェント向けに拡張、AIエージェントへのアイデンティティー(ID)付与、認証情報およびアクセス制御、TPM(Trusted Platform Module)を活用したハードウェアベースのアテステーション(信頼性の検証)、Vaultクラスター全体のシークレット情報を一元的に可視化する「Secure Hub」など
【HashiCorp Terraform】
ハシコープのIaC(Infrastructure as Code)ツール「HashiCorp Terraform」もAIエージェント向けに拡張。人間と機械の双方が読みやすいHCL(HashiCorp Configuration Language)ベースのポリシー言語「Terraform Policy」、Terraformインターフェースでモジュールをセルフサービスで利用できる「Terraform Developer Portal」、コーディングエージェントが利用可能なMCPサーバー「Terraform remote MCP Server」など
旧HashiCorp製品であるVaultとTerraformもAIエージェント向けの機能が拡張された。
Vaultはバージョン2.2にアップデートし、AIエージェントへのID付与やアクセス制御などを実装、
数千単位でAIエージェントがスケールしても統制可能な状況を実現する
【IBM Concert】
AIエージェント型ITOpsプラットフォーム「IBM Concert」において、運用データと意思決定に必要な情報をリアルタイムで統合、脆弱性の特定や影響範囲の把握を支援
10月27日のオープニングキーノートに登壇したソフトウェア担当部門のディネシュ・ニルマル・シニアバイスプレジデントは「AIオペレーティングモデルはAIエージェントをビジネスデータ、アプリケーション、インフラといった企業の資産と接続するにあたって求められる厳格な運用システムであり、信頼性とガバナンスが組み込まれていることが重要だ。AIエージェントの活用は、単につくるフェーズから数千単位にスケールさせるフェーズへと変わってきており、ここで新たな課題が生まれつつあるが、IBMはこの課題解決を支援していく」と語っており、増え続けるエージェントを適切にコントロールすることが“AIファースト”な企業への転身のカギであると強調している。
ディネシュ・ニルマル
シニアバイスプレジデント
また、オートメーション担当部門のタイラー・リンチCTOは、IBMのAIエージェント戦略のもうひとつの重要ポイントとして「サードパーティーも含め、完全にオープンで一元的な管理を実現している。ベンダーロックインを回避し、どんなエージェントであってもセキュアに保護することを約束する」ことを挙げている。
タイラー・リンチ
CTO
今回のアップデートではAIエージェントを管理/統制する機能が多く追加されているが、オートメーション&AI担当のニール・スンダレサン・ジェネラルマネージャーは「AIエージェントをエンタープライズのレベルに引き上げるために必要な機能強化。オープンなエージェントを受け容れるなら、同時に厳格な検証が義務付けられなければならない」と語っており、オープン性の担保とセキュアで厳格な統制をワンセットで適用する必要性を、今後も提唱していく方針だ。
ニール・スンダレサン
ジェネラルマネージャー
その一方で、開発者やビジネスユーザーが高い自由度で利用できるIBM Bobの生産性向上にも注力しており、AIエージェントによるアウトプットを現実のビジネスインパクトにつなげる“AIオペレーティングモデル”に沿った実装を着々と進めていくとしている。
現地で取材に応じた日本IBM理事でテクノロジー事業本部の野村幸平・フィールドCTOは、「今回のTechXchangeでは多くの新しい技術や実装が発表されたが、IBMの製品はエンタープライズグレードの品質を保証するものであり、AIエージェントの領域においてもそのポリシーは変わらない。顧客がもっているワークフローやアプリケーションなどの既存資産を、IBM BobをはじめとするAIエージェントでより価値ある存在に変えていきたい」とコメントした。
IBM TechXchange 2026のより詳細なレポートは近日中に本誌に掲載する。(五味明子)